2012/02/13 by Matsue

【魏偉】農民工支援組織「リトルバード」訪問記

CSネットのボランティアMさんが、中国の農民工支援組織「リトルバード(小小鳥打工互助熱線)」の北京事務所を訪問し、レポートを寄せてくださいました。ありがとうございます!

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2011年12月に中国を訪れた際、小小鳥打工互助熱線の北京事務所(以下、リトルバード)を訪問し、担当者の方々と交流する機会がありました。以下では、その際に伺った話を交えながら、中国の農民工や彼らをとりまく問題、リトルバードの活動の内容を紹介したいと思います。インタビューをご快諾頂いたリトルバードの皆さん、ご紹介頂いたCSネットさん、ありがとうございました。

■農民工とは

(1)改革開放以後、都市への流入をはじめた農民工

農民工とは、中国の農村から都市にやって来る出稼ぎ労働者のことです。毛沢東が大躍進を開始した後の1958年に、農村と都市の戸籍は別々のものとされ、農村と都市の間の移動は制限されました。しかし、1978年に鄧小平により改革開放路線がとられて以来、この制限が徐々に解除されるようになりました。農業だけ得られる収入は、都市での仕事に比べて少なかったため、多くの農民が、より多くの収入を得ようと職を求めて都市に流入し、農民工となったのです。

(2)低い水準にとどまる農民工の賃金

彼らは、工場や建築現場のほか、家政婦等のサービス業の主な担い手となった一方、彼らの賃金は、比較的低い水準にとどまっています。

統計データはありませんが、国家統計局や中国人民銀行などの調査によれば、2009年の月平均収入は1,300元から2,000元程度(調査により異なる)となっています。

なお、リトルバードの話によれば、現在の北京の場合、紡績工場や建築現場、サービス業(警備員やホテル従業員など)が彼らの主な就業先だそうです。賃金はケースバイケースですが、北京市中心部から少し離れたエリアの服飾工場の場合、ほぼ毎日、1日12時間以上働いて、1カ月で6,000元~7,000元(72,000円~84,000円)程度だそう。ちなみに、大卒新入社員の初任給は3,000元程度とされています。上記の例の場合、賃金総額だけで比べれば低くはないかもしれませんが、労働時間や労働環境の優劣、福利厚生の有無などのも考慮すると、必ずしもそうではないでしょう。

【上京して働く農民工の人たち】

(資料)中国網絡電視台ブログ、世界商業報道(World Business Report)より引用

■農民工の変化

このように、豊富かつ安価な労働力として、中国経済の目覚ましい成長を支えたとも言える農民工ですが、近年は様々な変化が生じてきています。

(1)上昇が続く農民工の賃金

例えば賃金。労働者の平均賃金に関する統計によれば、2000年代に入ってから、彼らの平均賃金は10%を超える勢いで上昇を続けています。製造業など、他の国にも製造拠点を有している企業からすると、アセアン諸国などの賃金と比べれば、中国、とりわけ沿海部の賃金水準はそれほど魅力的なものではなくなりつつあります。

(2)世代間で異なる意識~ 一代目農民工vs新世代農民工

また、農民工の意識も変わりつつあります。改革開放以降に都市にやって来た農民工(一代目農民工)の場合、都市は単純にお金を稼ぐ場所という意識で、働ける限りは収入を故郷に送り、その後は帰郷するというスタイルが主流でした。しかし、近年の若い農民工(新世代農民工)の場合、都市は生活の場所という意識が強まりつつあります。彼らは、都市での生活に憧れて都市にやって来て、そこで結婚をし、家を持ち、暮らしたいと考えてもいるようです。このほか、新世代農民工は、携帯電話やインターネットなど情報の入手経路も多く、野良仕事もしたことがないようです。ちなみに、あるメディアの調査では、80%の新世代農民工は、野良仕事はしたくないとの回答があったそう。

■農民工をとりまく問題

(1)給与の遅配、不払いが主な問題

リトルバードの話によれば、農民工に関する主な問題は、給与支払いに関するものだそうです。例えば、本来であれば毎月支払われるはずの給与が、四半期に一度だけ、または年に一度だけの支払いになるというケースが少なくなく、給与の不払いというケースもあるようです(なお、住む場所や食事などは勤め先の寮、食堂が利用できるため、最低限の生活は問題ないようです)。

このような問題が起こる理由は様々です。例えば、ミスをした際の罰金が科せられ減俸にされるケース。減俸自体は問題がないのですが、法令により減俸の範囲は定められているにも関わらず、その範囲を越える減俸処分となり、給与が全く払われなくなることもあるそうです。

また、労働者確保のため支払いを遅らせるケースもあります。中国では、地方から出てきている人は、春節(旧正月)を迎えると一時帰郷することが大半で、農民工も例外ではありません。ただ、農民工は、春節後に都市に戻った後、また元の職場に戻るとは限らず、より給料の良いところに移ることが多いそうです。このため、給与の支払いを遅らせることで働き手の流出を食い止めようとする会社があるとのことです(労働者からすれば、給与を受け取るためにまた戻って来ざるを得なくなるため)。

