2012/07/31 by Fancy

雲南視察ツアー2012について:専門家の感想と提言I

白馬雪山自然保護区で、エコツアーを初めて行ったのは2004年ですが、その後の数年間、地域の人々と一緒に様々な活動を行いました。牧場をこれ以上拡大しないことや、一緒に作った山道をみんなで使うことなどについて、村人の合意を得てルールをつくり、またツアー参加者に対する食事やテントの提供には、村人も一緒にかかわるようになりました。さらに、NGOの協力で、保護区のスタッフや地域住民を対象に高山植物に関する研修を行ったり、梅里雪山の明永村と交流し、観光が村にどんな変化をもたらしたかについて一緒に議論したりしました。

しかし、2007年、やっと少しずつ経験を積んできたところ、金糸猴国家公園の建設工程のために、これらの活動の主導者、局長の肖林さんが現場から離れることになり、再び元の職場に戻ったのは、3年後の2010年でした。またゼロに近い状態から始まることになりました。

私たちが白馬雪山と交流を始めたのは、ちょうどこの時期でした。肖林局長をはじめ、保護区のスタッフたちが去年10月に屋久島を訪れ、ビジターセンターの構造や展示の仕方、歩道の作り方やガイドの解説などについて、食い入るように真剣に見ていました。特に、広瀬敏通さんの自然学校に関する発表に対して大いに興味を示して、「保護区でエコツアーをやるとしたら、普通の観光ビジネスではなく、自然学校のように、地域と一緒に、環境教育を行いたい」と、今回、白馬雪山を訪問するとき、局長が日本の専門家に保護区の抱負を語りました。

それに応じて、専門家たちは、白馬雪山で体験したものに基づいて研修を行い、また日本に帰っても、すぐに感想文を寄せてくださいました。どうもありがとうございます!今回は、まず屋久島の小原比呂志さんからのコメントとアドバイスをご紹介いたします。(屋久子)


体験ツアー参加中の小原さん(左)と肖林局長(右)

1、ツアー全体に対する感想(昆明交流会、シャングリラ、白馬雪山、梅里雪山など)

なによりも雲南最奥部に行くことができたという、貴重な経験ができました。地球上の秘境である三江并流地区や、白馬雪山という中国最大の森林保護区を訪れたことの価値は計り知れません。最後の金沙江沿いの豪快なドライブも素晴らしいものでした。

改めて思いますが、訪問者とその土地をつなぐ人の存在は大きいものです。ガイドであれ生活者であれ、人間とのつながりがなければ、往々にして旅行は深みのないものになりがちです。朱さんの存在なくして今回の経験はありませんでした。深く感謝します。また環境教育分野での第一人者である広瀬さんと行動をともにさせていただくことができ、得るものが大きかったです。

シャングリラを中心に雲南深部の観光が始まり、また梅里雪山では氷河観光という珍しい形の産業が行われているところで、いずれも興味深いものでした。梅里雪山に関しては小林尚礼さんの活動と著述によって、第三者も深い知識が得られたという点も重要だと思います。


明永氷河

今回のプログラムは総じて変化に富んだ、内容の濃いもので、世界的に通用する第一級のエコツアーに発展させられると思います。

世界的なスケールの垂直分布を有し、自然と民族文化の多様性を豊かに持つ雲南の旅はあまりにも内容が濃いため、好奇心を強く持つほど、欲張れば欲張るほど消化不良を起こすという贅沢な悩みが起きます。

白馬雪山だけをとっても、その広がりを前にして、ほんの一部にしか触れられなかった、という感覚が残りました。中国最後で最大の現存する自然林だということを実感出来るしかけが欲しいと思います。また高山環境と牧畜が主体の環境のほかに、照葉樹林帯や針広混交樹林帯で、動物の生育を体験できる切り口もあるとより魅力的になるのではないかと思います。

昆明の交流会、白馬雪山・徳欽の研修会では、私は目的を絞り込めなかったように思います。広瀬さんには自然学校の普及という明確な目的があり、中国側にもそれをチャンスとして求めている状況がありましたが、私の方は力不足で自分に何が最も求められているのかうまく把握できず、エコツーリズムの事例発表ということでお茶を濁してしまった感があります。

2、白馬雪山自然保護区への提言

Q:体験に基づいて、保護区の現状を評価し、エコツーリズム的な活動を展開するために、どんな準備が必要か、例えば、マニュアルの制作(ルールづくり)、ビジティングセンターの整備、道路の表記、地図の制作、リーダーやガイドの育成(どんな研修が必要か)についてご意見をください。

