2011/10/14 by Matsue

【田中優】低炭素社会の実践―未来バンク 田中優理事長

2011年9月5日、東京の(株)エンパブリック根津スタジオにて、第二回富平LEAD and Beyond来日研修の入門講座が行われた。冒頭にCSネットの李姸焱代表が今回の研修全体のポイントを説明した後、脱原発・再生可能エネルギーの普及・市民事業の支援などに取り組んでこられた未来バンク理事長・田中優さんの講演が始まった。
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もともと3月にお会いする筈が、震災で遅くなりました。震災後の日本は完全に内向きになっている。すでに中国にも原発はあるが、これ以上増やさないためにも是非日本で起こったことを知ってほしい。
1.現状
福島の原発事故の汚染は現在、当初の100万分の一に下がったが、今尚1時間当たり2億ベクレルの放射能を出しており、安全な状態ではない。補助金の都合により敷地内に原子炉が複数あるため、同時に事故が起きると(放射線の値が高く)、修理の人も入れない。
日本はもともと地震のとても多い国であり、原発には向かない。2000年以降、地球全体が地震の活性期に入り発生頻度は10倍になった。原発の耐震性は370ガルまでもつように作ったが、実際の地震は阪神大震災で、820ガル、宮城地震は2300ガルで全く不合理。

2.なぜ原発が推進されるのか
そんな日本で原発が推進される理由は「コストが安いから」と政府は言っていた。しかし8月23日の電力業界の新聞によれば、政府は原子力の発電コストを従来の5.9円から16―20円に引き上げた。現行の電気料金の計算の仕組みには以下の問題がある。
  1)総括原価方式
経費に加え、適正報酬として電気事業固定資産(発送電施設)の3%分を電気料金に上乗せする総括原価方式により電気料金が決まるため、発電所を作れば作るほど電力会社がもうかる。学者が計算した架空のニーズに基づいて原発が54基も建設された。
  2)電力会社が送電網を独占
日本以外のすべての先進国では、送電線は公共施設。日本では発電・送電は電力会社が独占している。送電線が使えないために小規模発電が増えない。
  3)電力会社の巨大な影響力
電力会社は高い金利で金融機関からお金を借りることで金融業界に、最大のスポンサーになることでマスコミに、全体の収益の4割の事業を発注することでゼネコンに、研究費の寄付をすることで大学に大きな影響力を持っている。また都道府県の知事選において「原発推進の政策協定」を結ぶことで、その候補者には電力・金融・ゼネコン・マスコミの票が入る構造になっているので、一部の知事は当選後、強引に原発を推進している。

3.原発が不必要な理由 
需要にあわせて発電所をつくるサプライサイド・マネジメントから、発電所にあわせて需用を下げさせるデマンドサイド・マネジメントに移行する世界の先進国は多い。電気の問題は発電量の問題ではなく、需要と供給のバランスの問題。以下の施策を実行するだけで原発は止められる。
  1)事業者の電気料金も従量制にして、節電するほど得になる仕組みに変える
  2)夏の平日午後2時から4時、気温が31度を超える日にのみ現れるピーク時
      (年間10時間)の料金を高く設定して需要を抑える
  3)エアコンのリモコンに30分に1回、送風に切り替えるプログラムを搭載する
  4)再生可能エネルギーの開発を促進
・洋上風力発電-日本の海の面積は広い。
・波力発電-9x15mの装置で45キロワットという実験結果がある。
・地熱発電-日本のプラント技術は世界一。アイスランドの17基の地熱発電プラントのうち14基は日本製。しかし、日本には地熱発電所はほとんどない。まじめにやれば、30%の消費をまかなえる。温泉発電という技術では50度から発電でき、60%の需要をまかなえる。
・水力発電-地勢的・気候的に向いている。

先般、再生可能エネルギー買取法が成立したので、2012年7月から太陽光以外の再生可能エネルギーも電力会社が固定価格で買い取ることになった。しかし原発コストや再生エネルギー買取コストも加算されるので、電気料金は高くなる。国は借金のカタに東電から送電線と広告宣伝費を取り上げ、まず発送電の分離をしてから固定買取をするべきだった。

