2011/10/31 by Matsue

「望ましい未来の姿に」投資を

過去10年間で、日本の各地に20を超える非営利の銀行が設立されている。これら草の根銀行は、守りの堅い商業銀行界において、環境やコミュニティーの発展など公共目的の事業に融資している。残念なことだが、中国ではこのような未来のために貯蓄する銀行はまだしばらく現れないだろう。

なぜ未来のために貯蓄する銀行が必要か?

1990年代、日本のNGO界のリーダー的存在である田中優氏は、ある隠された真実について知った。それは、日本が中国と戦争を始める際に巨額の資金を提供したのは、なんと日本でもっとも預金吸収力の高い郵便局だったということだ。

その後、田中氏は「どうして郵貯がいけないの?」と題する本を書いて、知らない間に自分の預金が軍需産業への助成金になってしまっているかも知れない、と日本の人々に注意を喚起した。

戦後から半世紀以上たった今でも、銀行が演じる不名誉な役割はほとんど変わっていない。イラク戦争中、アメリカの民間軍需産業への融資に最も重要な役割を担っていた商業銀行の一つは、日本の銀行だったのだ。

「市民は、銀行に預金することで、事実上侵略戦争を支持しているのです。」田中氏は、銀行の悪事の根源を発見したと考え、「おカネで世界を変える30の方法」と題する本を書いた。

その後、田中氏は、「私たちが銀行に預けているお金は、いったいどこに投資されているのだろうか?ゴルフ場の建設、公害の輸出、原子力発電所やダムの建設ではないだろうか?」と、問い続けた。

田中氏は、原子力反対運動とゴミの循環利用に関する運動から活動を始め、その後は環境保護や経済、平和等の様々なNGOの活動にかかわってきた人物で、日本で環境や社会問題に関心を持っている若者の間で、大きな求心力を持っている。

田中氏は、政府や金融機関を批判するだけでなく、行動を起こす必要があると考えていた。それは、自ら組合を立ち上げて、「望ましい未来の姿」に投資することだった。1994年、田中氏は6人の協力者とともに400万円を出資し、未来バンク事業組合(未来バンク)を設立した。

未来バンクは、一般の商業銀行とは大きく異なる。未来バンクの融資対象は、「環境、市民、福祉」の3つの分野に限られており、このことを預金者にはっきりと伝えている。たとえば、市民やNPOによる太陽光発電設備の購入、有機食品店の開設、高齢者サービス・センターの設立、フェア・トレードに関する活動などに対し、融資を行う。

「未来バンクの預金者の多くは、一般の銀行によるお金の使い方に不満を持っている人々です」と田中氏は言う。未来バンクだけではなく、過去10年間に、日本の各地で20余りの非営利の草の根銀行が設立されている。経営方式には差があるものの、いずれも同じ志をもって共同投資をした人々により設立されており、非営利団体からの少額資金も集め、NGO、市民団体や個人に融資している。
中で最も影響力が大きいのは、人気バンド「ミスターチルドレン」のメンバーである桜井和寿氏、音楽プロデューサーの小林武史氏、そして世界的にも知られている作曲家の坂本龍一氏が共同で創設したAP Bankだ。

2002年、坂本龍一氏は、ある会議で田中優氏に出会った。坂本氏は、音楽界の友人と共同で風力発電所を設立したいと考えていると話したところ、田中氏は、風力発電事業に特化して融資を行う小規模な銀行をつくることを提案した。その後、3名のアーティストがこの提案を受け入れ、各自1億円ずつ出資してAP Bankが創設された。AP Bankは、最終的には主として環境や再生可能エネルギーに関する事業に融資する銀行となっている。

「小規模経営」を志す

商業銀行と非営利の草の根銀行の違いを見てみよう。前者は、融資によって利益を得ることを目的としており、後者は、融資によって社会を変えるという理想を持っている。未来バンクに代表される草の根の銀行は、主に公益事業を行うNPOに貸し付けを行い、NPO銀行とも呼ばれる。NPO銀行は、銀行法に依り設立される銀行や信用組合とは異なり、民法第667条に依り設立された組合(市民の集まり)である。資金は組合のメンバーから募り、他の銀行や金融機関から資金を得てはならず、貸付先も組合のメンバーでなくてはならない。

中国と同じように、日本の法律によれば、金融機関以外の団体が預金・貸付業務を行うことは禁じられている。このため、NPO銀行が受け入れる資金は、預金ではなく出資金の扱いになる。預金は、元金が保証され、さらに利子が提供されるが、投資によって得られる利益は、利息ではなく利益の配当という扱いになる。

融資には利息がつくが、日本のNPO銀行の利息は一般的に低い。未来バンクを例にとると、利息は2%しかない。専任のスタッフは持たず、全ての人がボランティアであるため、利息による収益は、わずかな部分が銀行運営の経費に充てられる他、主な部分は貸し倒れの引当金として積み立てられる。

これからの社会発展における新しい理念を代表してはいるものの、20余りある日本のNPO銀行の資金総額は30億円に満たない。「日本の法制度は非常に厳しく、新しい形の組織が生存していくのはとても困難なことです」と田中氏は説明する。

