2011/11/25 by Matsue

Whole Earth自然学校-山川勇一郎氏との交流記録

2011年9月7-8日、来日研修のメンバーは静岡県富士宮市のWhole Earth自然学校(以下、WE)を訪ね、日本における社会的企業の事例として、WE本部の歴史、経営体制、社会的インパクトについて、同校コーディネーターの山川勇一郎氏より講演いただいた。
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 先日参加した、アジアのソーシャルビジネスに関するシンポジウムで、タイの社会的企業家より、「ソーシャルビジネスとは橋をかけるようなものである」という発言があり、共感できた。日中では事情が異なるかもしれないが、日本は政府にせよ、企業にせよ、大変なタテ割社会である。こうした各部門・セクター間に橋をかけること、これこそが社会イノベーションであり、WEがやってきたことと共通するものだと考えている。

 

 

まず、WEのキーとなる数字として以下3つをご紹介したい:

① 29年:WEの歴史
② 43名:WEのスタッフ数
③ 2億6千万円:WEの年間売上額

他、日本全国に6校の分校がある。

WEの歴史は以下の通り:
1980年代は基礎づくりの時期。広瀬敏通氏(前代表)が創設する。
・ 1982年、「動物農場」として開始。経済成長の影として、自然保護、人と人とのつながりが希薄になる中、家畜を飼いながら、ニワトリの卵や羊の毛皮を取ったり、時には肉をいただいたりする活動を通じて、人と自然の関係をつむぎなおそうと活動を開始したことがはじまり。しかし、当初は動物農場単独での経営は厳しく、後に体験牧場として有名になる「まかいの牧場」で牧場経営とのかけもちでの生活であった。

・ 1983年、動物農場で、「遊牧民キャンプ」と呼ばれる、家畜動物と生活する遊牧民スタイルの子どもキャンプを開始。そうした活動の中で、様々な自然体験プログラムが生まれ、そうしたプログラムを総称してホールアース自然学校と呼ばれたが、当初は動物農場の一時業との位置づけであった。

・ 1987年、組織名称をホールアース自然学校と変更
・ 1990年、修学旅行事業に参入し、ピーク時は年間4万人の参加者。教育活動という社会的インパクトを生み出しながら、収益を上げていく。
2000年代は仕組みづくりの時期。
・ 2000年頃~、政府の事業の受託を開始。「環境省田貫湖ふれあい自然塾」の開設に参画し、その後運営を受託。その他、自然体験の指導者育成事業を各地で展開し、自然学校運動は全国に拡大していく。ここから、自然学校活動の社会運動化を目指すようになる。中央/地方の政府の事業委託を通じて、自然学校活動の効果の実証を試みる。環境活動の環境/社会インパクトが大きくなる。
・そうした中、持続可能な観光の形態である エコツーリズムに取り組みはじめる。修学旅行事業においても、自然環境への負担も考慮し、年間2万5千人まで参加者の自主規制をすることで、数量をコントロールするなど、環境への負荷を考慮しながら利用に取り組んでいった。

・ 2010年代、耕作放棄地の解消と新たなビジネスモデル構築を念頭とした農業法人の立ち上げや、林業への挑戦など、第一次産業にも積極的に参入しながら、新領域への挑戦を続けている。


広瀬代表は、「自然学校=社会運動」と位置づけ、「人の渦」をつくる、すなわち人々を巻き込んで大きなムーブメントをつくるこを目指した。そのためのポイントとして、以下4点がある:
①オープンソース:WEのノウハウを他組織に対してもオープンにする
②ネットワーク:同業者とも互いに連携しながらの発展を目指す
③スタッフの多様性
④しなやかさ:様々な事業を柔軟に展開する

・2011年、10年後の目指すべき社会像をWEの「羅針盤」としてまとめ、組織目標とした。「羅針盤」で目指すべき社会像を、1人1人が「『人・自然・地域が共生する暮らし』の実践を通じて、感謝の気持ちと誇りをもって生きている」と定めた。

また、山川氏個人では、入社7年目で大学院へ社会人入学し、業務の傍ら、環境教育プログラムが実際の人々の行動変容の要因になっているかに関する研究をしている。その研究を通じて、今後の事業やプログラム策定・実施に役立てる予定である。

