2009/12/10 by GLI Japan

【藤田和芳】命のネットワークを再建―「大地を守る会」を訪問して(前編)

軽トラックで住宅地をまわって野菜を販売することから始め、85,000家庭にのぼる顧客と2,500の契約農家を有し、年収200億円の有機農業社会企業に成長した「大地を守る会」の創始者である藤田和芳氏の経歴は、私の心の中で神話と化している。その素晴らしい所は、ビジネスとしての成功だけでなく、ビジネス面での成功を社会的責任と持続可能な開発の理念と一体化させ、絶えず社会的刷新を推進する力としていることだ。

日本に行く以前から、藤田氏と大地を守る会について色々な話を聞いていた。彼らは毎年夏至と冬至に、600万人以上の市民が参加する「100万人の キャンドルナイト」という環境保全運動行っている。皆で一緒に電灯を消し、人と自然の間の緊密な関係を体験するというものだ。また、大地を守る会は、地元 生産・地元消費(地産地消)を促進し、食品の長距離運送によるエネルギー消費由来の二酸化炭素排出を削減するため、フードマイレージ・キャンペーンを行 い、毎月のカタログやレストランのメニューに二酸化炭素削減量を表示して顧客に知らせ、地産食品の購入を奨励している。

更に尊敬に値することは、藤田氏は、新しい価値観を提唱し普及することの大切さを深く意識し、口だけで農薬の使用に反対しても意味が無く、小さな行動から 始めることを信念としていることだ。例えば、無農薬大根1本を消費者に届けるという小さなことから始め、それを30年継続した。藤田氏は、会社を大きくす ることは意識したことが無く、目標は大地を守る会のビジネスモデルをもっと多くの団体に広めることだ。一見市場競争のルールに反しており、開放的で競争の 無い経営理念のように見えるが、大地を守る会の事業は転がる雪玉のようにどんどん大きくなり、日本から韓国、タイや台湾に拡張し、「アジア農民元気大学」 を設立するまでにいたった。

これらの様々な事が、私の藤田氏に対する想像を膨らませ、きっと知恵の深い年配の方だと思っていた。年の初め、GLIの招待により、大地を守る会を 訪問する機会を得た。応対してくれたのは、会の大山理事長で、会の歴史と現在の業務の展開状況について詳しく説明してくれた。帰り際に、藤田氏とほんの短 い間会うことができた。素朴な感じの方で、実際の年齢より若く見えた。時間の関係で、「大地を守る会の成功の鍵は何か」という質問一つだけを藤田氏に聞く ことができた。藤田氏の回答は「信念と継続」という非常にシンプルなものだった。

この答えは、簡単すぎて、しかも真似が不可能のように思える。しかし、日本の有機農業の発展の背景について理解を深めるにつれ、藤田氏は、単独のケースではなく、健康で活力に満ちている社会は、自然と藤田氏のような人材を育むのだということが分かった。

私は以前に書いた日本訪問記でも、日本の社 会起業家数名について取り上げた。あれは、一週間という短い時間に見聞きしたことだけで、もっと深く理解する時間があったなら、更に多くのことが発見でき たであろう。藤田氏については、既に様々な詳しい報道がされているので、ここでは繰り返さない。日本の有機農業運動発展の背景を理解することで、どうして 日本には、大地を守る会のような社会的企業が多く出来たのか、そして彼らのゆるぎない信念と継続の精神が何に由来するのかをより理解することができるので はないだろうか。

社会的企業を重視する伝統

日本の社会的企業を研究している広石氏は、この現象の源は、日本の伝統にあると考えている。彼は、次のように書いている。

『多くの日本人にとって、「商売」と社会貢献は、そもそも互いに排除するものではない。例えば江戸時代(1603-1868)から、地元の子供達の 教育をする寺子屋があった。また、優秀なことで名高い近江(現在の滋賀県)の商人は、「三方よし」というビジネス理念を継承しており、売買の過程では、買 手、売手、社会の三方が利益を得るべきだという考え方だ。この理念は、今も昔も社会から尊重されている。現代の日本の大企業の創始者には、社会意識が強い 人々が多い。例えば、飢餓をなくすという目標からインスタントラーメンの開発を手がけた日清食品の安藤百福氏、パナソニック創始者の松下幸之助氏の「水道 哲学」(生活を豊かにする家電製品を水道水と同様に全ての家庭に届くようにする)などが挙げられる。松下氏はさらに晩年、民間の政治家を育てることに力を 注いだ。この他、大企業にも社会を尊重する伝統がある。』

大地を守る会の創立は、創始者の藤田氏の社会問題に対する深い関心に源がある。藤田氏は、若い時には農薬汚染や原子力発電による汚染に反対する市民 運動に参加したことがあり、卒業後は、ある出版社で編集に携わった。70年代中頃には、 有吉佐和子による朝日新聞の連載「複合汚染」が、農薬や食品添加剤による人体への健康危害や、土壌汚染がもたらす重大な問題について警告し、社会の大きな 反響を得た。

