2011/09/28 by Matsue

【藤田和芳】東京啓示録ー“大地を守る会”会長藤田和芳氏インタビュー(小康雑誌より)

“大地を守る会のモデルは間違いなく中国にも良い手本となる。しかし農業技術、流通システム、消費文化、どの面から見てもそのまま持ってくるというわけにはいかない。やはり中国の状況に合わせる事が肝要だ”

大地を守る会会長の藤田和芳氏は、中国事情についてはかなり詳しい。今まで20回も農業発展状況の視察の為に訪中しており、その足跡は山西、雲南省にまで及ぶ。同会の35年に亘る発展の過程と成功を収めた商業モデルは農業汚染と農産物の安全問題を解決するばかりでなく、生産者と消費者の新しい関係を創り出すというより重要な役割を果たした。大地を守る会のモデルを中国で完全にコピーすることはできないかも知れないが、彼らが35年間に蓄積した成功と失敗の経験は、私たちが考えを深め、参考にするに値する。
北京富平学校はかねてからエコ農業発展の道を模索しており、土地や環境に優しい農業生産方式を確立し、消費者が安全で健康な食品を食べる事が出来る様に望んでいた。一年余りの準備期間を経て、2010年12月初旬、四川、河北、河南、北京、山東、陝西省等から厳選した農民の代表者と専門家顧問団を訪日させ、大地を守る会の運営モデルを視察、学習させた。藤田会長は入念に中国農業視察団の行程を組み、“大地を守る会は35年の蓄積された経験の全てを余すところなく富平と共有したいと思う”と述べた。
本誌記者は東京で藤田氏を取材した。

大地が農家に一生の約束をする際の三つの条件

本誌: 以前藤田先生は、理念だけを唱えているだけではいけない、環境保護問題、食品公害問題は、実際に行動を起こし解決しなければならないとおっしゃいました。では、一般人としてどのように実践していけば良いのでしょうか?

藤田: もしあなたが一般の消費者であれば、最低限でも二つの事が出来ます。一つは極力農薬不使用の農産物を購入する事、もうひとつはできる限り地元の農業を支持し、遠く離れた国から輸入した食品は買わない事です。
中国は農業大国であり、何億もの農民がいると存じておりますが、では農民側からの実行可能な事は何でしょうか?勿論、私の知る限りでは、中国にはまだ多くの貧しい農民がいる事を存じております。飢えを満たす事が出来ない状況で、理想を語るのではエコも現実的ではないかもしれません。然し中国の農民にせよ、日本の農民にせよ、どちらも金儲けの為だけではなく、栽培したもの、或いは育てた豚・牛・羊を消費者の手元へ届け、それらを大変美味しいと実感してもらいたい、この点では国境はありません。そして賛同を得たいと願っているのは同じと私は感じております。ですから、おそらくこういった事は中国の農民に一つの信念、理念を与えるものとなり得るのではないでしょうか。
日本でも実際多くの貧しい農民がおりますが、勿論空腹を満たせないほどではありません。おそらく貧困ライン上或いは最低の生活水準で頑張っている人達であります。これは生産物を農協を通さずに直接市場に流通させる為、価格が保証されない事に起因しております。この様な農民は後ろ盾を必要としており、大地を守る会は彼らの様な農民を支援する社会的企業なのです。
大地を守る会はどのように支援しているのか?それは、ただ我々の要求する方法に基づき栽培するだけで、それに対し一つの価格提示を保証するというものです。特に金持ちになれるわけではありませんが、最低でも中級程度の暮らし、安心して農業に従事できる暮らしは保証できます。大地は彼らに一生の誓約をしますが、それには三つの条件があります。第一が私の方法に基づいてやってもらう事、第二はうそをつかない事、第三は背信行為をしない事、です。

本誌: 私は以前、あなたが消費文化というものを育てたいとおっしゃっていたのを聞いた事がありますが、中国では有機食品はお金持ちだけが消費できるという状況があります。日本でもこの様な時期があったのでしょうか?一般の人々はどのように有機農産物を消費できるようになったのでしょう?

