2010/08/10 by Matsue

公開ワークショップ開催報告 「ソーシャル・イノベーションにおける日中連携の可能性」

公開ワークショップ「ソーシャル・イノベーションにおける日中連携の可能性」~北京富平学校LEADプロジェクト来日研修の成果発表会を兼ねて~

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2010年7月29日、日中市民社会ネットワークが主催する標記ワークショップが駒澤大学深沢校舎にて開催された。北京富平学校LEAD研修とは、中国の著名な貧困扶助NGO北京富平学校の 人材育成事業のひとつである。日中市民社会ネットワークにより周到に準備された初の来日研修で、日本を代表する6つの社会的企業を訪れ、連日遅くまで議論 を交わしたメンバーは、最終日のワークショップで5日間の研修内容を振り返るとともに、企業・大学・研究機関・NGOなどからの一般参加者と交流し た。(北京富平LEAD研修の概要および参加メンバーの詳細はこちら

ワークショップでは、ベンチャー・フィランソロピーモデルによるNPO・社会的企業の支援を行うとともに、アジアにおける社会的企業の手法の展開に注目してきたSVP東京のディレクター・伊藤健氏が講師をつとめた。日中市民社会ネットワークの李妍焱代表・朱恵雯事 務局長による司会進行・通訳により、まず伊藤氏が「社会起業の社会的役割と社会イノベーションの可能性」に関するプレゼンテーションを行い、社会的企業や 社会起業家をめぐる世界の代表的解釈を紹介したのちに、公共と民間の境界線を革新的な方法で引き直すという社会的企業(第三セクター)の存在意義を、介護 保険制度の基礎を作ったNPO「やわらぎ」を例に解説した。その後、会場の参加者の自己紹介と質疑応答をはさんで、メンバーが一人ずつ最も優れた中国の社 会的企業とその社会的影響をひとつ以上紹介するとともに、日本で訪問した社会的企業のうち最も印象的だった企業を発表し、両国の社会的企業がそれぞれの社 会に与えるインパクトや今後のこの領域での日中交流の意義について、ディスカッションを行った。

メンバーが注目する中国の代表的社会的企業

NPI(Non Profit Incubator)-中間支援団体
http://www.npi.org.cn/english/index.php (英語)
公益組織のインキュベーター、コミュニティ・プラットフォームになっている
上海市政府は彼らのやり方をかなり認めるようになり、事業を委託している(程)

科学松鼠会(サイエンスリスの会)-科学の大衆化
http://songshuhui.net/ (中国語)
深遠なものというイメージの科学を、楽しくわかりやすい方法で大衆に身近なものとする
遊び心に満ちていて、科学カーニバルなどのイベントも楽しい。メディアの人も多く参加し、効果的に伝えている。問題設定がシンプルなのでわかりやすい(鄭嵐)

善淘網(ネット古着販売)
http://www.sumtao.com/index.html (中国語)
古着を寄付してもらってネットで売る。収益は農村の学校やNGOへ寄付職員は障がい者。消費主義を公益活動に生かす。今オフラインの店も計画中。(胡昕)

農民合作社 (具体的な一組織ではなく、農民協会全般)
中国では農業・農民・農村の問題を解決するには、農民の組織化が必要。農民収入の向上・農地の保護・規模の拡大を計らねばならないが、まとまりを持っ て、ビジネスの手法でやっていかねばならない。そのためのキャパビルを効果的におこなっている。環境配慮農業の普及・農村の文化建設・公益社会建設には欠 かせない(胡軍)

富平学校(貧困扶助・マイクロクレジット・社会起業家育成)
http://www.glijapan.eu/inspire/?p=291 (日本語―GLI関連記事)
ビジネスモデルで展開している。貧しい人のニーズを大事にしてビジネスを構築(崔)

農家女実用技術訓練学校(農村女性の職業トレーニング・人権や民主についての啓発)
http://www.nongjianv.org/web/english/index.html (英語)

教育訓練の中で、憲法に定められた権利などをきちんと教育する(高)

宜農貸(ネットで農業に投資する人をサポートする)
http://yinong.creditease.cn/index_ynd.shtml (中国語)
都市住民向けの融資を行っている会社がCSRとして行う低金利(3%)の農業投資サポート(顔)

