2012/02/28 by Matsue

パンダバ協会―国際プロジェクトから国内団体への転身

2010年6月初め、中国西部の生態環境保護における革新的な市民参加プロジェクトにあたえられる「淡水河谷」賞の授与式が北京にて行われた。(訳注:淡水河谷=VALEはブラジルの資源企業で鉄鉱石生産量は世界最大)

さまざまな賞が頻繁に授与される昨今、この賞に選ばれたからといって特に褒められることもないが、チョモランマ自然保護区パンダバ協会による「パンダバの自然保護とコミュニティ発展プロジェクト」が特別賞を受賞したと事前に関係者から聞き、これがチベットを代表する現地NGOであることが私の興味を引いた。

授賞式の後、チョモランマ自然保護区パンダバ協会の創始者・協会執行会長ツェリン・ノルブ氏と会った。ノルブはチベット族の青年らしい自然な誠実さと開放的な気質の持ち主で、わずか1時間の間に、国際プロジェクトから地元NGOへと変貌を遂げた協会の経緯のすべてを語ってくれた。

「パンダバ」とは3つのチベット語の組み合わせであり、「民の幸せのために働く人」という意味で、もともとはチョモランマ自然保護区で行われたひとつのプロジェクトの名称だった。それは、1994年にチベット自治区林業庁と米国の新一代財団が共同で実施した、コミュニティの持続的発展をテーマとしたプロジェクトで、その過程を通じ徐々にパンダバは発展してきた。財団側は当時、資金を提供しただけでなく、専門家を招へいし、このプロジェクトを専門に担当するチームも設立した。プロジェクト開始から4年後の1998年には、国連から「世界で最も成功した50の持続可能性プロジェクト」という栄誉ある称号を与えられた。このプロジェクトでは、村民に環境保護・基礎的保健衛生・家庭収入の増加などについての技能研修を行う。それによりコミュニティの持続可能な発展モデルを追求し、環境・健康・経済発展のそれぞれの分野における課題に対応し、効果的な業務を大量に展開した。

やがて財団は「Future Generations研究院」と名前を変え、現地行政および事業パートナーの合意のもと、数回のパンダバ研修プロジェクトを次々とおこなったのち、2007年にプロジェクトを終了した。当時、ノルブは保護区のスタッフとしてこのプロジェクトの全プロセスに関わった。

現地の人だけでプロジェクトをやっていけるのか? プロジェクト終了後、ノルブは常にこの問題を考えていた。もしパンダバプロジェクトを続けるなら、そのための仕組みが必要で、それはひとつの運営団体を設立しなければならないということだ。海外には多くの財団やNGOがあるのだから、中国にだってあるはずだ。具体的にはチベットで設立が許可されるかどうか、あるいはその概念や関連政策があるのかどうかだ。

2009年、地元の民間団体を設立するという構想がノルブの頭の中で明確になり、彼は3か月余りの時間を費やしてネットで関連資料を調べた。

「国家民政部社会団体のオフィシャルサイトを見て、自分たちでもこのような団体を設立していいのだとわかりました。国にもこうした政策があるのですが、辺境地区では、多くの人がこの政策のことを理解していません。庶民ばかりか教育を受けた人たちも知らないのです。しかし、中国でNGOを設立しようとするなら、「主管団体」が必要で、政府機関の多くのリーダー層の態度は、“厄介事は少ない方がいいから民間団体は設立する必要はない”という考えです」

「過去において、パンダバプロジェクトはチョモランマ自然保護区でとても成功し、現地行政と受益者から大いに認められていました。民心を得ていたプロジェクトだったのです。しかし、正式にパンダバ協会を登録する時には、やはり多くの困難と問題に見舞われました。でも私はもう心を決めていましたので、とにかく常に努力して友達や郷里の知人、以前の上司に会って支援を求めました。幸いにも少なからぬ人が情況を理解し、民間団体の設立に賛同し支援を約束してくれました。こうしてあちらこちらを駆け回り、ついに心ある人の大いなる支持のもと、主管団体を引き受けてくれる所を見つけました。それがチョモランマ国家級自然保護区管理局でした」

2009年6月29日、チョモランマ国家級自然保護区パンダバ協会が正式に誕生した。これは、チベット自然保護区事業に身をささげた目下唯一の現地民間団体といえるかもしれない。

協会が正式に設立された後、彼らはパンダバプロジェクトの基本精神と方法を受け継いだ。ノルブの言い方を借りれば、「医者を変えても薬は変えない」ということだ。しかしプロジェクトの方向性は多少調整した。1994年、プロジェクトを始動させた時は医療を切り口とした。それは、当時国が行うコミュニティの医療サービスシステムが不十分だったからだが、現在は行政が一連の「農牧民協力医療」という方法を打ち出し、庶民の医療問題を効果的に解決した。庶民の薬代や入院費など、80-95%の医療費は公費から支出される。公共衛生面ではまだ持続的な取り組みが必要だが、医療面からいえば、当時の問題はもう存在しない。

