2008/04/08 by GLI Japan

SVP東京 ベンチャーフィランソロピーモデルによる社会起業支援

ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(SVP東京)は、革新性の高い事業型のNPOや強い社会的ミッションをもつベンチャー企業を資金・経営ノウハウの両面で支援することを目的に2003年に東京で設立された中間支援組織である。

SVPは1997年に米国ワシントン州シアトルにおいて、アルダス社の創立者であるポール・ブレイナードによって創設された。SVPの創設メンバーのビジョンは、ベンチャー・キャピタルのモデルを応用して、より効果的にNPOを支援するモデルを構築することだった。

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SVP東京ディレクター 伊藤健

<ベンチャー・フィランソロピーモデル:既存の助成プログラムに対する革新性>

ベンチャー・フィランソロピーの特徴は、資金と経営ノウハウの両方を、長期的にNPOに提供することで、非営利組織の組織能力と活動の継続性の向上 をはかることである。それまでの既存の助成財団や行政による補助金によるNPO支援は、助成金という形の資金のみ、あるいはアドバイザリーなどのサービス のみであり、NPOが実際のニーズを必ずしも満足するものではない場合があった。

その理由の一つとして、財団や行政の助成はいわゆるプログラム助成は、単年度の助成がほとんどであることが挙げられる。本来NPOの活動は継続的な ものなのにもかかわらず、助成金は単年度で完了するプロジェクトを対象にするため、NPOは単年度のプロジェクトプランを作り、助成を申請し、年度末には その報告を作成するというサイクルでの運営を余儀なくされる。これがNPOにとって資金助成が面倒だと受け取られる一つの理由である。

また、通常の助成プログラムは特定のプロジェクトの費用を助成するものが多い。しかも、そこに必要な間接経費、特にスタッフ人件費やトレーニングに かかる費用、事務所経費など、特定のプログラムに対してかかる費用でないものは、助成の対象外とされる場合が多い。本来は、NPOのプログラム運営能力の 向上のためには、これらの間接経費が非常に重要であるはずなのに、間接費比率の低いプロジェクトが「いいプロジェクト」であるかのような見方がある。

ベンチャー・フィランソロピーは、既存の助成財団や公的機関によるNPOの助成にこれらの課題があることを認識し、中長期間にわたり、組織の経営能 力に対して、資金と経営ノウハウの両面でサポートする。一般的に資金の用途については制限がなく、その組織にとって重要であると思われる用途に使うことが 奨励される。翌年度以降の資金提供は、中間レビューを経て決定されるが、基本的に複数年度の助成とされる。

またベンチャー・フィランソロピー組織はNPOに対する経営支援も行う。IT、会計、法務やマーケティング、PRなど、NPOがその活動に必要な経 営ノウハウについて、専門家を派遣し、トレーニングを行う。あるいは、ITシステム、会計プロセスの構築など、必要なサービスそのものを引き受けるケース もある。

しかしながら、ベンチャー・フィランソロピーの経営面でのNPOへの支援が重要なのは、これらの職能的な支援だけではない。ベンチャー・フィランソ ロピーはNPOの運営スタッフにとって、外部者ではあるが、しかしそのNPOの理念に共感し、活動の趣旨や、取り組む社会問題の背景についてよく理解して いる支援者である。よく使われる例示としては、マラソンの「伴走者」に例えられる。

ベンチャー・フィランソロピーはベンチャーキャピタルとは異なり、金銭的な収益を追求するのではなく、社会目な効用の最大化を目指す。投資という言 葉を使ってはいるが、ベンチャーフィランソロピーの資金的支援は、返還義務のない助成金がほとんどである。ベンチャー・フィランソロピーの目的は、資金や 人材、経営ノウハウなどのリソースを、将来的に有望なNPOに対して「投資」し、NPOの社会的効用を増幅させ、社会的な「投資」効果を最大化することだ からだ。
<SVP東京の成立と活動>

ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(SVP東京)は2003年から活動を開始した、日本のベンチャーフィ ランソロピーの先駆的存在である。当初はベンチャー・フィランソロピーの理念に共感した、井上英之(当時NPO法人ETICプロデューサー)を代表とする 8人のメンバーが集まり、任意団体として出発したが、2006年には米国のソーシャルベンチャー・パートナーズに正式に加盟、2007年には会社形態に改 組、正式な登記を行った。

2008年3月現在、SVPには62名の「パートナー」と呼ばれるメンバーが所属している。SVPのパートナーは、30代の社会人を中心に、金融や 投資会社、コンサルティング会社、政府機関、ITサービス企業、製造業など、幅広い分野の社会人が参加しており、いずれも社会問題に強い関心を持ち、自分 の持つスキルを、NPOの為に役立てたいという動機からSVPに参加している。

<SVPの運営モデル>

SVP東京の設立当初の2年間は月例での「ネットワーク・ミーティング」と呼ばれる公開フォーラムの開催がその主要な活動として行われた。地球環 境、ジェンダー、地域社会、障害者問題など、さまざまな課題に取り組む社会起業家とその支援者や関心をもつ個人・団体のネットワークを形成することに注力 してきた。

