2012/02/18 by Matsue

【宮崎いずみエッセー】固始県から見る中国(3)―「農村回帰?」

北京在住の情報ボランティア、宮崎いずみさんの好評シリーズ「固始県から見る中国」、久々の登場です。中国の農村に吹き始めた新たな風に、ぜひご注目ください。
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以前、農村の過疎化現象を「末代農民」をキーワードとしてご紹介したのですが、最近は農村回帰的現象がみられるようになったので、お伝えしたいと思います。
この春節(旧正月)、夫が河南省固始県に一人で帰省してきました。帰省するなら春節とわかってはいるのですが、固始県は中国の北方と南方を分ける淮河のすぐ南、一応南方ということで、農村の家には暖房設備がありません。とはいえ南方の一番北、日本の関西と同じような気候で、氷点下になることもあり、やはり冬は暖房がないと暖房に慣れた体にはかなりきついというのが実情です。今回私と娘は日本へ、固始県へは夫一人の里帰りとなりました。(以下の写真は以前里帰りした際に撮ったもの。)

 
写真1:実家付近の川(鵜飼)   写真2:夫の実家(中央の線香は旧正月、天に捧ぐためのもの)

 
写真3:実家の応接間                            写真4:実家の寝室

写真5:実家の台所(かまどからの煙の中での調理)

さて、そんなわけで一人で帰省した夫から聞いたのが、最近農村戸籍へと変更しようとしている都市戸籍の人が出てきたという話。

中華人民共和国建国時からの制度では、人々は生まれたときから都市戸籍と農村戸籍に分けられ、戸籍にしばられて生きてきました。農村戸籍では、農耕用の土地は分配されるものの、都市のような社会保障制度が確立されておらず、医療保険も年金もありませんでした。そのうえ、以前までは農業税も納めなければならず、生活保障もなく、細々とした農業だけでは経済的にも苦しい状況に置かれる場合がほとんどでした。都市戸籍のほうが進学、就職などさまざまな面において魅力的で、これまでは多くの人が農村戸籍を都市戸籍にするために必死になることはあっても、都市戸籍を農村戸籍にしようなどという人を見聞きすることなどありませんでした。
しかし最近、中国では農業・農村・農民問題を解決するための政策が次々と実行され、農村の生活の様相が変化してきました。

まずは、農業への補助金。作物によって金額は異なりますが、農地1ムー(0.067ha)につき年間15元~40元程度の補助金を国からもらうことができるようになりました。以前は役所を通して給付されていたため、全額が農村の人の手に渡るとは限らなかったのですが、今は直接銀行口座に振り込まれるため、確実に受け取れるとのこと。義父・義母の場合は30ムーほどの土地で年間400~500元ほどを受給しています。

また、分配されている土地ですが、農村戸籍の人は国から農地使用権を与えられていますが、今年からその使用権について証書が交付され、権利が保証されるのだそうです。また、これまでは何の証書もなく、役場の帳簿のみで管理されていたのが、この証書交付により農地使用権の個人取引にも道が開けます。
そして、農村部の医療保険、年金も完備されてきました。医療保険が受けられるようになったのに加え、60歳以上の高齢者に今年から固始県では毎月60元程度の老齢年金が支払われるようになるそうです。

これらのうえに、生活環境で言うならば、農村部のほうが広い住宅が得られますし、空気もいい。食べ物も安心。

こんな状況を見て、農村から都市に出て都市戸籍を得た人でも、農村戸籍に戻りたいと考える人が出てきたようです。実際、夫の親戚は1万元以上も費やし(1元=約12.5円/2012年2月15日時点)、コネを使って自分の戸籍を以前住んでいた農村の戸籍に戻してもらおうと手続き中だそうです。

もちろん、この例は真に農業に従事し、農村の発展に寄与しようという意識ではありません。しかし、これは農村の生活に安定感が生まれ、魅力が出てきたということを示しているでしょう。以前の状況では、自分が農業でかなり稼がないかぎり、生活が保障されなかったものが、今は農村に普通に住んでいるだけで生活は維持できる、そんなふうに変わりつつあるようです。今後農村へのUターンが増えてくるかもしれません。

文と写真: 宮崎いずみ

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