2012/05/26 by Matsue

「楽朗楽読」: 一人も取り残されることのないように

「識字障害を持つ子供達は、作文や読書が困難なため成績が良くありませんが、決して頭が悪いわけではなく、その実多くは非常に頭の良い子供達なのです」。蘭紫氏は、北京の車公庄にある「楽朗楽読学習能力開発センター」の事務所で、身近にいながら特殊な存在でもある識字障害児について熱心に語ってくれた。

蘭氏は、公益団体「楽朗楽読」の創始者である。楽朗楽読は、2007年から現在までで、すでに300人以上の識字障害を持つ子供達を支援してきた。しかし、全国で1,500万人、北京だけでも10万人の識字障害児がいることを考えると、自分の業績は全く取るに足りない、と蘭氏は考えている。

ないがしろにされてきた大きな問題

北京の楽朗楽読の事務所を訪れた記者は、言われたとおりに一枚の紙を額の上に置いて、一画ずつ丁寧に「読解」という2つの文字を書いたが、「先生」に叱られてしまった。「どうして裏返しに書いたの?そんなふうに教えた覚えはありません。真面目に書いて下さい」

「これが識字障害児が直面している問題です」と蘭氏は記者に説明した。読み書きは困難だが、決して頭が悪いわけではないため、多くの識字障害児は教師や保護者に理解してもらえないのだ。

識字障害(ディスレクシア)は、小学生によく見られる一種の学習障害だ。識字障害児は、知能は正常または普通より優れているが、読み書きの面で同年齢の子供達についていけない。読解が困難で、すらすらと朗読ができず、頻繁に読み間違えたり行を跳ばしてしまう。そのため読んで内容を理解することがスムーズにできない。また文字がうまく書けず、字形がゆがんでしまったり、字を書き間違えてしまいがちだ。大したことではないように思われるが、このような問題は青少年の成長に悪影響を与えてしまう可能性が高い。中国国内で識字障害について知っている人は少ないのだ。

蘭氏は次のようなビデオを見せてくれた。9歳の文文ちゃんは、学校が嫌いだと言って憂鬱な表情をしている。識字障害を持っているために同年齢の子供達に学習の上でついてゆけず、ストレスを感じているからだ。「一日一日生きるしかないね」。文文ちゃんの顔には、この年齢の子供にはあってはならない憂愁が見てとれる。

文文ちゃんはとても賢く、学校で一番お話をするのが上手な子だ。しかし、識字障害のため、学習の面で困難に直面している。勉強ができなければ自然と自信もなくしてしまい、他の子供達との交流の上でも問題が起きる可能性がある。

蘭氏は、識字障害児はとても頭が良く潜在能力の高い子供達です、と再び強調した。例えば、シンガポールの初代首相であるリー・クアンユー氏は識字障害者で、ケンブリッジ大学で学んでいた際に妻に宛てた手紙の中で、学校の名称の綴りをよく書き間違えた。しかし、これがリー氏の政治界での活躍を妨げることはなかった。また、アインスタインは9歳になるまで文章を読むことができなかたったが、特殊な方法の指導を受けた後に偉大な物理学者・数学者となった。トム・クルーズは、台本でさえ他人に読んでもらわなければならないほどだが、傑出した俳優である。

「最も深刻な問題は、教師や保護者が識字障害児の置かれている情況を知らないことにあります」と蘭氏は言う。「全ての変化は理解から始まります。理解があって初めて彼らを助けることができるのです」

蘭氏は、識字障害の大変さについてより多くの人々に理解してもらうため、北京市内の小学校で100回以上におよぶセミナーを開いている。しかし、教育水準が全国でもトップレベルの北京に比べると、他の都市では識字障害に苦しんでいる子供の数はもっと多く、各都市で楽朗楽読が普及活動を行うには手が回らない。

読むことで人生を変える

2006年、蘭紫氏の出版社は、親子で読書するための図書の選定にかかわる機会に出会った。蘭氏は、その時初めて識字障害という概念に触れたのだった。

幼年時代は人生において重要な時期であり、効果的な読書は子供の一生涯の発展にとって非常に大切だ。蘭氏はある統計を見て驚いた。2004年の北京教育科学院が行った調査研究によれば、児童の識字障害発生率は10%にも上り、全国で1,500万余りの児童が識字障害に苦しんでおり、専門的な援助を必要としている。国内の青少年犯罪者の50%は識字障害を持っており、中途退学児童やネット中毒児童の80%以上は識字障害や注意欠陥障害を患っている。このような子供達を援助できる専門的な機関は余りにも少なすぎるのだ。

この年、蘭氏は自分の出版社を解散し、識字障害児の援助に全力を注ぐ決心をした。香港児童啓発協会等の専門的な機関の指導を受けた後、2007年には志を同じくする数名の友人と楽朗楽読を正式に設立した。

「識字障害を持つ子供達は、病気なのではなく、まして知能に問題があるわけではありません。私達が行う指導は、頭の体操や感覚器官を利用した学習指導によって子供の視覚と運動感覚を調整し、読み書きの能力を高めることが目的です」

蘭氏が見せてくれた資料に、ある子供のテスト答案用紙があった。きちんと書かれた文字は、識字障害児の書いたものとは思えない。蘭氏にとって、楽朗楽読の価値はテストの点数を引き上げることだけではない。教師が読み書きの力を強化するよう手助けすることで、子供達がより容易に学習できるようになるだけでなく、もっと大切なのは子供達が自信を持てるようになることだ。

