2012/03/31 by Matsue

炭鉱の街

この文章の作者は、米国のエイズ予防団体のスタッフで、ここ数年中国の都市における男性の同性愛者グループに対し予防啓発活動を行っている。以下は彼の業務日誌である。
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AさんのHIVの感染との検査結果が出たときには、彼のCD4(注1)は致死的な危険ラインにまで低下していた。実のところ、彼の感染は数年前から明らかであり、いくつもの症状が現れていたにも関わらず、彼はずっと政府の疾病予防コントロールセンター(CDC)に検査に行くことを拒み続けていた。

原木と李さんはこの町のゲイのボランティア団体のリーダー。彼の所属する団体である藍典ワーキング・グループ(注2)は、1年ほど前にHIVの迅速検査(注3)の実施の活動を開始した。Aさんはそのときに、李さんが検査の担当をしたことのある人だった。李さんはこの迅速検査活動を始めたときに、あまり気に留めなかった。「…でも、自分が初めて検査した人が`HIV陽性だなんて思いもしなかった。さらに、2人めも陽性、3人めもまた陽性だったなんて…」

迅速検査では、「全過程での付き添い」が必ず必要になる。HIV陽性の結果が出た場合は、1ヶ月間のサポートが必要になる。李さんの付き添いがあったことで、AさんはCDCへ確認検査へ行く気になった。しかし、思いがけないことに、当時のAさんのCD4は僅か20しかなく、すぐに投薬治療が必要だった。10ヶ月後、彼の状態は大きく改善し、CD4は160まで回復した。こうして、原木と李さんのプロジェクトは1つの命を救ったのである。

李さんは、Aさんの首や背中に赤い疱疹があったのを見た。「実は、僕はそれまで全く感染者に会ったことがなかった。怖がらずに向き合えるかどうかもわからなかった」と、李さんは率直に彼の過去を語ってくれた。「僕は以前はごく平凡に生きていこうとしていて結婚して、子どもを持とうとしていた。でも、その後、人から、原木と藍典グループの活動があることを聞いて、参加してから後、全ては変わった」

李さんの印象は、日の光のような、親切で、充実していて、活気溢れる人というものであり、カミングアウトできない「隠性人群」の1人とは想像もできない。彼の仕事と生活は、このとても保守的な、石炭産業の街にある。しかし、彼は自分が同性愛者であることを家族にも宣言している。中国において、それは、通常では非常につらいことだ。彼は、埃だらけの小さな軽自動車で街中を走り回り、迅速検査を必要としている人々を助けるために空いている時間をすべて使っている。

その中に、小李が助けた24歳のLさんがいる。Lさんは痩せてひ弱な、シャイな笑顔を見せる男性だ。両親の誇りとなるため、父と同じように鉱山労働者になり、朝の5時 半から晩の5時半まで、地底深くで働き、1日に1度も日の光を見ない。
Lさんは自分がHIVに感染したと知り、心中は悔やんでも悔やみきれなかった。彼は一生のうち、たった1回だけ安全でない性交渉を持っただけだった。しかも相手は、一生の幸福をもたらしてくれると思っていた人だった。ゲイの人生は残忍で苦痛に満ちたものであり、彼は全く納得できなかった。彼はまだ将来には結婚をして子どもを生むことを望んでいたが、感染者にそんなことができるのだろうか?

最近検査した70人のうち、14名の陽性だったと原木は言う。中国の統計では、男性同性愛者の平均感染率は約5%。にも関わらず、突然のうちに、彼の助けている人たちの20%がHIVに感染していた。この原木の話は、社会に警鐘を鳴らし、救いを求めているといえよう。
太原は北京から汽車で4時間、彼らのところには3週間行った。筆者は陽性患者同志の話し合い活動を引率し、新たに見つかった感染者をサポートした。人と人とは、互いに学びあい、啓発しあえるはずだ。、安全な環境さえしっかり作れば、グループ討論も効果的なものだと信じている。

我々は原木のオフィスに座り、初めてLさんが自分の話を皆に語ったのを聞いた。筆者は、この子の境遇への同情を禁じえなかった。彼が犯した過ちは、彼が少し愛されたかったから、少し触れられたかったからに過ぎなかったにも関わらず、彼が受けた罰は一生の侮辱だった。「僕はとても僕の父や母へ告げられない、近所の人たちが知ってしまったら…なんて言ったらいいんだ?」