このような社会背景のもと、藤田氏は水戸郊外の農民を取材し、地元農民も農薬の危害について意識を持っており、そのために味の良い野菜を栽培することがで きる「ミネラル農法」をあみ出したが、虫に食われやすいため、都市部の消費者に嫌がられ、農協に持って行っても売れない、という問題に直面していることを 知った。熱心な藤田氏は、彼らを手助けし販路を開拓したいと思い、数ヶ月間いろいろ試したが、どこにいっても壁にぶつかってしまった。ついに藤田氏は、自 分で車を運転して団地の中で野菜を販売することにしたのだ。多くの主婦は、無農薬で安全な野菜に惹かれ、口コミで周辺の団地の住民も購入するようになっ た。水戸以外の農家も藤田氏を手助けするようになる、こうして大地を守る会が誕生したのだ。

設立当時は、NPOや社会的企業といった概念はまだ無く、唯一選択できる組織の形式は「株式会社」だった。しかし藤田氏は、株式会社イコールお金儲 けの道具、とは思わず、もし生産者と消費者が株主になれば、更に彼らの利益を守ることができるのではないかと考えた。1977年、大地を守る会の流通セン ターは、会社登録をし、会員の農家と消費者と、会の従業員が最初の株主となり、1,700万円あまりの資金を集めた。会社設立のミッションは、3つの理念 を提唱している。

1)栄養価が高く安全な食品を生産、流通、消費することを任務とする。
2)命と健康を守ることを経営指針とする。
3)官僚主義と投機主義を棄て、オープンな経営方式を創る。

その後30年余りの間、大地を守る会はずっと当初設定した目標を核心とし、さらに会員のニーズを融合させることで、常に新しい業務を開拓してきた。 最初の団地での直売形式、1985年に導入した個人配達サービスから始め、徐々に首都圏をカバーする配達サービスを構築した。東京の住宅地で、「大地宅 配」の緑色の軽トラックや生鮮食品を満載した配達ボックスはよく見かける風景だ。首都圏以外の顧客は、宅急便配サービスを利用することができる。宅配の 他、大型スーパーの中に専用の販売棚を設けたり、オーガニック・レストランやコーヒーショップなどの業務も手がけている。

業務の拡張にともない、会社は、有機農産品の生産と物流を専門とする会社に成長した。専門の検査部門を有し、技術スタッフが定期的に契約農家に出向 いて検査を行う他、技術指導も提供している。研究部門では、会員の新しいニーズに注目し、新しいオーガニック商品を共同開発するためのメーカーを探す。営 業部は、市場開拓を担う。物流配送センターには、専門の宅配車チームがある。全自動化された大型倉庫センターをリースし、東京、千葉、神奈川等5カ所に出 荷センターがある。専門的なサービスにより、「一本の無農薬大根を消費者の手に届ける」という約束を実現しているのだ。

2008年5月12日に四川省で起こった大地震で我々を最も悩ませたのは、思いやりや理念の欠如ではなく、1瓶の清潔な水を被災者に届ける専門性の ある業務能力の欠如だった。危機の中で暴露された問題は、まさに我々の社会の盲点だった。我々には、長期的な視野、勇気と知識を備えた社会起業家が欠乏し ている。社会問題と社会に取り残された人々のニーズを敏感に察し、実行可能な解決方法をあみ出すことができる人々が必要なのだ。複雑な社会問題に直面した とき、我々は、適切な解決方法をあみ出すのは非常に困難だと感じてしまう。藤田氏の答えは、非常に素晴らしい。信念と継続。信念とは、一本の健全な大根の 意義と価値を深く理解すること。継続とは、着実にその大根を消費者に届ける志だ。そして数十年後に、一本の大根により社会に変化が起こったことを見届ける ことができるのだ。

これは、藤田氏だけの答えではない。我々が、高齢者施設を経営するサンフォーレを参観した際、創業者に経営に関する様々な細かい質問をしたが、彼 は、ビジネスの背景にある意義を理解しなければならないと繰り返し教えてくれた。信念があるこそここまでやってこられたのだ。その信念はシンプルだ。高齢 者が、より尊厳のある生活を送れるようにすること。

このような信念から、90年代後半、日本では、株の配当や利益の配分を目的とするのではなく、教育や福祉などの社会性の高いサービスを経営内容とす る株式会社が多く出現した。スワンベーカリー等をはじめとする会社は、企業家が、社会貢献のために、彼らの知恵を利用して生まれた組織だ。

(後編につづく)

文責:富平学校 尹春涛

翻訳:A.K

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