藤田: 日本にもそういった時期がありました。当時、当会を支持する消費者にも2グループあり、一つは比較的裕福なグループで、今の中国の状況と同じです。もう一つは一般的な家庭で、エコに対する強い意識がある、或いは農業にとても関心を持っている、または家にアレルギーの子どもや重い病気にかかった事がある人がいる家庭で、これらの人々は安全食品を食べたいと非常に切望していたのです。当会はまずこの2グループの人達から始め、この人達が徐々にその周囲の人々へと働きかけ、人数が徐々に増加した後、価格はより多数の人々に受け入れられるものとなっていきました。
私も何回か中国へ言った事があり、有機食品の価格が驚くほど高いのは知っております。が、中国でもこの様な方法でゆっくりと消費者を拡大出来れば、コストも徐々に下がっていきますし、最終的には一般食品と比べて高くても、一般消費者に受け入れられる価格となっていくでしょう。

小賢しい農家に将来的、長期的な利益は無い

本誌: 現在の状況では、中国の都市部と農村部の発展の格差は広がる一方です。農村の人々と都市部の人々の距離間も大きい。大地を守る会のモデルは消費者と生産者の間に透明な信頼、安全関係を結ぶもので、私はこれは大変素晴らしいものだと思います。どのような方法を採られたのですか?この様な経験はそのまま中国に取り入れられるでしょうか?

藤田: 時代の変革期に於いて“乱世に英雄現る”とよく言われますが、実際に模範、手本となる存在は必要です。農民と消費者の間に透明ではっきりと見てわかる、相互の信頼関係を築ける企業がもし中国に何社かあれば、この手本としての力は無限大となるでしょう。
昔の日本も、中国と同じく市場で野菜を買い、野菜の売り手は栽培農家で、当時はまさにごく簡単なお互いの信頼関係、交流関係で成り立っていました。然し近代化されてからというものは、皆が見られるのはスーパーで売っている野菜、或いは肉で、その背後には誰がいるのかは見えなくなってしまいました。そこで我々が推進するモデルは、嘗ての様な簡単な消費者と生産者の顔の見える関係を新たに築き、生産者と消費者の利益を一体化させるものでした。非常に小さな規模から始め、多くの人が見習い始め、徐々に大きな潮流を創っていったのです。
我々の過去の経験から言いますと、双方の信頼関係を築くことが最も大事で、それができれば嘘もつかないし、小賢しい事もできません。少しでもその様な事をしたら、短期的な或いは瞬時の利益は得られても、その後の長期的な利益は得ることはできません。我々が推進するこの方法は、相互間の信頼関係があってこそ、刹那的で投機的でない真の長期的な利益をもたらす事を明確に証明しております。

本誌:大地を守る会はこれまで“百万人のキャンドルナイト”という活動を行ってらっしゃいますが、より多くの人々に人と自然との調和を理解してもらえたことでしょう。大地ではこの他にもこの様な理念を広める為の長期的な活動はありますか?ある場合、その効果は如何ですか?

藤田: “百万人のキャンドルナイト”の第一回は2003年に実施し、今年で既に8年目ですが、一年ごとに参加者は増加しており、10年まで行う予定でおります。現在全国各地で同様な活動を行っておりますが、こういった意識が社会で既に受け入れられているといえるでしょう。
現在行っている比較的大きな活動、今後もずっと継続していく活動として“フードマイレージ”があります。この目的は消費者に、極力アラスカのシーフードやオーストラリアの牛肉等遠隔国から運ばれて来たものを選ばず、極力国産の食品を選ぶように奨励するものですが、こうすることで、二酸化炭素排出量が削減可能となり、その人は一定量削減する毎に一マイル得られます。現在我々がやっておりますが、大変成功しており全国各地の協力仲間に一緒に普及して欲しいと願っております。

フードマイレージ活動は抽象的なスローガンを叫ぶだけの運動では無く、極く簡単に日常生活の中で実践できる方法です。私たちは毎日一般の消費者家庭で食べる食品のおおよその量をきれいな図表にしました。例えば今日100グラムの豚肉を食べるのに、デンマーク産の豚肉ではなく日本産を買ったのであれば、一食で570グラムの二酸化炭素排出量を節減できたことになります。一キロのかぼちゃは、アメリカ産を買わず国産を使えば340グラムの削減になります。この様な図表を使えば、家庭内でも子どもが興味を持ち、学校に行って先生や同級生とも経験を共有する事が出来ます。とっても具体的で簡単な行動です。

現代の日本人、特に若い人達は、何かに反対するというやり方の運動は受け入れ難くなっています。彼らが望むのはとってもクールで自身が楽しく参加できるやり方です。例えば100万人のキャンドルナイトは、ただ単に照明を点けるなというだけではなく、毎年たった二晩だけ心を静かにして蝋燭を灯し、電気を消して、普段時間が無くて言えない話を恋人や家族に話す、彼らに参加したいと思わせる、美しいクールな環境を整えるのです。

農民の境遇を根本的に変革するには、消費者の力が必要

本誌: 藤田先生は中国に何回いらっしゃいましたか?現在の中国農業を見て日本との相違点はどこにあるとお考えですか?