筆者が2度目にグループに会ったときは、Lさんは彼のこの先のことについて話した。彼は、自分の秘密を隠し続けて、結婚しなければならないが、そのプレッシャーというのは重過ぎるだろう。筆者はLさんに、その場にいた他の友人を見るように言った。そのうちの一人は、結婚して、子どもももうけている父親だった。この若干年上の友人は私の促しに従って語った。「僕は一日中、自分に娘に触ってしまわぬよう言い聞かせてるんだ。娘に自分の病気を移してしまうことが怖くて…」

この炭鉱の街は、中国の同性愛者の命運の一つの縮図のようだ。みんな、灰が立ち込める環境の中にすっかり閉ざされてしまい、目の前のことしか見えなくなってしまい、身の回りの話しか聞けなくなってしまっている。しかし、最も暗いところは、勇気と思いやりを持つ人が最も自分の光を放つことができるところでもある。

20日後に、筆者のグループは3度目にLさんと会った。1時間ほど話すと、彼はふいに語った。「僕はもう両親に自分の状況を話したんだ。」待て、待て、みんな異口同音にこういった。「お前、今なんて言ったんだ?」
「親に自分はエイズに感染したって言ったんだ」。実の所、彼の憂鬱のほとんどは、親に知られて心配をかけたくないということだった。それは病気のもたらすストレスよりも大きく、ずっと眠れない夜を過ごしてきた。それにしても、たった三回のグループ討論の間に、彼をこんなに変えることができるなんて、思いもしなかった。

一週間後、私たちはまたグループ討論で会った。思わず「顔色がいいね」と話しかけたが、見かけも好くなったし、口数や笑顔も増えていた。「うん、眠れるようになったよ」
(2011年11月)

注1:CD4細胞は、人体にとって重要な免疫細胞の一種であり、エイズウィルスの攻撃対象。このため、その検査結果は、エイズ治療の効果と患者の免疫機能を判断する際に非常に重要である。健常者のCD4細胞は1ミリ立方メートルあたり500-1600個だが、エイズウィルス感染者の場合はだんだんと、もしくは不規則に減少する。免疫系統が重大な損害を受けたことを表すのは、CD4細胞が200個以下になった時で、さまざまな感染や腫瘍をもたらす恐れがある。

注2:藍典ワーキンググループとは、ゲイに検査を勧めるグループで、このタイプのグループを始める人やメンバーの多くはゲイコミュニティのボランティア。ここ数年、中国の比較的大きな都市のほぼすべてに、このようなグループがあり、エイズ予防活動を行っている。ARFC(AIDS Relief Fund for China)はこのようなグループに資金と技術の援助を提供している。

注3:迅速検査とは、エイズウィルス抗体迅速検査のことで、感染の有無を検査する。伝統的な検査方式は、静脈血を抜き取り、疾病予防制御センターか病院の実験室で検査するため、待ち時間が長い。迅速検査は、指先からとった血、もしくは唾液に試薬を入れて検査するもので、数分から十数分で結果が出るため、潜在的な感染者の流失を防ぐことができる。「優良迅速検査とは、検査の早さだけでなく、人権への配慮も重視する検査で、訓練を受けたボランティアがはじめから終りまで付き添い、相談と各種活動によって被検者の心理的ストレスを軽減する。ARFCが始めたこのプロジェクトは、すでに中国の多くの都市の同性愛ワーキンググループに導入されている。

注4:カミングアウトとは、自分の性的嗜好を公開すること。英語のcome out of the closetより。

注5:話し合い活動はARFCが開発したツールのひとつで、主に同性愛コミュニティに適用される。堅苦しいお説教ではなく、既婚のゲイやエイズに感染したゲイなど、サポートしてくれるグループの中で、直面する問題についてルールに従って討論することで、共に問題を解決することを期す。
文:烏辛堃(Humphrey Wou)AEFC責任者

作者寄稿
編集:張麗坪、李君暉
翻訳:土居健市、松江直子

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