4.10年で日本の電力消費を半分にする方法
82%の市民が脱原発を希望という世論調査があったが、同日行われた東電の株主総会では89%の株主は原発推進。このままでは100%の市民が脱原発を希望しても変わらない。
総括原価方式、発送電分離、電力会社のお金による支配の問題が変わらなければ、原発は止められない。そこで別なやり方を考えた。
 1)家電製品を買い換えるときには、必ず最も省エネなものを選ぶ一家庭の電力は8畳間くらいの太陽光発電で足りるし、そこにバッテリーをいれていけば家庭で自給できる。世界で一番優れた寿命が無限に近いバッテリ(スーパーキャパシタ)は日本製だが、今、一番それを利用しているのは中国。日本の電力会社と自動車会社が採用しなかったから日本では伸びなかった。これを地域の中で自給する仕組みがスマートグリッド。世界で最大の投資額になっている。それに必要なのが、省エネ製品、バッテリー、電気自動車・自然エネルギー、IT技術。 この技術が最も優れているのが日本と中国。原子力をやめて、スマートグリッドに本腰を入れれば、世界一の国際競争力を持つことができる。
 2)森林資源の活用
日本の家庭は世界で一番省エネを実現している。家庭のエネルギー消費は、電気、お湯、暖房が約3分の1づつ。つまり熱が3分の2をしめている。そこに、ペレット・薪ストーブ(ボイラー)を入れるべき。日本では木材はいくらでも取れる。地域でエネルギーをまわして、国内で資金を回せば国内が活性化する。海外に流出したら、活性化につながらない。日本は年間予算40兆円のうち23.1兆円を石油や天然ガス・ウラン・石炭の輸入に使っている。つまりエネルギーの94%を輸入。これを地域のエネルギーに変えれば1都道府県あたり年間5000億円を使える。自然エネルギーは従来の3.7倍の雇用があるので、すべての人が雇われて、逆に都会から地方に出稼ぎにいくようになる。

私たちの社会の形を決めているのはエネルギーの利用の仕方がすごく大きい。それをきちんと調べて、こういう対案をだしていくことができれば、むだな紛争は減らせる。私たちがこういう調査をすることは重要。是非中国でもこうした分析をやって、社会のあり方を変えて欲しい。
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質疑応答では、LEADメンバーから活発な質問があった。田中さんは、原発建設の根拠となる長期エネルギー需給見通しは、御用学者が作成しているので信用できないこと、ペレットストーブはまだ1%未満の普及度だが、燃焼効率は世界一であること、地中熱はコストが高くてあまり利用されていないこと、田中さんはデータマニアで、根拠とするデータは公開データから引用し一人で資料を作っていること、前職は公務員で3年前に退職したこと、問題の発見から解決までに鍵となるのはリーダーの能力で、周りが助けたくなるように穴だらけであることが重要だ、などと回答した。NPOバンク・未来バンクについても多くの質問が寄せられ、田中さんは以下のポイントを説明した。

・日本のNPOや市民がいい事業をやろうと思っても、銀行の融資を受けるのはむずかしい。信用がないので金利は5%くらいと高い。政府や財団もあまり助成してくれないし、助成しても立替払いをしないなど使い勝手が悪い。NPOの融資ニーズはかなりあるので、「環境・福祉・社会起業家」だけに融資する未来バンクを作った。
・我々は提案型で、別の仕組みを作っていく。たとえば、東電に10年間電気代を払う代わりにお金を借りて太陽光発電装置を手にいれる仕組みなど、代替案を提供することが大事。
・金利は2%の単利固定で、すべてIT利用、スタッフはボランティアだからやっていける。
・日本の社会的企業は規制が多すぎて成功しにくいが、未来バンクは融資審査が厳しいので高い償還率を保っている。
・日本に20位あるNPOバンクの資金量は全部あわせても資金は30億いかないくらいで、未来バンクがおそらく最大だろう。未来バンクの預金者は既存金融機関の預金の使い道(戦争資金・環境破壊につながる融資など)に腹を立てていて、元本の保証がなくても預金する。政府の規制が厳しくて、市民は銀行を設立できないので、未来バンクは貸金業者として登録している。
・なぜ規模の拡大を目指さないのかといえば、中央集権型の大銀行が一つあるだけだと、地方のお金は東京に集まり、地方で回らないから。地域の経済規模は、「地域の資金量x回転数」という計算式で表せる。地域内でお金を循環させることが大事なので、各地に作ったほうがいい。
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講演終了後、(株)エンパブリック代表の広石さんが社会起業家の育成に取り組んできたこれまでの活動と場づくりのトレーニングを提供するエンパブリックのミッションを説明した。

来日研修の最終日に行った総括では、多くのLEADメンバーから田中さんのデータに対する執念が印象的だったとの声が上がった。南方周末の記者・馮潔さんは帰国後、「望ましい未来に投資する」という記事を発表して、田中さんと未来バンクの仕事を紹介した。「残念ながら、未だ中国では未来バンクが生存できる土壌はない」としている。

文責:松江直子

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