A:トレッキングツアー、登山ツアーの場合は、目的を達成するという満足感が必要ですが、スタディツアーやエコツアーの場合はこれらと違い、参加者が主人公としての自覚を持ち、白馬雪山の全体像を把握し理解できたという実感が必要です。

今回のようなプログラムを、他の地域で行われているトレッキングツアーなどと同じにしないためには、コンテンツの充実が重要です。広瀬さんの言葉で言うなら「自然語」を翻訳し良く理解し、消化すること、そしてそれを訪問者にうまく伝えるしくみと、そのための人材を用意することです。

以下にメモ書き的に並べてみます。

○エコツアーコンテンツの制作

1.地図

全体の土地勘をつけ、把握することはツアーを体験する上で非常に大切です。行動用の良い地図、そして、白馬雪山全体を一目で見られる立体地図が研修所などにあると良いと思います。また標高別植生図、土地利用の分布図、地質図なども理解を深めるために有効です。

2.インプット資料「白馬雪山の百科事典」白馬雪山の総合調査から、全体をいくつかの大テーマに分け、興味深いエコツアーソースをまとめます。科学的な究明とそれらのストーリー化を行います。これはぜひ作る必要があります。さしあたって梅里雪山のガイドブックのような本が、白馬雪山にも欲しいところです。

3.「ガイドプログラム」実際に歩くコースを設定して大テーマと小テーマを決め、エコツアーリソースを組み合わせてプログラムを作ります。これが実際のコンテンツの骨組みになります。さらにこれをうまく解説するための「インタープリテーション」の仕掛けを作ります。ガイド技術のほかに、写真解説パネルや、ガイドブック、パンフレット、パワーポイントプログラムなどが使えるでしょう。

※ガイド養成には、次の技術トレーニングを:①上記のとおり「白馬雪山の百科事典」を全体的に学んで理解し、②現場で実際に確認し深め、③ツアーで実際にゲストにあわせて分かりやすく解説する。この際ゲストがどのような環境で暮らしている人かを理解しておくことが必要です。

※牧畜の体験などについては、ある程度のプログラム化で十分だと思いますが、ガイドがゲストと接する際の行動規範(ガイドライン)は必要かもしれません。

○マネジメント

自然保護局は地域内のエコツーリズム全体をマネジメントします。

○白馬雪山でエコツーリズムを推進する目的は何か

これを十分に検討し、関係者間で共有することはとても重要です。白馬雪山の生態系の保護が目的なのか、地域住民の経済的自立が目的なのか、牧畜を中心とする民族の生活文化の維持が目的なのか、金沙江~揚子江~長江流域への水源地保全への啓蒙が目的なのか、国内あるいは省内で自然の大切さを知る人材育成が目的なのか、あるいはそれらの複合目的なのか。

○主催者の設定=誰が募集するのか? 受け入れマニュアル=事前準備の指導

○持続可能な営業と適正規模(生態学的限界 施設の受け入れ可能数 予算・経済的規模)の見極めの必要性

エコツアー実施にあたって最も大切な前提となるのは、入域人数のコントロールです。これは要するに需要と供給のバランス問題です。

需要の圧力が強まると、適正規模を守ることが難しくなりますが、白馬雪山では管理体制が明快なので、入域許可権限さえ確立していれば、コントロールは容易と思われます。また公益性重視で予算的な裏付けがあるので、収益性をあまり考えなくてよいのは運営上の利点です

○アクセス

保護区入口までのアクセスをどうするか

○高地適応能力テスト 高地順化プログラム 高山病対策

※もともと標高の高い地域に住む雲南省の人には利用しやすいと思われますが、上海や北京など低地の人や、日本や欧米などの利用者には、この高地順化や対策が可能かどうかが白馬雪山利用のカギとなるでしょう。


望遠鏡とカメラを使って白馬雪山を登る岩羊の写真を撮る

3、プロジェクトの今後の展開へ提言

徳欽での研修会でも声があがっていましたが、白馬雪山でエコツーリズムを推進するために必要なのは、これらを指導できる白馬雪山や三江并流地区に精通したゼネラリストの専門家だと思います。しかしなかなかそういう人材はいないものです。担当を決め、試行ツアーを重ねながら少しずつ積み上げてゆくしかないでしょう。もし私にできることがあれば、可能なかぎり協力したいと思います。

 

文:小原比呂志

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