このほか、雇い主も被害者で、発注元が代金を支払わないため農民工に給与が支払えないケース、包工頭(農民工を集めて建設作業を請け負う人の総称)が給与を持ち逃げするケースなどもあるそうです。

こうした給与支払いに関する問題をはじめ、農民工を取り巻く問題は少なくありませんが、リトルバードとしては、ここ最近、状況は好転しつつあると考えているようです。例えば、2008年に制定された労働契約法をはじめ、制度面での改善が進んでいます。2011年末にも、人力資源・社会保障部(日本の厚生労働省に相当)などの関連部門が春節前の給与不払い防止に向けた取り組み強化に向けて会議を開催したそうです。(ただ、雇い手からすれば、解雇の手間が増える、関連コストが増えるなど悩ましいことかもしれません。)

(2)農民工の子女の教育にも問題

なお、農民工自身の問題のほか、農民工の子女の教育にも問題があります。農民工の子女が都市の公立学校に通うためには、北京の場合、6年間で3万元(約36万円)の学費が要るうえ、入学時に一括で支払わなければならないそう。ただ、これほどの大金を一度に支払える農民工はいないため、農民工の子女向けに設けられた学校に通うことが大半のようです(この学校の場合、学費は年間1,000元)。ただ、通学面での問題など、心配は尽きません。親は仕事があるため、子どもの送迎は難しいですが、公共交通機関を利用させるわけにもいかず、またスクールバスも車両の規格や利用に関する規定が厳しく、利用は難しいようです(2011年12月には、河南省で無許可のスクールバスが横転し、多くの死傷者が出たという事件があったこともあり、規定と管理は今後より厳しくなると思われます)。

(3)外資系企業とも無縁ではない農民工問題

外資系企業の工場は、北京には少ないですが、深圳など南方には多くあります。外資系企業の場合、自社が直接工場を保有して製造するだけではなく、地場のメーカーに委託して製造しているケースも少なくありません。外資系企業としては、必ずしも労務問題の逃げ道として下請けを利用しているわけではないと思われますが、後者のような場合、(外資系企業と下請けの雇用者が)直接的な雇用関係ではなくなることから、事情は少し複雑になるそうです。また、外資系企業は労務問題に通じた弁護士を擁していることもあり、対処は難しくなるようです。

■リトルバードの概要

リトルバードは、現在の代表の魏偉さんが1999年に北京で創設した農民工の支援組織です。自身も出稼ぎ労働者だった魏さんは、出稼ぎに失敗し、故郷に帰ろうとした際「大学生でさえ北京でやっていけないのだから、ましてお前のような…」と言われたことがきっかけで北京に残り、この支援組織を設立したそうです。

設立時の1999年から2003年までは、ご自身のポケットマネーと一部の寄付、スタッフがアルバイトで得た収入などで運営を続けてきましたが、2004年に北京市の東城区司法局と連携し、中国国内で初の出稼ぎ労働者の権益保護のための民間調停委員会を設立するとともに、カナダ大使館の助成金も獲得しました。さらに、2006年にはドイツ大使館の資金援助を得て、深圳でリトルバードホットラインを開設したほか、ドイツミソルファンドの資金援助を得て瀋陽でもホットラインを開設させました。そして2011年には、アメリカ弁護士協会の資金援助を得て、上海でもホットラインを開設したことで、中国の華北、東北、華東、華南の4大経済地域それぞれに拠点を設けるに至りました。

現在では、専従スタッフは16名、非常勤スタッフ11名、権利擁護弁護ボランティアが560名、その他のボランティア4,500名を擁し、年間で10,000人もの農民工に法律援助を提供する一大組織に成長しています。他にも農民工の権利保護に取り組む組織はあるそうですが、リトルバードの場合、後述のように、農民工を直接サポートする取り組みを展開している点で、他の組織にはない特色があるようです。

【リトルバード創始者の魏偉さん-CSネット】

農民工の人々は、職場で問題が発生した際に、上司等とどのようにコミュニケーションをとり、解決すれば良いか知らないことが多いため、仕事仲間の紹介やマスコミ、114(電話による情報提供サービス)などを通じてリトルバードのことを知り、問い合わせてくるそうです。北京事務所での相談の数も日によりますが、平均して約30人からの来電のほか、10数人の訪問となっています。なお、相談にやってくる人のなかには、労働者の代表としてやってくる人もいるそうです。こうした場合、実際にはこの代表者の背後の数十人の被害者がいることになります。

■リトルバードの活動

リトルバードの活動は、主に①労働者の権益保護に関する個別の案件処理や、②農民工に対する教育活動です。

(1)多岐にわたる個別の案件への対応

①に関しては、具体的には上述の給与の遅配や不払いへの対処が挙げられます。

案件の内容や対処方法は、個々で異なります。電話だけで済むこともあれば、直接現場に赴いて責任者との交渉等を行う場合もあります。

例えば単純に雇用主が給与の支払いを遅らせている場合、彼らと交渉して賃金の早期支払いを求めることになります。ただ、なかには労働関連の規定を知っていながら故意に給与を支払わずシラをきる雇用主がいたり、雇用主と労働者が契約書を交わしておらず、対処が困難になるケースもあるそうです(なお、契約書がない場合には、勤務カードなど関連の資料を証拠として対処するそうです)。

