2010/04/21 by GLI Japan

イギリス発Big Issueを日本へ~社会起業が国境を越えて大きくなる秘訣(第7回GliPub@根津開催報告)

2010年4月9日の第7回GliPubは、THE BIG ISSUE JAPAN東京事務所マネージャーの佐野未来さんとスタッフの長谷川知広さんをゲストにお迎えした。ビッグイシュー日本の立ち上げの経緯や、国際的なネットワークとのつながり、またホームレスサッカーについてのお話に、10数名の参加者が熱心に聞き入った。

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ビッグイシューのしくみ

ビッグイシューはホームレスの人の救済(チャリティ)ではなく、仕事を提供し自立を応援するストリートペーパー事業。1991年にロンドンでジョン・バー ド氏が創刊した。質の高い雑誌をホームレスが独占販売することで、彼らの自信と社会的つながりを回復させようというこの試みは大きな成果を上げ、世界各国 で広がりをみせつつある。

「ビッグイシュー日本版」は、2003年に創刊。現在、月に2回(1日と15日発売)、約3万部を発行し、全国12都道府県で約150人のホーム レスの販売者が路上販売している。1冊300円、初回の10冊は会社が無料でホームレスの販売者に提供し、販売初日はスタッフが完売まで付き添う。販売者 は売上金の3000円を元手に2回目以降は1冊140円で雑誌を仕入れ、割り当てられた場所で、販売者行動規範と自分で決めた営業時間を守って販売する。 大きな声を出す人から無言で立ち続ける人まで、販売スタイルは様々だ。ビッグイシュー側は販売手帳を配布して売り上げ状況を把握、新人研修や販売相談を行 い、貯金を促して自立へのステップを応援している。現在までに、販売者の登録数はのべ1000人以上、そのうち100人以上が自力で就労した。

日本版創刊の経緯

2000年以降、ホームレスが増加する中、佐野さんの父、章二さんとそのビジネスパートナーだった現編集長水越洋子さんは、ホームレス問題の研究 会を主催した。その後雑誌の社会起業家を紹介する記事で「ビッグイシュー」のアイディアを知った水越さんは、単身渡英してビッグイシュー・スコットランド 創始者のメル・ヤング氏から話を聞き、深く共感するとともにヤング氏の協力をとりつけて帰国。その会談のテープ起こしをしながら、同じようにこのビジョン に「はまった」佐野さんと、再度二人で渡英。佐野さんは、現地でビッグイシューの販売者が颯爽と雑誌を売り、さまざまな人が買いに来る様子を見て、「日本 の街でも、寝ているホームレスが立ち上がって雑誌を売り始めたらすごい」と思った。ヤング氏は「売る人と買う人がいること」、「行政と警察が協力的なこ と」、「質の高い雑誌を作れるチームがあること」という成功の条件を挙げたが、二人が最も不安だったのは「質の高い雑誌を作れるか」という問題だった。

帰国後、「若者のオピニオン雑誌」をコンセプトに、海外のネットワークを利用した、他では読めない記事で勝負することを決め、章二さんを「二人で 説得」して、立ち上げ準備をはじめた。三人は、大衆受けする記事や世界の社会問題記事で評判の高いビッグイシュー・ロンドンの記事を自由に使わせてもらう ことが重要だと判断し、佐野さんは三度イギリスに飛び、ビッグイシューの創設者ジョン・バード氏と会った。自身がホームレス経験もあり、成功した社会起業 家としてすでに有名になっていた彼は、「俺は間違いのデパートだ。俺の失敗から学んで欲しい」と、日本版の創刊までに2回来日してPRに協力したり、創刊 のための会議に参加して多くの具体的なアドバイスをしてくれた。それは佐野さんたちの大きな支えとなった。

国際ストリートペーパーネットワーク(INSP

2003年秋、ついにビッグイシュー日本が大阪で創刊。15人の販売者が売り始めた。ホームレス問題に注目が集まり始めたタイミングの良さと、メ ディアへの地道な働きかけも功を奏して、多くのメディアから注目され、好調な滑り出しだった。5号は7万5千部売れた。その後、月1回の発行から月2回へ と移行すると、一号あたりの売り上げはしばらく落ち込んだが、現在は平均3万部で、少しずつ販売数は増えている。雑誌の質を高めるのに大きな支えとなって いるのが、ビッグイシュー・ロンドンが中心となって1993年に設立した国際ストリートペーパーネットワーク(INSP)だ。現在はスコットランドに本部 を置き、ホームレス問題に取り組む世界40ヶ国のストリートペーパー100誌が参加するネットワークに成長した。INSPには、ニュース配信サービスがあ り、加盟各誌は週1回国際記事の配信を受け、自由に使うことができる。各誌は皆、質の高い記事をいかに安く手に入れるかに苦労しているが、このサービスの お陰で、マスメディアには上がらない、ストリート目線の情報をリアルタイムで入手できるほか、自分たちの記事も世界に発信できる。路上の現場からの問題提 起は、新たな問題の掘り起こしにつながるなどの成果を上げている。また、INSPは年に一度、総会を開催し、販売者との関係、売上など共通する問題を話合 い、励まし合う場を設けている。佐野さんも2004年に初めて参加し、大きなインスピレーションを受けたという。