藤田: おそらく二十数回訪中し、農村にも結構行っております。中国の農場を訪問した際、ずっと考えていた事があります。中国の農産物は世界的に良い評価は得ていないし、一方で農民が貧困なのは彼らに向上心がないからではないか?と考える人もいるようだが、私はその様な印象は持ちませんでした。まず、日本の農民と比べて、中国農民は、自分の土地を持てないという厳しい境遇にあります。第二に、特に中部の農村を見に行くと、農民が栽培したもの売る為の良い流通経路が全く整っておりません。以上二点から、農民が進歩できないのは、この社会システムに問題があると言えるでしょう。では、この社会システムを如何に改善したらよいのでしょう。おそらく大地の様に、消費者が農民達を助けていく事が必要となるでしょう。農民と消費者が真に繋がり合ってこそ、消費者は農民の一助となれるし、農民の境遇を変革する事が出来るのです。

本誌: 富平プロジェクトの前途に自信はありますか?大地のモデルは中国がとり入れる事ができるでしょうか?

藤田: まず、大地富平プロジェクトの成功の可否の50%は私の責任にあると考えます。残り50%の責任は沈東曙(北京富平学校校長)の手中にあります。
大地を守る会のモデルをそのまま中国に持っていくのは良くないであろうと考えております。農業技術を見ても中国の風土・気質・気候地理条件は顕かに日本と違うし、その詳細もまた違います。大地モデルの成功の鍵は整備された流通システムを確立したところにありました。例えば、大地を守る会と契約している農家には全て冷蔵設備があり、収穫された野菜はまず冷蔵室に入れておき、それから大地の冷蔵車で物流センターに運びます。しかし、私が見た中国農村の印象から申し上げますと、富平がすぐこの様にやろうとすれば困難が生じるかもしれません。
消費者側から見れば、中国の消費者の味覚、食品文化は必ずしも日本と同じではないので、そのままというわけにはいきません。
生産者、流通、消費者の三者はどの点から見ても、大地のモデルが「中国富平大地」にとって良い参考になりますが、そのやり方はどれもそのままというわけにはいかず、中国のお国柄に合わせてやらなければならないと私は考えます。

本誌: ここ数日私は大地の農家を見学に行きましたが、一部の農家は契約してから15年、18年も経っており、すでに白髪まじりの方達だったので感動してしまいました。ここでの問題は世界に於いても共通のもので中国にもありますが、経験豊かな農民が年をとり、多くの若者の労働力は農村で農業をやろうとはしません。大地ではどのような方法で若者を引き付けたのでしょう?

藤田:主に三つの方法で解決しました。まず一番重要なのは農民がそれなりの生活ができる価格の提示を確保し、更に良い価格で買い上げるよう努力する事。このやり方で農民の利益を確保することが絶対に必要です。二番目は全国各地の志の高い農業青年を連携させ、ネットワークを立ち上げて彼らを応援する事。これもとても重要な事です。そして第三に都市部の青年たちの中にも色々訳あって農村での生活にあこがれている者がおりますが、彼らは畑を持っていません。大地は、全ての契約農家のネットワークを通じ、これらの人達を栽培者に紹介して研修してもらいます。そうすれば、彼らはローコストで栽培が始められます。

そして、大地の何万もの消費者メンバーの中で忠誠度が大変高いのが、若い母親達です。彼女たちの食品安全の意識は格別高いのです。大地では若く美しい母親達を農村に特別招待し、若い農民達を励まして頂いてます。「我が家ではお宅で栽培した野菜を選んで食べてますよ。決してやめないで下さいね。この大根はすごく美味しいわ」等等、こんな言葉がけが助けとなっているのでしょう。農民達も若く美しい母親達が自分達を支援してくれるのを見て、それを動力に変え、また土台として、更に努力していく事でしょう。

(李凡さんの素晴らしい通訳と本誌実習生・潘煜の貢献に感謝します)

関連資料:
北京富平学校
北京富平学校は貧困削減と持続可能な発展を目指す民間の公益組織(NGO)。
2002年に茅于軾、吴敬璉、柳伝志、林毅夫、湯敏、資中筠等社会的に名声のある人々が創設し役員を務めている。“富平”とは即ち“富を平らにする、貧しい人を扶助する”と言う意味で、茅氏の提案された学校名。富平学校の趣旨は社会的責任投資と市民社会の発展を推進する事により、貧困削減と持続可能な発展を促し、公正で調和のとれた社会を創ろうとするもの。富平の五つの大きな事業分野は以下の通り。市民社会の建設、CSR(企業の社会的責任)と社会投資、環境と持続可能な発展、教育と就業、地域社会の総合的発展。

文:陳艶涛
編集:龔紫陌
小康雑誌ウェブサイトより翻訳して転載
http://xkzz.chinaxiaokang.com/xkzz3/1.asp?id=4958
翻訳:西口友紀子
校正:松江直子

This post is also available in: 簡体中国語

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