2012/01/18 by Matsue

人口・企業が少ない地域における障がい者就労支援の取り組み―NPO法人就労支援センター和貴の郷

NPO法人就労支援センター和貴の郷は、鳥取県の海と山に囲まれた自然が豊かな地で事業を展開しています。地域に暮らす障がい者の就労移行支援、就労継続支援A型事業、就労継続支援B型事業を実施する多機能事業所です。 
 

(写真:青く囲ったところが和貴の郷)

  • 就労移行支援の対象者は、就労を希望する65歳未満の障がいのある方で、一般の企業に就職することが可能と見込まれる方。一般就労等への移行に向けて、事業所内や企業における作業や実習、適正に合った職場探し、就職後の職場定着支援を実施。
  • 就労継続支援A型事業の対象者は、一般の企業に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が可能な方。通所により原則雇用契約に基づく就労の機会を提供するとともに、一般就労に必要な知識、能力が高まった方に向けて就労移行支援を行う。
  • 就労継続支援B型事業の対象者は、一般の企業に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労も困難な方で、事業所内において、就労の機会や生産活動の機会を提供(雇用契約は結ばない)するとともに、一般就労に向けた支援を行う。

    「外に出れば、仕事は落ちている」と理事長の川村任志氏は語る。水産加工、縫製、電気部品組立、大規模農家の補助などへ和貴の郷の利用者が3-5人のユニットを組み職員と一緒に出向く施設外就労や、施設内でのDM作成、電子部品加工、そして宅配便配達などの受託を行ってきた和貴の郷の新事業、「もったいない事業」はこうして始められました。漁協からは外道の魚、「金がしら」を引き取り燻製にして全国販売、農協からは規格外の梨を引き取り、ペースト状にして食品会社、外食チェーン店に卸し、双方の材料費は、市場に出回っているものよりも安価で、漁協、農協の廃棄物処理にも貢献しています。そして、A型事業所の利用者には平均85,000円の給与を支払っています。下記に事業の概要をご紹介します。

1.休耕地の活用と農家さん・他事業所との連携
 農村の高齢化が進むと同時に減反や休耕も進んでいきます。和貴の郷ではそのような余った土地も大切な地域資源として再利用し農作物の栽培を開始しました。農作物を生産するだけでは、利用者の生活は守れないことから、売り先を確保した上で生産数や出荷数にある程度見通しを立て確実な生産に取り掛かる仕組みを創りました。そして、独学で農作物を作るのではなく、地域の農業生産者や元生産者にも指導に入ってもらい、アドバイスや助言をもらうことにより付加価値の付く農作物を生産しています。また、広さを活かし、通年を通して行える農作業、たとえば春は白ねぎの植え付け、秋は玉ねぎの植え付けを行っています。更に、植え付けから収穫までの期間をバランスよく組み合わせれば通年を通した農業が可能となり、安定した収入を確保しています。

こうした連携事業には地域振興の意味合いも含まれています。休耕田を放置すると雑草が繁茂し、そこに病原が宿り繁殖し、隣の田畑で栽培されるお米や野菜に感染する事が多々あります。和貴の郷と農家との連携事業はこのような部分でも地域から歓迎され、職員や利用者が汗を流す畑に、近隣の仕事から退いたお年寄りが集まってきます。「あかん、腰を入れて」等のアドバイスも頂きながら心の通った交流で障害者に対する理解も深まり、暖かい眼差しで地域から応援されています。

そこで収穫された野菜等は、提携する弁当業者に販売し、廃棄される食材は肥料として再利用し、御指導して頂く農家や、同じく農業に力を入れる障害者施設に無償提供しています。更に、和貴の郷は弁当業者に弁当を注文し、高齢者の配食サービスも行なっています。この事業のために専門の栄養士を雇用し、専門的な見地に立って、弁当業者と共同で地元の食材を利用した新しい調理方法、新しい献立づくり等を行なっています。そして、職員は配送サービスで地域の高齢者に弁当を宅配しますが、同時に独居の高齢者の見守りも行なっています。そのため、地域から太い絆で信頼を得る事ができ、福祉を通しての地域振興を実現しております。