大卒者パートナーズ(新卒者の就職トレーニング・サポート)
http://www.huoban.org/index.html(中国語)
成功しているというよりは、新しいタイプの社会的企業。学生は自分・社会に対して理解が足りないので、就職にあたり不安にとらわれる。そのような学生に トレーニングやサポートを提供し、求人側の情報に繋ぐ。収益性が課題だが、大学側にもこの問題に注目し既存のシステムを改善してほしい(湯)

多背一公斤(1Kg More!)
http://www.glijapan.eu/inspire/?p=49 (日本語―GLI関連記事)
バックパッカーに1Kgの支援物資を僻地農村の学校に運んでもらう活動。バックパッカーと僻地農村を結びつけ、「公益的な旅行」という新しい概念を打ち出した(黄)

商道縦横 (CSRコンサルティングの中間支援団体)
http://www.syntao.com/Default_E.asp (英語)

早い時期からCSRの重要性を提唱している(鄭偉)

KIVA (米国の個人向けネットベンチャー投資支援)
http://www.kiva.org/ (英語)
ITプラットフォームによって受益者と寄付者のコミュニケーションが透明化された。一人当たりの額を押さえることによって誰でも参加しやすい。寄付でなくローンでお金が戻る仕組みを創った(付)

日本の訪問先はすべてが印象的

ほとんどのメンバーは、各領域を網羅した今回の訪問先事例はすべてが勉強になったと語った。また訪問先の皆様がとても暖かく歓迎してくださったことに多くの感謝の声が上がった。今回訪問した日本の社会的企業に共通する印象として、以下の点が指摘された。
・多元化したサービスや商品を提供
・ビジネスモデルを持ち収益ベースで展開
・リーダーの深い哲学
・人(リーダーシップ、職員との創造的な関係、外のステークホルダーとの関係作りがすばらしい)
・社会的課題に、長期間、辛抱強く取り組んでいる
・政府や財団に依存しない
・問題解決のコストを低く押さえている

各訪問先に対する主な感想は以下の通り。

大地を守る会
消費者と生産者の顔の見える関係・しくみ・生産基準を創ったことが革新的。生産から消費までの循環プロセスを創出したことが引き起こした社会的変化(程)
理念を社会に広めた。メンバーシップ管理の工夫がすばらしい(高)

スワンベーカリー
海津社長の理念を実現するようなビジネスの方法を見いだしている所が創造的。(胡昕)
海津さんのリーダーシップで今後も違った形のイノベーションを生み出すだろう(付)
適材適所の人材管理と外の民間企業とのコラボが素晴らしく、中国にとって参考になる(顔)

・ホールアース自然学校
子ども向けから大人向けまで一貫性を持ってサービスを提供。長い年月持続できる辛抱強さ(湯)
自然に対する愛から出発し、現地の文化をそのままプロモーションし、それが受け入れられた実績がすごい。教育プログラムは単なる自然教育ではなく、市民社会の成長に繋がる内容(黄)
自然学校の方に案内してもらった「わさび園」は、もともとある資源や特色を忠実に伝承し、生かしている。社会的企業も自分の特色が必要。自分ができることを素朴に地道にやることによって、素晴らしいものを創り出している(鄭偉)

・アミタ持続可能経済研究所
会社の8つのグループ全体でひとつの持続可能な循環システムになっている。時代の先端を行き、最終的には営利の幅も大きいビジネスモデルになっている(胡軍)
理性的に科学的方法論でビジネスモデルを構築し、市場メカニズムに基づいた事業化を行っている。政府の指南役になれるノウハウを持っている(崔)

K2インターナショナル
社会問題の中でも特に近年顕著になった若者の問題に取り組んでいるところが新しい(湯)
お好み焼きが美味しい!この経営スタイルを是非北京にも導入したい(高)

サンフォーレ
彼らの創造性の源は、直面している社会問題を理解し、違う条件の中で違う解決方法を見いだす柔軟性と、多くの人を巻き込む開放的なプラットフォームにある。(鄭嵐)

