2012/05/23 by Matsue

Grammen Creative Lab: 企業と手を携えて行うインパクト投資

バングラデシュのGrammen Creative Labは、世界的に有名な社会的企業で、グローバル企業と共同で、重要な「インパクト投資」(※訳注 経済的な利益を追求すると同時に、貧困や環境などの社会的な課題に対して解決を図る投資)の例をみせてくれている。社会的企業Grammen Creative Labは、3社の企業-すなわち健康食品企業のDanone、衣料品製造メーカーのUniqlo、そしてスポーツシューズメーカーであるReebokと組むことで、インパクト投資の潜在力を十分に示している。

一般の人は、慈善事業と投資はふたつの対立する概念だと思っているだろう。伝統的な慈善事業と社会事業は、企業家が投資で得た利益によるサポートに頼っていることから、金持ちが社会的な償いをしているだけだとの批判をときに受ける。香港の慈善事業もまた、一般的に、伝統的な方法で運営されてきた。すなわち、長年にわたり、社会的に成功した人が寄付という方法によりサポートをしてきたのである。ただ、貧富の格差が日に日に深刻になっていく状況で、格差の世襲や高齢者の貧困といった構造的な問題を金銭的な寄付により解決するのは、既に難しい状況にある。

近年、出現してきた社会的企業は、慈善事業を持続可能な社会事業として発展させはじめている。他方、ビジネスに携わる企業で積極的に社会的責任を重視しはじめた企業も少なくない。これらの企業は、「責任投資」を強調し、「企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)」を進んで引き受けている。これら両者(社会的企業と一般企業)の動きの間には、考え方に重なり合う部分があることから、近年、協力するケースがいくつか見られ始めた。そして、この取り組みは、徐々に「インパクト投資(Impact Investing)」という新しい理念を生み出している。

Grammen Creative Labの由来

Grammen Creative Labは、2009年に設立された。創設者のムハマド・ユヌスは、昨今この資本主義社会がもたらした貧富の格差などの問題について深い体験を有しており、社会的企業の取り組みを通じて根の深い社会問題を解決できると考えている。ただ、彼は、社会が考える社会的企業の定義は非常に狭いと考えている。そこで彼は、自身が設立したGrammen Creative Labを通じて、社会的企業がより長期的な発展モデルを見つけ出せることを期待している。

筆者は、今年(2011年)8月初め、Grammen Creative LabのCEO兼戦略ディレクターであるSaskia Bruysten氏のもとを訪れた。Saskia氏は、今回の訪問のなかで、社会的企業がどのようにすれば旧来の枠組みから抜け出し、より持続可能な運営モデルに邁進できるかを教えてくれた。

フランス Danone社

フランスの健康食品企業のDanone社はグローバル企業で、健康食品を販売し、人類の健康を改善することを経営目標としている。社会的責任を履行しようと志す他の企業と同様、Danoneのマネジメント層は、社会的責任を押し広めるうえで、株主から抵抗を受けたことが少なからずある。これは、利潤最大化を基本とする資本主義社会のなかで、利益を社会的目標に投じることを株主にどのように説得するかが、確かにひとつの大きな難題であるということを反映している。

Danoneのマネジメント層は株主総会を開催し、自由参加という前提でこのような提案をした。すなわち、自分の利益の中からわずかずつ出してもいいという投資家を募ってGrammen Creative Labと共同で独立した基金を設立し、バングラデシュの食品栄養状態の改善と発展を目標とした社会事業を行う、という提案である。

Saskiaは、もし香港の企業家であれば、Danoneの真似をすることはできると考えている。それと同時に、企業のマネジメント層が誠意を持って話しさえすれば、株主を説得することができるとも考えている。香港の社会的企業は、その大部分がまだ初歩段階にあり、株主自身もまた、十分な資金を持っているとは限らない。もし十分にインパクト投資を引き付け、(資金の)呼び水となれば、社会的企業の経営資源不足の問題をさらに改善することができると信じている。