また、発注元が代金を支払わないために給与の支払いが遅れる場合には、リトルバードが発注元にも連絡をとり交渉をすることもあります。

このほか、包工頭による給与持ち逃げ、雇用主の失踪が起こった際には、労働者と協力したり、マスメディアと協力して事件を取り上げてもらうなどして、犯人を捜し出すということまでしているそう。

なお、弁護士が法的な支援を行う場合、市の法律援助センターを通じて行うこととされているため、担当のボランティア弁護士への案件の割り当てや代金支払いもこのセンターを通じて行われており、代金の目安も、関連当局からテーブルが提示されているとのこと。

また、解決までにかかる時間や費用はケースバイケースですが、一般のケースの場合、強いて言えば概ね1週間くらいとのこと。意外と短いとの印象を受けますが、雇用主と労働者が双方に妥協をすることで早めの解決となっているようです。

(2)労働者の意識・知識向上も重要な取り組み

②に関しては、「契約」についての意識、生活環境(バスの乗り方といった都市での生活の仕方)に関する情報、マスメディアとの付き合い方(マスメディアにどのように問題を取り上げてもらうか等)についての教育で、それぞれについて冊子を作成、配布しています。ただ、都市での暮らし方については、新世代農民工の場合既に理解していることが多いため、対象者は主に1代目の農民工のようです。

【リトルバードによる農民工向け冊子-筆者撮影】

このほか、これらのテーマについて、セミナーも開催しています。セミナーは2時間程度のもので、リトルバードのオフィスで行うこともあれば、工場など労働者の職場に赴いて行うこともあるそうです。セミナーを開催する際には、連絡先を知っている農民工に直接連絡をとり周知したり、支援活動を通じて知り合った工場等の雇用主を通じて農民工に対して周知しているとのこと。なお、雇用主だけを対象とした教育活動はないため、雇用主は労働者と一緒にセミナーに参加して学んでいるようです。

(3)その他の取り組み

これらの活動に加え、負傷した農民工の救助や職探しの支援(ただ、情報が少ないのが現状)など、幅広い支援を行っているそうです。

また、仕事を始める前の農民工に対する教育活動も必要だと考えているとのことで、ある地方政府の北京事務所と協力して行ったことはあるそうです。その際は現地の地方政府側がそれほど熱心ではなかったそうですが、今後も政府などと協力して展開していければと思っているそうです。

■リトルバードを訪問して ~外資系企業にこれから求められること~

今回リトルバードを訪問した際、偶然、労働問題を専門に研究しているアメリカ(ニューヨーク)の大学教授やNGOのスタッフもインタビューに来ていました。聞けば、以前は自国の労働問題を中心に研究をしていたが、最近は中国の問題に関心があるとのこと。中国における労働問題に対する世界的な関心の高まりを感じました。

私自身は、仕事柄、中国で事業展開をする日系企業に関する情報をよく見聞きするのですが、確かに日系企業にとっても、中国の労働問題に対する関心は高まっています。ただ、労働者の権益保護に対する憂慮というよりは、むしろ、権益保護に対する中国政府の取り組みや賃金上昇が、企業経営にとってのコスト増、負担増になっているとの認識が主のようです。

しかし、古くはナイキ、最近ではアップルなどの外資系企業に関して、下請け工場における労働問題の発生が話題となっています。今回訪れたのはリトルバードの北京事務所だったこともあり、外資系企業における労働問題の動向については十分に聞くことができませんでしたが、外資系企業は、直接的、間接的に、今回インタビューでうかがったような労働問題とは無縁ではいられないでしょう。サプライチェーン・マネジメントなどを通じ、こうした問題の解消に積極的に取り組んでいくことが求められます。

また、これからも賃金上昇が続くと見込まれることを踏まえると、中国では、これまでのような単純労働者を入れ替えながら付加価値の低い製品、サービスを提供するという事業モデルは成り立たなくなっていく可能性があります。今後は、企業自身の中国における中長期的な発展を考えるうえでも、「中国=豊富で安価な労働力の供給源」という発想を変える必要があるでしょう。すなわち、使い捨て型の雇用からの脱却を図り、労働者とともに成長していくという姿勢が求められるのではないでしょうか。

その点、労働者、とりわけ農民工に関する問題点や、彼らの悩み、ニーズ等をよく把握しているリトルバードは、企業と農民工の架け橋としての役割を果たせる可能性があります。「企業と労働者」と言うと、ストライキなど対立関係となることも少なくありませんが、これからの中国においては、市民団体を含む様々なステークホルダーが協調をすることで、質の高い成長を実現していくことが期待されます。

以上

 

 


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