2005年からは、そのネットワークを基盤にした投資活動が開始された。SVPのパートナー一人一人が、年間10万円の資金を出資し、社会起業家へ の支援プログラムの運営を開始したのである。助成金は1口100万円として、パートナー全員が参加する「投資委員会」で、応募団体を選考し、どの団体にど のような支援を行うか決定する。

SVPの投資先は「投資協働先」と呼ばれ、複数のパートナーが、一人当たり年間数十時間から100時間を越える時間をボランティアとして使い、その投資先の支援を複数年にわたって実行する。

SVP東京がユニークなのは、その「お金も出して、汗もかく」支援形態だけではない。SVPはまず書類での審査を経て、最終審査で投資を決定するま での数ヶ月にわたり、SVPのパートナーが分担してこれらの団体を訪問、どのような事業計画が好ましいか、現状の運営にどのような課題があるか、投資先と 打ち合わせを重ねるのだ。

このプロセスの中で、SVPのパートナーはNPOの取り組む社会問題の根源的な構造や、NPOの運営課題を理解する。また、投資先の事業計画と、 SVPがサポートするプロジェクトの計画を「投資申請書」としてまとめることで、SVPが効果的に投資先をサポートできるプロジェクトを含む事業計画を、 NPOのスタッフと一緒に策定する。

NPOのスタッフにとっては、SVPから受けるサポートの内容について打ち合わせるだけではなく、第3者的な観点から、組織や事業内容の課題や、将来的な事業方針やあるべき運営の形について、改めて見直すきっかけになる。

最終選考では、投資先と、担当したSVPのパートナーが共同で、SVPのパートナー全員にたいしてプレゼンテーションを行い、支援の可否を決定す る。この投資委員会は、単なる審査プロセスではなく、投資先は事業への熱意と、その達成をコミットし、またSVPのパートナーも事業への共感と、自分もそ の達成に対して時間的・リソース的な貢献をコミットする場であると言える。

事業プランと投資が承認されると、実際に助成金の送金が行われ、SVPのパートナーによる支援プロジェクトを開始される。NPOの経営状況と、支援 プロジェクトの進捗は、3ヶ月に一度開かれるミーティングでモニターされ、必要なリソースが投入されているか、当初計画した支援がうまく機能しているかど うか、他に必要なサポートがないかどうか、確認が行われる。そして、年度末には、再度「再投資委員会」が開かれ、投資先と担当パートナーが財務資料や活動 レポートを提出し、投資関係の継続の承認を行う、というプロセスである。

<支援の実際とパートナーの学び>

実際の支援活動は、パートナーの職業上の専門性を活かしたものがほとんどである。典型的な例を挙げると、新聞記者のパートナーがNPOの広報につい てのワークショップを行ったり、銀行や投資会社で勤務するパートナーが、NPOの財務会計についてのサポートを行うのが代表的な例であると言える。国際援 助の実施機関で働くパートナーが、寄付キャンペーンの実施の方法についてアドバイスを行うこともある。

パートナー個々人がその専門性を活かした支援をするだけではなく、SVPの持つネットワークを活かしたリソース・マッチングも重要な支援の一つであ る。NPOの必要な支援ニーズについて、担当のパートナーがSVPのネットワークの中で適切な人材を見つけて紹介したり、外部の協力団体を紹介することも 重要なサポートの一環である。

<投資先とSVPパートナーの協働と成長>

SVPのパートナーについてこのような説明をすると、毎年10万円という出資金を支払い、しかも年間100時間に及ぶ専門的ボランティアを行うという点で、よほど社会的意識が高く、崇高な理想と熱意を持った特殊な人たちなのではないか、と思われるかもしれない。

SVPのパートナーは、確かに高いビジネススキルを持ってはいるが、決して彼らが特殊だというわけではない。パートナーが口を揃えて言うのは、 「SVPの活動には、さまざまな学びがあり、志を同じくする投資先のNPOのスタッフや、他のSVPのパートナーとの出会いが楽しい」ということである。 SVPのパートナーは単なる社会的使命感から活動に参加しているのではなく、SVPの活動を純粋に楽しんでいるのだ。

SVPは、NPOとビジネスパーソンがお互いに出会い、学びあう一つの場を提供している。NPOはSVPのパートナーからビジネスの方法論や「異業 種」の観点を学ぶ。SVPのパートナーは、今まで知りえなかった社会問題や、そこに取り組むことの重要性を学び、その取り組みのプロセスに自分の能力を発 揮し、参加できるという喜びを得ることができる。これが、SVPパートナーを、投資先へのコミットメントと、積極的な参加に駆り立てるのである。

<日本の社会起業に対する資金提供とベンチャーフィランソロピー>

日本における社会起業、あるいは社会的企業に対する資金の提供は、いくつかのチャレンジがあるといえる。ひとつは、伝統的なNPOに対するプログラ ムはNPOを対象にしており、会社形態による事業型の非営利活動には資金を提供しない。また、NPOは法人形態の問題から、一般の銀行による融資の対象か ら除外され、融資を受けることができない。結果的に、社会的企業は、その当初資金を、自己資金に頼ることしかできないのが現状であり、これが日本における 社会起業の発展にとって大きなボトルネックになっている。