日本の社会的企業の特徴と学ぶべき点

メンバーの発表のあと、伊藤氏は以下の感想を述べた。
「個人と社会の優先順序は違って当然。社会起業家は自分のミッションに基づいて動くからこそ、物事が動く。我々はよく“ボランタリー経済”(単なるボ ランティアリズムではなく)と言うが、それがまさに企業と社会的企業の違い。 経済と社会的効果は矛盾すると言うが、そもそも“経済性”の概念は変わるも の。たとえば大地の顧客は9万人で、それはひとつの購買行動となる。こういった価値観の変化をドライブするものは何か。皆さんは“つなげる”ことや、企業 -NPOのパートナーシップに注目している。それは、イノベーションがどのように起こるかと言うことと密接に関わっている。米国は色々な異なるものが一緒 にあって常にいい意味で競争しているからイノベーションが起こる。日本でも、たとえばサンフォーレの柔軟性・開放性、スワンのネットワークなどはイノベー ティブだが、イノベーションはそれが起こりやすいやすい社会環境を、どうやってつくるかにかかってくる」

質疑応答ではメンバーから「日本の社会的企業の特徴と今後の趨勢は何か」という質問があり、 伊藤氏は次のように答えた。「現在、経済自体が“知 識経済化”してきて、日本では“イノベーション”という言葉が、企業とNPOを結びつける共通のキーワードになっており、企業がNPOと事業をしたいと思 うモチベーションのひとつになっている。たとえば前出のNPO“やわらぎ”は、いまマンション建設会社と一緒に新しいタイプのマンション作りに取り組んで いる。それは“高齢者が住みやすい”マンションであることがセールスポイントになることを企業が明確に認識しているから。そういう意味で新しい社会の “質”を作る存在としてのNPOに注目が集まっている」
また、韓国や英国のような社会的企業を認定するガイドラインが日中両国にないという話題から、欧米から来た社会的企業の概念に、歩き始めたばかりの中国 の市民社会が飛びついてブームになっているという批判や、これを東洋の言葉で表現したいという意見、そもそも営利と公益は矛盾するのに無理に結びつける必 要はないのではという意見、いつの時代でもその矛盾の適切なバランスを作るために新しい語彙やモデルが必要になるという意見など、活発な議論が行われた。

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李代表は、黒板に書き出されたキーワードを示しながら以下のように総括した。「鄭偉さんの“わさび園”の発言にあったように、日本の社会的企業 は、オーバーなパフォーマンスはしない。派手さはないかも知れないが、自分のやりたいことできることを、地道に素朴にやり続け、それをつなげていくこと で、人間や地域の成長に貢献している。日本においては必ずしも黄河や長江のような大河は必要なく、無数の小さな渓流が同じように大地を潤している。それが 日本の社会的企業の特徴であり、中国に是非学んでほしいところ。日本人も規模の大小を欧米と比べて悲観するのではなく、この日本的特徴を生かす方法を考え て欲しい」

また、日中両国は共通する社会問題も多く、今後も市民社会の交流が必要だが、実はお互いのことをよく知らないという問題点が指摘され、メンバーから以下の要望および提案があった。
・日本の市民社会状況についての理解が足りないので、そのような資料を予め入れてほしい
・訪問先の全てのステークホルダーの話を聞くことができれば、より理解が深まる
・事前に訪問先のHPをチェックしたが、英語版はよいものがなかった。海外への発信を重視すべき
・一回性の研修に留まらす、帰国後は一人一人が自分の組織と日本をつなぐプラットフォームになろう
・今回の感想をLEADネットワークの季刊電子雑誌に掲載し、日本に興味を持つ人を増やそう
・ワークショップに参加する日本側の参加者の興味を事前に知ることができれば、準備できる
・日本はとてもよい事をしているのに、宣伝下手。うまく自分を表現してほしい

終了後の懇親会には、ホールアース自然学校の広瀬敏通代表もかけつけてくださり、最後までメンバーたちに囲まれていたほか、山の中で自然に習得し たという美しい鳥の鳴き真似を披露してくださった。メンバーも訪問日程を終えてリラックスした表情を見せていたが、あるメンバーの発言が特に印象的だっ た。「今回、毎日多くの収穫を得て、自分の抱える問題に対してもいくつかの解決方法を思いつくことができた。頭に入れたい情報量が脳の限界を超え、夢の中 でも考えていた」
今回の経験を、彼らがどのようにそれぞれの現場に生かしていくのか、是非その夢の続きを聞かせて欲しい。

文責:松江直子

 

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