2006/10/25 by GLI Japan

アジアの社会的企業事情  ⑤まとめ

2006年9月23日~27日の期間に、香港のNPOによる台湾の「社会企業」訪問が行われました。
GLIネットワーカーでもある伊藤健さんがその視察に参加し、見聞きしてきたアジアの社会的企業・社会起業家を取り巻く環境に関する情報を提供してくれました。

①はじめに&香港編、②シンガポール編、③台湾編No.1:大学&政府機関、④台湾編No.2:台中の社会企業&協同組合組織訪問、⑤まとめ:アジアの社会企業、の五編に分けて掲載致します。

⑤まとめ【目次】
●アジアの社会企業=ソーシャル・ビジネス
●アジアにおける社会企業発展のオポテュニティー
●日本とアジアにおける「起業」の位置づけの相違
●おわりに
●アジアの社会企業=ソーシャル・ビジネス

以上、今回のフィールドトリップで見てきたアジアの社会企業の状況について間単に紹介した。マニラでの会議の際には主に東南アジアのケースについて 見聞きする機会があったのだが、今回は社会状況や経済水準がより日本に近い台湾・香港・シンガポールのケースについて理解を深めることができた。

レポートを読んでいただいた方は、きっと「社会起業」とは言うけれども、実際には従来型の産業モデルで、ちっともイノベーディブではないのではない か、という感想を持たれた方もいらっしゃるのではないかと思う。実際、東南アジアや東アジアで語られる「社会企業」あるいは「社会事業」は、日本で言うと ころのソーシャル・エンタープライズ、あるいはソーシャル・ビジネスあるいはコミュニティ・ビジネスにあたる。

我々が日本で議論している「ソーシャル・ベンチャー」には、多少なりとも“革新的なビジネスモデルで社会問題を解決する”というニュアンスがあるよ うに思う。それに対して、アジアの社会企業は、それが伝統的な経済モデルであっても、経済的・社会的な弱者やマイノリティーが受益者となるような経済活動 のことを指すことが多い。

●アジアにおける社会企業発展のオポテュニティー

ここで、ひとつ日本とアジアとの社会背景が異なるのは、社会福祉における国家の役割があるだろう。相対的に言って、日本は国家機関による社会福祉制度が一定の水準にあるが、アジア諸国においてはそもそも、国家の再分配機能が強くない。

特に歴史的に香港や台湾は、最近まで国民健康保険すらも存在せず、ましてや失業保険や生活保護、介護保険といったセイフティネットも存在しない。さまざまな社会問題は地元コミュニティの相互扶助の努力や宗教団体の手に委ねられていたところが大きいと言っていいだろう。

そのような状況下で、香港では特に近年の中国経済との一体化による社会底辺層の失業問題の深刻化、また台湾では921震災によるコミュニティ崩壊、 失業問題が大きな社会問題として浮上した。それを「起業」という方法論で解決しよう、というのがこれら地域での社会企業の基本的なコンセプトだと言える。

マニラの会議で見聞したところでは、東南アジアにおいては、旧来から存在する経済格差や貧困の問題を社会起業という方法論でアプローチするタイプの 社会起業家が多く見られるのも同じ文脈で理解できる。解決すべき社会問題の中で、雇用問題であり、貧困こそが単一にして最大の問題として捉えられているか らだ。

もちろん、アジアにおいても、ソーシャル・キャピタルや、社会のイノベーションの源泉としての社会起業の意義は大きく認識されている。しかしながら、その実例はどうかというと、やはり伝統的なビジネスモデルで雇用創出というモデルばかりが目に付くのが実情だ。

●日本とアジアにおける「起業」の位置づけの相違

もう一つは、「起業」という方法論の位置づけの違いである。広く中華圏において、「起業」は学歴や出自によらない社会階層移動の方法として、少なくとも日本社会よりはずっと一般的なものとして捉えられている。

台湾や香港では、例えば小売業やレストラン経営といったビジネスは日本よりもずっと参入コストが低く、夜市の屋台や個人事業からビジネスをはじめて 中小企業の社長になったような人が、誰しも親戚をたどれば2人や3人はいる。「起業して事業をする」ことは全く特別ではなく、一般市民にとって極めて現実 的な職業選択のオプションである。

このような状況下で、社会的弱者に補助金や給付金で結果としてのリソースを分配するのではなくて、ある種“機会均等”的な考え方から、「起業」とい うオプションを社会的弱者にも準備し、後押しすることがフェアな社会正義の実現として、現地の国民の支持を得ているのではないか、という印象を受けた。

●おわりに

社会起業という分野においては、明らかにアメリカやイギリスは、方法論においても、実践においても先進的であり、産業としての裾野も広く、参考にな ることも多い。ただし、台湾には台湾の、香港には香港の、そして日本には日本の社会的コンテキストに基づく最適なモデルがあるはずだし、それを追求して発 展させていくのが我々に課せられた課題なのではないか、という思いがある。そんな動機で、前回のマニラの会議、そして今回の台湾の考察団に参加してみた。

今回の考察団に参加して得た大きな収穫は、社会的なコンテキストは違えども、社会的な課題にビジネスの方法論でアプローチしようと奮闘する人たちに 出会えたことである。中国語を共通語にできるという言語的な障壁の低さもあって、香港と台湾、シンガポールの間には、すでに社会起業に関するコミュニティ ができつつあり、相互に研究の成果や、ベストプラクティスをシェアしたりするようなやり取りがある。

ゆくゆくは、日本からも、日本発のアイデアやモデルを、諸外国のソーシャル・アントレプレナーとシェアし、結果としてそれがほかの地域に波及したり、またお互いに交流できるようなコミュニティの形成に貢献できればと思う。

以上

情報提供者:伊藤健

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