ビッグイシュー基金

佐野さんはこの事業に関わるようになってはじめて、日本の社会保障の脆弱さを知ったという。ホームレスになる人の多くは、まさか自分がホームレス になるとは思っていない。持っている貯金やツテをすべて使い果たし、周りの人とのつながりが途切れた結果、路上に出る。生きる気力を失った人はアルコール やギャンブルへの依存に走り、路上に長くいればいるほど、犯罪や病気などさまざまなトラブルに巻き込まれる。さらに、「日本人には、自分が悪いとすべて自 分で抱え込む傾向があり、自己責任論に陥っている。それは自立への障害となる」と佐野さんは語る。ぎりぎりまで助けを求められなかったり、自分に自信がな いために、仕事を探しても就労につながらなかったりするのだという。

ホームレスの人が自立するためには、仕事をつくるだけでは足りない、一度失ってしまた社会とのつながりを回復するためのサポートが必要だと痛感した佐野さんたちは、2007年9月に非営利団体「ビッグイシュー基金」を設立、翌年にはNPO法人化し、有限会社の出版事業と車の両輪で、仕事をつくること以外の支援を行っている。

1.生活自立応援プログラム―普通の暮らしや働くというリズム、そして人や社会との「つながり」の回復を応援。金銭管理、依存症の治療、社会福祉相談など。

2. 就業応援プログラム―それぞれの生き方に合わせた就業支援を行い、IT講座など訓練プログラム、仕事の開拓、就労者へのフォローアップなど。

3.文化・スポーツ応援プログラム―生きる意欲や喜びの創出。ダンス・音楽・サッカーなどのクラブ活動やイベントの開催を応援し、市民との交流を広げる。

これまで、販売者の平均年齢は50歳前後だったが、昨年1年間で新しく登録した人の7割が20~40代、また精神疾患の割合が増えているそうだ。 若くてホームレスになった人は精神的に不安定な人が多いため、基金では販売強化の支援だけではなく、カウンセリング、生き甲斐創出など心のサポートにも尽 力している。佐野さんは希望も感じているという。若い人たちは、楽しみや生き甲斐、戻れる居場所さえあれば、仕事を得られる可能性が充分にあり、現に生活 保護で住所を確保したら、すぐに就職できた例もあった。

今後は、若い人を路上にとどまらせないためにどのようなサポートができるのかをさらに考えてゆきたいという。

ONE GOAL,ONE STEP-ホームレスサッカー

ヨーロッパでは、「アートやスポーツなどの楽しみがあってこそ、人は前向きに進める」と広く認識されている という。2003年、INSPはホームレスによるサッカーのワールドカップを開催した。各国からの参加者の9割がこれによって「人生が変わった」と答え、 7割以上が何らかのアクションを起こしたという調査結果がある。他に類を見ない自立支援プログラムと評価され、現在は財団として独立事業となり、欧州サッ カー連盟はじめ有名企業や財団が支援をしている。ビッグイシュー日本からも過去2回、参加者を送り込み、ほぼ全員が帰国後に就職を果たした。

もともとボランティアでビッグイシューのホームレスサッカークラブに関わっていた長谷川知広さんは、ホームレスワールドカップの参加者の変化を目 の当たりにし、希望や自信を持つことがその人の人生を変えることに感動してビッグイシューに転職したそうだ。「ホームレスはホープレス、その状態からいき なり自立するわけがない。サッカーを通してつくりたいものは、人とのつながり、自分の居場所、チャレンジする姿勢、それが自分の自立につながる」と長谷川 さんは熱く語る。

現在東京と大阪のチームが月2回の練習を行っており、他団体のチームと連携して秋にホームレスカップ国内大会を開く予定だ。この春、他団体主催の 「ホームレスお花見会」でキックターゲットなどを行ったところ、50人もの方が並んで参加したという。ホームレス支援団体だけでなく、今後は引きこもり支 援団体などとも連携し、さまざまな切り口からホームレスの人のことを市民に知ってもらう「しくみ」をつくろうと、ビッグイシュー基金では考えている。

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Q&Aタイムでは10数名の参加者からさまざまな質問や感想が寄せられた。「家族の支えがなくなったら、多くの人が路上にでるのでは」と いう質問に、佐野さんはイギリスの自立支援の考え方を紹介し、「日本では野宿者のみをホームレスと定義しているが、イギリスでは野宿はホームレスの最悪状 況であり、1ヶ月以内に家を失う可能性のある人はすべてホームレスと定義している。これは、路上に出てから精神的なケアも含めて支援するよりも、希望やつ ながりを失う前に、自力で解決出来る力が残っているうちに、何らかの支援をした方が結局は安上がりとイギリス政府が考えているから。日本でもこうなるべき なのでは」と答えた。

ファシリテーターの広石さんは、「ビッグイシューは良い雑誌を作って沢山売るというシンプルな目標を立てたからこそ、みんなの力を集約して成功 し、世界にも移転しやすいモデルとなった。ホームレス問題は世界共通の問題。国内だけでなく海外の文脈で話しをする場があることが大切で、それで突破口が 見つかることもある。国際ネットワークは問題解決のためには重要だ」とコメントした。GliPubの存在意義もまさにそのような場となることであろう。

*(有)ビッグイシュー日本
http://www.bigissue.jp/index.html
*NPOビッグイシュー基金
http://www.bigissue.or.jp/

文責:松江直子

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