Reebok

Grammen Creative Labと協力をしているもうひとつの企業が、グローバルスポーツ用品メーカーのReebokである。ある研究によれば、バングラデシュの人々は裸足で生活する習慣があるが、これにより多くの人が足への細菌感染を起こしている。合理的な価格の運動靴をバングラデシュの人々のために生産するため、Reebokは自社の科学技術研究開発能力を活用し、現地で調査研究を行ったのち、現地の人々の生活習慣に最も適した運動靴を開発した。Saskiaによれば、Reebokによるこの先導的な計画はかなりの成功を収め、正式に製品として市場に投入される予定だという。

Grammen Creative Labは、現在数多くの国の大学と科学技術面での協力を進めており、Reebokのケースと同様に科学技術のイノベーションを通じて社会問題を改善できることを期待している。香港で、ソーシャル・ベンチャー基金という形で大学と産業界による社会的企業のイノベーション推進を奨励することができれば、香港社会による社会的企業のサポートを十分に率先、推進し、社会的企業はただの福祉事業にすぎないという現在の香港の人々の誤解を正すことができると信じている。

Uniqlo

日本の衣料品メーカーのUniqloについては、現在Grammen Creative Labと共同でバングラデシュに工場を設け、バングラデシュの市民に衣服製造現場での合理的な就業環境と衣料品を提供している。UniqloとGrammen Creative Labの協力においては、生産および運営の全てをバングラデシュで行うことに重点を置いており、生産原材料から生産プロセス、市場運営に至るまで、出来る限り現地の人に任せている。

Saskiaは、このような原則により、バングラデシュで就業機会が生み出されるだけなく、同時に、(労働者が)合理的な就業環境のもとで合理的な賃金を受け取ることができるようになり、さらには、現地の人々に職業訓練の機会も提供されることになると考えている。これにより、彼らは専門技術を身に付けることができ、長期的には彼らの貧困からの脱却をサポートすることになる。Saskiaによれば、この経営モデルは国境や文化の違いという制限を全く受けることなく、その他の発展途上国が参考するのにも適しているという。

(参考:http://www.grameenuniqlo.com/jp/about/

後記

訪問をしている中で、Saskiaは社会的企業には、最も基本的な原則として以下の3つがあることを繰り返し強調していた。

1.はっきりとした社会的目標を必ず持っていること。Grammen Creative Labの目標は、バングラデシュの貧困に苦しむ人々の生活の質を改善することに焦点をあてている。

2.社会的企業はビジネスの原則に則って運営されねばならないこと。損益に係る責任を自社のみで負うことができる段階に達してこそ、理想とする社会的目標を達成する真の能力を有することができる。

3.全ての利益は生産プロセスや製品、労働者の待遇改善のためだけに用いることができ、投資家は当初の投資額の分のリターンを得られるのみであること。

Saskiaにとっての社会的企業とは、社会問題の改善に対して責任感を持つファシリテーター及びプラットフォームである。そのため、彼らの業務は金銭では測るべきではない。こうした方式をとることで、社会的企業のリソースを全て、必要とする人々のために用いることがしっかりと保証されるのだ。

インパクト投資は、まだ完全には成熟していない概念で、例えば、その社会的影響もしくは環境影響は効果的に定量化する必要があり、そうすることではじめて投資家にリターンを提供することができる。Grammen Creative Labは、企業が最も長けている部分を効果的に活用することで、関連する社会問題を改善し、グローバル企業が単に利潤の最大化だけを追求しているという一般の認識を打ち破ろうとしている。そして、インパクト投資こそが、企業の投資財務は財務的リターンだけを単一目標とするという概念を打ち破ることができるのだ。

 

特約記者・尹子信(Peter・F・Drucker マネジメントスクール コーポレートコーチ)

 

『社会起業家』雑誌2011年11月号40~41ページより転載

http://www.npi.org.cn/uploads/magazines/npo/2_1967_134233.pdf

 

翻訳:三浦祐介

校正:松江直子

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