10歳の火華君は、「ゴッホ君」というニックネームを持っており、最近ちょっとした有名人になっている。ゴッホ君が描いた絵がインターネットに掲載されてから、多くの有名人が彼の作品を高く評価し、作品を発表したいと申し出る出版社や雑誌社から電話もあった。少し前に楽朗楽読のボランティアの一人が彼の絵を100元で購入したが、そのときゴッホ君はお母さんが買ってくれた新しい服を来て、買い手に額縁に入れた作品を手渡しながら恥ずかしそうに「僕の絵はそれほどうまくもないんですが……」と言ったのだ。しかしゴッホ君のお母さんと先生は、彼が内心とても嬉しかったことをよく分かっている。

ゴッホ君は、学校であまり友達ができなかった。授業をちゃんと聞かず、字も書かずに、テストを白紙で提出することが多かった。先生から保護者に呼び出しがかかり、成績が悪いために劣等感を持つようになってしまい、一緒に遊んでくれる友達もいなかった。そんなゴッホ君は楽朗楽読に来たばかりのとき、やはりちょっと内向的で時々どもってしまった。でも、いつも自分から先生のお手伝いをする彼が、実は賢くて優しい子であることを先生達はすぐに理解した。

お母さんによれば、ゴッホくんは学校の授業ではいつも頭を垂れて授業を聞かず、視覚的な集中力と分別の面で同年齢の子供より遅れていたが、絵画にとても興味を持っており、才能があるとのことだった。

ゴッホ君は、美術の授業が大好きだったが、お母さんは息子の成績を良くしたいという一心で、彼が好きな絵画については注意を払っていなかった。ゴッホ君の絵の才能が注目されるようになったのは、楽朗楽読の先生達がインターネットで彼の作品に対する好評を集め始めてからだった。

歩むべ道を探し求めて

海外の交流会の席上で、以前識字障害を持っていたボランティアが自分の学習経験について紹介した。彼は、識字障害と診断された後、タイムリーに学習面での支援を受けることができた。試験の際には特別に大きな字の試験用紙を使い、自分で問題を読むことができないため先生が代わりに読んでくれた。さらに他の生徒よりも1時間解答時間を多くもらえたのだ。彼は、学校に見放されなかったため無事に大学を修了することができたのだ。

米国の学校には、学習障害を持つ全ての生徒を支援する義務がある。生徒が学習障害を持っていると識別され、学習上の特殊なニーズがある場合、政府・社会・学校は、特別な支援を行う法的責任がある。米国政府は、法律上の保障以外にも、識字障害を持つ生徒に特化した費用面でのサポートを提供している。香港では、識字障害児のために使用されている費用は毎年一人当たり2,000香港ドル(約20,500円)にも及んでいる。

これと比べて中国本土では、識字障害児への援助において、まだ長い道のりを歩まなければならない。「子供達は学習過程で特別の配慮を受けることができず、特別な経費の割り当てもなく、専門性のある教師のサポートを受けることもできません。彼らはいつのまにか見放されてしまっているのです」と蘭氏は語る。

楽朗楽読を設立した当初、蘭氏とチームメンバーらは課題研究という名目を以って毎年政府の関連機関からの8万元の研究経費を得、それでやっと教師の基本給をまかなっていた。しかし、援助を必要としている大勢の子供達のことを考えれば、これでは焼け石に水だ。

楽朗楽読は、この業務を長期的に続けていくために、入学生徒5人ごとに1人の経済的に困難な家庭の子供を学費免除で受け入れることにしている。今のところ、ここで指導を受けることができているのは比較的良い家庭環境の子供達で、ほとんどの保護者は、英語のウェブサイトで検索することによって楽朗楽読の中国語サイトを探し当てている。知識レベルがそこまで高くない保護者は、識字障害とは何かを知る手段を持っていない場合がほとんどだ。

ここ何年間に蘭氏が北京市内の大学で行ってきたセミナーが功を奏してきており、より多くの保護者が識字障害に関心を持つようになっている。しかし、経済的に困難な家庭にとっては、1ヶ月数百元の費用でもやりくりをつけることは難しい。「費用が払えないお母さんは、自尊心からそうとははっきり言いませんが、私はとても心苦しく思っています」

識字障害の矯正に最適な年齢は7歳から12歳だ。教育資源の豊さではトップレベルの北京でさえも多くの子供達がこの最適期における指導を逃してしまっていることを考えると、辺鄙な後進地区の情況は想像するのも怖い。子供達が必要としているのは楽朗楽読という一つの団体だけではない。1,500万人もの子供が援助を必要としており、そのためには多くの人とお金が必要だ。楽朗楽読は、友成企業家貧困救済基金会と南都公益基金会から相次いで資金面での援助を受けたが、まだ明らかに足りない。

「最も理想的なのは、海外のように、どんな子供でも取り残されないように政府が資金や法律の面で保障してくれることです。」蘭氏は、来年の両会(訳注: 中国の最高政策決定・立法機関である全国人民代表大会、及び経済界等の代表者や共産党以外の「民主党派」の代表からなる中国人民政治協商会議の総称)に提案を行う予定だ。来年の両会まではまだかなり時間があるが、蘭氏はすでにあちこちで人を頼って全人代の代表者と連絡を取り始めている。蘭氏は、「多くの人々は、識字障害は重要性が明確な問題ではないと考えているかも知れませんが、社会の調和と発展のためには一人の子供も取り残してはいけません。できるかどうかは別にして、とにかくやってみなければならないのです」と話す。

筆者: 欧陽潔、王発財

「社会起業家」雑誌(76-77ページ)より転載

http://www.npi.org.cn/uploads/magazines/npo/2_1967_134233.pdf

 

翻訳:A.K

校正:松江直子

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