このような状況に対して、事業型のNPOに対して資金を提供しようとする動きがある。ひとつはNPOバンクである。日本には「APバンク」など、 NPOを対象に融資事業を行う資金仲介型のNPOがいくつか存在し、その貸出残高は数億円と小さいものの、NPOに対する資金仲介を担っている。NPOバ ンクの多くは、融資先に対する経営アドバイスも行うことで経営のサポートを行う。

日本における社会起業家を対象にした他の助成プログラムとしては、「NPO法人ETIC」が、経済産業省による資金的支援の下、日本の地方都市での 社会起業家に対する資金提供と経営サポートやネットワークの提供する、「チャレンジコミュニティプロジェクト」を実施している。また、「NPO法人日本国 際交流センター」(JCIE)では社会起業を対象に助成金を提供する「SeepCapプログラム」の運営実績がある。

これらNPOバンクの活動や、資金提供と経営へのサポートを伴う助成プログラムはSVPのベンチャーフィランソロピーモデルとの相似点はあるが、 パートナーの学びによるドナー・コミュニティの形成と、パートナーが深く投資先の経営にかかわる支援形態に、後述するSVPモデルのユニークさがあり、そ れが投資先の成長に大きく寄与している。

また、助成以外の資金提供の方法の開拓も、日本のソーシャルセクターにとっての大きな課題である。日本の民間資金助成の市場規模は、年間約2000 億円と推計され、米国の1%以下と非常に小さい。そもそも、「助成」という枠の中で資金提供をすること自体が、小さいパイの取り合いをするに等しい。

社会的事業が、チャリティとしてではなく、事業収入を伴う事業形態への転換を迎えている今、その資金の供給も、資金助成の市場からではなく、600 兆円と言われる金融市場から、「投資」として資金の供給を受るに耐えうる仕組みを構築することが、日本のソーシャル・セクターに求められている。事実、近 年SVP東京に対して寄せられる銀行や投資会社からは、「財務的リターンは低くてもいいから、助成でなく投資として資金を拠出できないか」という問い合わ せが多く寄せられている。

また、資金を提供した結果、投資先がどのような成長を遂げたのか、それによって、どのような社会的インパクトがあるのかを投資先とともに検証する SVPの活動は、投資先に対する「助成」ではなく、「投資」であるいうポジションを裏打ちし、そのプロセスと成果をビジネスセクターの言語で説明できる数 少ないモデルであり、そこにベンチャー・フィランソロピーの成長の大きな可能性がある。

伊藤健
ディレクター
ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京
ken.ito@sv-tokyo.org

<SVP東京の投資先>

NPO法人フローレンス
http://www.florence.or.jp/

地域の力で病児保育をサポート

NPO法人フローレンスは、通常の保育園・幼稚園では実施していない「病児保育」を提供するNPOである。日本の幼稚園・保育園では子供が37.5度以上の熱を出した場合に、感染に対するリスク回避から児童を
受け入れなく、両親が共働きの家庭にとっては大きな問題となっている。。フローレンスは、これが日本女性の仕事と家庭の両立の障害になっていると考え、地域の医院と提携しての、会員制の一時保育サービスを提供することで、この問題解決を図っている。

NPO法人多文化共生センター東京
http://www.tabunka.jp/tokyo/

多文化共生センターは、在日外国人の支援を行っているNPOである。SVPは、多文化共生センターの事業の中で、特にニューカマー在日外国人の中学 生年齢の子供たちに日本語の指導と、高校受験のための教科の学習支援を行っている事業を支援している。外国人中学生の高校受験は、一般の学習塾や日本語学 校ではサポートしていない事業領域であり、社会的マイノリティである在日外国人の日本社会への溶け込みに大きな貢献となっている。

NPO法人バイリンガル・バイカルチュラル
ろう教育センター

http://www.bbed.org/

「NPO法人バイリンガル・バイカルチュラルろう教育センター(BBED)」は、日本手話と書記日本語の2つの言語で教育を行うフリースクールを運 営して来た。基本的に手話での教育を認めず、口話法での教育を行ってきた日本のろう教育に対して、「ろう者には口話法ではなく、手話でも学べる権利を保障 するべき」との考え方に立ち、構造改革特区の制度を利用して、日本で初めて手話で教えるろう学校を2008年に設立した。

マドレボニータ
http://www.madrebonita.com/

マドレボニータは、出産後の女性の心身に対するセルフケア・ワークショップを行っている。日本の母子保健は、出産前の母体と産後の乳幼児のケアは行 われているが、出産後の母親のメンタル面、身体面でのケアが死角となっている問題がある。マドレボニータ代表の吉岡マコは、自身の産後経験と運動生理学の 知識をもとに産後のセルフケアプログラムを作成、1998年より教室を開始、近年では杉並区の産後ケアプログラムや、企業の女性社員の産休後の復帰プログ ラムに採用されるなど、注目が高まっている。

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