質疑応答
Q:WEをモデルとした自然学校は増えたと思うが、彼らをどのように評価するか?
→山川:WEは自然学校の中では老舗だが、自分たちは決してほかの自然学校を評価するような立場にない。ほかの自然学校だと、都市型のものや、地域性には関係なく、森林/農家体験型だけのものもある。こうした同業者はライバルではなく、同じ志を持つ仲間であり、ネットワークを維持している。若手の交流の中で、お互いのプログラムを学びあう試みもあるが、接点がある人たちはまだ少ない。
Q:43名という多くのスタッフを雇用しながら、2億6千万円の収益では賄いきれないと思うが、どのように経営しているのか。
→山川:43名全員が全て正職員というわけではない。研修生という立場のスタッフだと、事業の中で雇っている。また、実習制度を利用している見習い期間中のスタッフだと給料は低く、場合によっては無給の研修生(それでも、宿舎の提供等の便宜を図る場合もあり)もいる。スタッフたちは、基本的に好きで自然学校の活動に参加しており、金稼ぎ第一ではない人たちだからこそ成り立っているという部分もある。
・ ガイド活動は、何時間案内したらいくら、といういわば時間給である。しかし、これだとイノベーションが生まれない。体験活動の質の向上は継続的に図っているが、プログラムだけでなく、それをノウハウとしてしっかりまとめて売っていく、というほかに未来はない。また、我々としても体験型活動に留まる必要もないと考えている。
・ 一方で、農業分野は別で、加工品に付加価値をつけて売れば、売り上げを伸ばせると考えている。
Q:各種サービスの価格はどのように設定しているのか?
→山川:マーケットに合わせて決定している。修学旅行事業だと、3時間のプログラムで最初は500円/名だったが、プログラムの価値を理解してもらう中で上げていき、現在は1900円/名(学校団体価格)となっている。
・ 委託事業は、自主事業が充実しているからこそ、委託がまわってくる。現在は、農業、観光での事業に伸びしろを感じている。
Q:WEは現在の日本の子どもの教育に対してはどのようにみているか?
→山川:山川個人の見解としては、現在の日本では、子どもは親との関係のみに偏りすぎている。昔の日本だと、子ども達は、近所のおじさん、おばさん等、コミュニティの中で大人たちとふれ合う機会が多かったが、今ではそうした親以外の大人たちとの関係が希薄になりがち。したがって、子ども達に、さまざまな大人たちがいることを教えることが重要。また、タテ・ヨコ・ナナメといった多様な関係が必要だし、大人たちもそうしたことを学ぶ必要がある。
・関連する質問が出たので、「親子向け環境教育プログラムにおける大人の参加者の行動変容」という大学院における私の研究について紹介させていただく。この研究では、自然学校の活動がどれだけ参加者の環境保護につながる意識変容や行動変容を促したか、その阻害要因や貢献要因は何かを検証したものである。環境教育による社会インパクトは、短中期的には子どもより、大人のほうが効果が大きく、いかに大人の行動変容を促すかが鍵となる。このことから、大人の参加者の行動変容に焦点をあてた。調査の結果、プログラムの中のスタッフの働きかけ方が重要であり、あまり親子の活動の中に介入しすぎないファシリテーションが重要だということがわかった。このように行動変容がおこったポイントは何かを見直す時期にきている。
Q:WEでは創立者たる広瀬氏が組織をリードしてきた。広瀬氏が経営から引かれた後の、カリスマ後の経営体制如何?
山川:それは難しい問題。今は管理職5名による合議制。当初は方針が定まらず、動揺することもあったが、経営計画である「羅針盤」制定後は、そこに定められた目標に向かって事業展開をすることとしたので、今はスムーズな運営になっていると思う。

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1泊2日の訪問期間中、一行は樹海の洞窟探検、田貫湖散策など、WEのプログラムを堪能し、WEの広瀬麗子代表やスタッフとも交流したほか、宿舎では深夜まで内部討論を行い、今回の体験について心行くまで語り合った。

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