2.もったいない事業
規格外の農作物や普通は捨ててしまう様な魚など、せっかく作ったのに…。わざわざ漁に出たのに…。このような問題を解消するために、捨てずに商品化する。それは利益になり、生産者や漁業者の無駄も省くことができるシステム。和貴の郷も農家さんも漁師さんもみんなが笑顔になれる。規格外野菜や果実、外道の魚など普段は捨ててしまう物を食品加工し、有効に活用する。それにより、経費削減だけでなく、食品を無駄にしない加工商品は市場・観光産業活性化にも繋がる環境に優しい循環システムです。とにかく、「もったいない事業」には無駄は一切ありません。
  

その活動の中で、例えば、外道の魚、「金がしら」の加工は骨も多く、骨を取り除くには手間もかかり、手を抜けない仕事です。このような、仕事を和貴の郷だけで自己完結せずに、他の障害者福祉施設に業務委託を行なっています。また、農協からは規格外の梨を引き取り、ペースト状にして食品会社、外食チェーン店に卸していますが、食品会社、外食チェーン店から様々な仕事の要請があります。「この仕事をできるのなら、あの仕事もやってよ」、「いい会社があるから紹介する」というやり取りの中で、鳥取県の名産、ラッキョの加工、弁当会社が回収してきた弁当箱の洗浄作業等、その広がりは日に日に拡大されています。また、このように和貴の郷が受注してきた仕事も、他の障害者福祉施設に業務委託をしています。

このように、和貴の郷が展開する「もったいない事業」は、他の障害者福祉施設とも連携を図り、鳥取県の障害福祉施設で働く利用者全体の工賃アップにも寄与しています。実に優しい取り組みです。「もったいない事業」を更につきつめると、食材の加工できない部分は堆肥に、畑で栽培した白ねぎの中でも、出荷できない規格外品は、千切りにされ外食チェーン店に卸し、「金がしら」の燻製も小さくて規格外のものはふり掛けにし、和貴の郷の利用者に提供しています。理事長の川村氏は、「すべての仕事は、ビジネスです。ビジネスパートナーである企業も私達に本物だけを求めます。ビジネスパートナーには福祉等は関係ありませんから」と語っています。やはり、本物で勝負しなければ事業にはなりません。「もったいない事業」も当然真剣勝負のビジネスである事を付記しておきます。

3.和貴の郷の展望
 和貴の郷と同様に自然が豊かな地域にある鳥取県の障害者福祉施設は、見学者が後を絶たない状況です。新聞紙上では、「リーマンショック後、鳥取三洋はパナソニックに吸収され、鳥取三洋の下請け企業は、仕事が激減している状況です」と報道されていますが、それは主として鳥取県の電気、電機関係の企業を指しています。しかし、特産品や地場の商品を扱う元気な企業は数多くあり、和貴の郷は、その元気な企業に何度も働きかけ、今年は6名の利用者を就職させています。これは、施設で利用者と職業訓練に取り組む職員と主任ジョブコーチの村田耕平氏を始めとした和貴の郷のチーム・プレーでできた仕事です。

 このような仕事を支えるのが理事長の川村氏の仕事です。常に営業に出て、仕事を確保し、就職先の確保に走り回り、「官と官の連携」、「民と官の連携」、「民と民の連携」の融合を実現させ事業を拡大してきました。
 そして、2011年12月の職員会議で、川村氏は、「食つくりで職づくり」を2012年度のコンセプトとして全職員に示しました。そして、「農家さん・他事業所との連携」、「もったいない事業」を中心に事業を進める方向性を模索しておられます。自社ブランドの全国展開を目指す一方、毎日、様々な業務提携を申し入れられるため、大きく大展開もあるかもしれません。自然が豊かな地域で、このような仕組みを創造することは容易ではなかったかもしれません。しかし、何度も、鳥取に足を向け、直接目にしたその事業は驚きの連続で、とてもユニークな取り組みです。自然豊かな海と山に囲まれた都道府県の施設の皆さま、参考にしてもらえば最高です。
和貴の郷さんのHPはこちら→ http://www.wakinosato.jp/

文: 堀田正基
       特定非営利活動法人 障害者就労支援事業所 京都フォーライフ 
  https://canpan.info/open/dantai/00006465/dantai_detail.html
写真:和貴の郷さんのホームページとブログより転載

This post is also available in: 簡体中国語

Facebook Twitter 微博

CATEGOLY