このような中、未来バンクは2度にわたり法的な制限を経験した。初回は2005年、全国証券交易法が改正されたときで、配当を伴う銀行業務は、現地の当局にて登録されなければならない、と定められた。2年前にはこの規定がさらに厳しくなり、その結果未来バンクは配当をあきらめるざるを得なかった。2回目は、貸付業規制法が改正されたときで、貸付業に対し、「5000万円の純資産、および3年ごとに登録を更新」という条件がつけられた。

ほとんどのNPO銀行はこの条件を満たすことができず、田中氏と全国のNPO銀行連絡会は、小型のNPO銀行が存続できるよう金融庁と交渉した。

このように成長環境が厳しいため、NPO銀行は、貸し倒れの発生を防ぐべく、各融資案件に対し非常に慎重な審査を行っている。通常、貸付時には、借り手の財務諸表、規則・条例、主な契約書の写しの提出を求め、借り手との面談を行う。借り手の返済能力および社会への便益について調査・判断を行った後、最後に理事会が融資の是非について決定をする。

現在20余りある日本のNPO銀行は、全て小規模であり、最大規模の未来バンクでも集まった預金は1.6億円、貸し付けた融資金額は9000万円にとどまっている。

「未来バンクは、小規模な経営を続けるつもりで、大きくなるつもりはありません」田中氏のねらいは、ひとつの場所で規模を拡大することではなく、各地・各コミュニティーで類似の銀行の数を増やすことだ。田中氏は、地方の経済で肝心なのは、小規模な区域の中で自らの資金循環をつくることだと考えている。規模を拡大すれば、全ての資金は都市などに集中してしまい、そうなれば従来型の商業銀行との区別がなくなってしまうからだ。

田中氏の当初の構想のとおり、日本のNPO銀行は、未来バンク設立以降、コミュニティー銀行の形式で、熊本、福岡、石川、岩手、新潟、北海道など各地で次々と設立された。コミュニティー銀行の焦点は、投資による社会問題の解決だ。2005年以降、ほぼ毎年数件のコミュニティー銀行が設立されている。

中国では未来バンクは出現できない

10数年の模索を経て、未来バンクは、創設時の2000万円と会員数100という規模から、
2010年3月には1.6億円と500の会員を持つ規模にまで成長した。

非常にうらやましいことだが、中国の商業銀行による汚染企業への融資が次々と明らかになっている現在、中国で未来バンクと同じような銀行をつくることはまだまだ難しい。
2007年、中国初のNPOインキュベーター(NPI)の責任者呂朝氏は、日本を訪れ未来バンクを見学した。4年後の今、呂氏は、現在の中国の金融業界の状況を考えると、未来バンクのような銀行はまだ受け入れられないだろうと考えている。

未来バンクの小規模で、特定のグループに対しサービスを提供するというやり方は、マイクロクレジットに似ている。呂氏は、経済学者の茅於軾氏らが、中国でマイクロクレジットを推進しようとした際、一時は違法と見なされ、特別に許可を経てなんとか生きのびたことを覚えている。

中国のグリーン融資(訳注:中国の環境保護部門と銀行が連携し、問題企業・プロジェクトへの融資の制限を通じて、汚染排出やエネルギーの浪費などをする企業の拡大を抑え、金融リスクを避ける制度)の発展について長い間注目してきた郭沛源氏は、貸付は営業許可証がなければできず、中国には社会的企業への貸付を専門にしている機関はまったくない、と率直に語る。問題の核心は、中国の社会的企業はどれも非常に新しいため、どの組織に貸し付ければよいかがわからないということだ。

郭氏によれば、日本では社会的企業とコミュニティーの関連性が高いが、中国では本当の意味でのコミュニティーが存在せず、コミュニティー銀行ができる環境が整っていない。最近ではNPO銀行の融資理念に最も近いのは、政府主導の再就職起業基金である。「起業基金のコンセプトを起業融資に変えたら、実行可能性があるかもしれないが、資金援助しながら融資の形でなければならないだろう」と郭氏は語る。

2004年5月、3名のアーティストにより創設されたAP Bankは、初回の事業申請として100の案件を受理した。その内14件に計5000万円の融資が行われた。案件の内容は幅広く、鹿児島の森林再生事業、横浜の放置自転車による自転車貸し出しサービス、埼玉の生ゴミから発生するメタンガスを利用する事業、およびマーシャル諸島でのエコ・リゾート建設などがあった。AP Bankは、銀行の運営に三井住友銀行の元職員の見山謙一氏を起用した。見山氏は、以前メディアの取材を受けた際、草の根銀行は銀行の本質に立ち返るものであり、大銀行が金銭的な利益のためには公共の利益に無頓着なことを自分も痛感してきた、と語っている。

「NPO銀行に預金する多くの人は、損失を被る心の準備ができています」とCSネット代表の李妍焱氏は語る。このような普通の預金者とまったく異なる考え方も、別に不思議ではない。「預金者は、社会への利益のために投資しようと考えており、未来バンクにお金を預けているという感覚ではなく、希望ある未来を育てるという夢を預けているのです」

筆者:馮潔
出典: 「南方週末」ウェブサイト:http://www.infzm.com/content/63335

翻訳:A.K
校正:松江直子、季新

 

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