もともとの環境教育をのぞき、パンダバ協会の現在の重点は生態保護とコミュニティの発展である。協会はかなりの精力を費やし、エコツアー人材の育成に取り組んでいる。地元民であるノルブは、旅行は資源であることを地元の人が意識していないことが残念でならない。「チョモランマ自然保護区において旅行業で大金を稼いでいるのは、地元の人ではありません。地元民は自分の故郷で社長となるチャンスを失ったばかりか、よそ者の社長のために働いているのです。地元の環境保護に携わる民間人として、これは残念で不公平なことだと思います。地元民はチョモランマ自然保護区の主役であり、地域を守る主戦力だからです。保護区が大きく発展するためには、彼らの広範で積極的な参加が欠かせないのですから、まず彼らに稼がせるべきです」

ノルブは1996年に仕事を始め、1998年に海外の団体が始めたパンダバプロジェクトに参加し、2000-2005年はチョモランマ自然保護プロジェクトに出向してコミュニティの持続的発展プロジェクトに従事したが、2006年にこの行政の仕事を辞めて、民間環境保護事業を始めた。自分は幸運だとノルブは言う。過去には仕事で何度も国内各地や海外に視察に行く機会を与えられた。もっとも頻繁に行ったのはネパールで、6-7回ほど訪れた。

ノルブによれば、ネパールのエコツアー分野はとても上手くやっている。チョモランマの反対側だが、チベットと違ってエコツアーで稼いでいるのはみな地元の人だ。ノルブはとりわけネパールのトレッキングのプロモーションを称賛している。
ネパールのサガルマータ国立公園内は道がないので、旅行者は自らの足で歩くことになる。そのため、沿線の住民は旅行者にものを売ったり、レストランや旅館を経営したりできるし、そうした設備がなくても、ヤクを使った荷物運びなどで稼ぐことができる。ところがチョモランマ側では、旅行スポットとなれば、行政がすぐに舗装道路を作ってしまうため、交通は便利になるが、沿線住民には収入をもたらさない。

ノルブにはある計画がある。今後、チョモランマ自然保護区の行政担当者をネパールのサガルマータ国立公園に連れていき、現地のやり方を学んでもらうのだ。政策決定者の発展理念と民間のそれを融合させ、生存環境を守りつつ、地元経済も向上させる発展の方法を見つけたいと思っている。

地元の人に旅行業、それも環境保護を考慮にいれた旅行業に参加してもらうためには、関連知識や技能、そして高い意識を彼らが備えることが必要となる。そこで、協会では英語と料理の研修を行っている。英語研修は言葉だけでなく、マナー、環境保護意識、市民参加意識、公共衛生、エコツアーといった内容まで教えている。料理研修は、地元の人が中国料理を作れないという状況に基づいて開講した。受講生からは、「今回の研修に参加して、旅行サービスに参加することで生活の現状を変えることができるとはじめて知りました。今後はレストランを開きたい」、「料理技術を学んだだけでなく、多くの環境保護に関する知識、特にこれまで聞いたこともなかった気候変動や省エネ、二酸化炭素削減などの知識を学ぶことができ、とても勉強になった」といった感想が寄せられた。このほか、協会ではパンダバのメンバーを雲南省のシャングリラや四川省などに視察に出し、他地域がどのようにエコツアーを展開しているかも学ばせている。

筆者はノルブにこう尋ねた。「昨年研修を終えたメンバーは、今何をしていますか?」 彼は、まだ家で農業や放牧をやっていると答えた。そうした状況を回避するため、彼は近々ガマ渓谷エコツアー農牧民合作社を設立し、研修の成果を発揮できる場所にする予定だ。ガマ渓谷はチョモランマ自然保護区内の美しい渓谷で、1921年に一人のイギリス人によって発見された。現在、ここを訪れる国内外の旅行者は次第に増えているが、受け入れ業務は主に旅行社が扱っている。協会としては、この機会に地元の庶民の参加能力を高めたいと考えており、たとえば地元民によるガイドツアーやその途中での飲食サービスなど、旅行社とは違うサービスを提供する予定だ。

「いくつかの国際組織と国内団体が、保護区の住民及び移民に向けた生計プロジェクトを行っているが、失敗するものも少数ではない。あなたはどのようにして、その轍を踏まないようにするつもりなのか?」と私はノルブに聞いた。

「まず、以前のパンダバプロジェクトとの比較から言うと、現在では事業継続の基礎とも言える組織があります。私たちは今後牧民専業合作社も設立する予定です。また料理研修では、受講生のプロフィールを管理し、情報を付近の企業にも伝えます。もし企業に需要があれば協会に連絡してもらい、受講生を推薦するのです。大学や専門学校のように、就職追跡指導サービスも提供します」とノルブは答えた。

「また、よその土地の人が設計したプロジェクトでは、往々にして地元の具体的な状況を理解していないことがあります。たとえば水のない地域に水力発電所を建てるといったように。これは普通に発生していることなのです。私たちは地元の団体ですから、あるプロジェクトの設計に当たっては、現地のニーズをより理解しています。そこの方言で意思疎通を図ることもできます。私は地元民で、家はチョモランマの近くですから」

パンダバプロジェクトからパンダバ協会に至るこの20年あまりの道を振り返り、ノルブはこう言った。「かつては、資金援助者や研修指導者がパンダバ(民の幸せのために働く人)であり、地元に私のような緑の種を残した。今後は協会がこの緑の種を保護区のすみずみに撒くことを推進しなければならない」

ツェリン・ノルブ連絡先:
norbu@pendeba.org,info@pendeba.org

作者:劉海英

中国発展簡報 CHINA DEVELOPMENT BRIEF 2011年秋号より編集して転載

編集:李君暉

翻訳:松江直子

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