2011/07/29 by Matsue

生命の終わりに寄り添うこと–手と手・生命ケア発展センター(要約版)

2010年の暮れ、「上海市浦東手と手・生命ケア発展センター」(以下「手と手」)は、「ジェット・リー壹基金・騰訊潜在力模範賞」の最優秀賞を受賞した。さらにその後間もなく、「手と手」の「守護天使ホスピス・ケア・パートナーシップ事業」が、第1回「中国社会イノベーション賞」の最優秀賞を受賞した。中国でホスピス・ケアが提唱されるようになって20数年たっているが、今までこの問題が、社会から広く注目されることはなかった。ホスピス・ケアを専門とするNGOを志している「手と手」は、2009年3月に正式に活動開始した後、短期間の内に関連業界から広く注目を集め、好評を博すようになった。「手と手」は、どのような経緯でこの分野に参入し、活動を展開してきたのだろうか。

「手と手」は、上海で発足した「ウェン川大地震心理援助ボランティア団」から発展した団体だ。2008年の四川省ウェン川大地震後、上海コミュニティ心理健康発展専門家委員会の劉素珍主任の呼びかけのもと、心理カウンセリングの知識を持つ有志により、60数名から成るボランティア団体が結成された。この団体は、5月19日に四川省に向かい、2ヶ月余の間ボランティア活動を行った。上海に帰った後は、ボランティアらは各自の日常生活に戻っていた。

2008年8月、ボランティアらの会合の席で、上海市腫瘍病院の総合治療科でボランティア活動に参加したことがある一人がこう言った。腫瘍病院では、死に際するプレッシャーに直面できるボランティアを非常に必要としている、と。偶然に発せられたこの言葉が、上海に戻っていた黄衛平氏(「手と手」の創始者)の心に触れた。
「ウェン川大地震後に心理的支援を提供した経験のある私達こそ、病院が必要としている人材ではないだろうか」

上海市腫瘍病院の成文武主任は、米国留学帰りで、同病院の総合治療科(「緩和ケア科」とも呼ばれている)を土台として、上海のAAA級病院で唯一のホスピス・ケア科を創設した。国内のガン治療において欠けているホスピス・サービスを提供するためだ。「ホスピス・ケア科は、病院内で唯一もうからない科ですので、10数床を割り当ててくれたことは、すでに未曽有のことです。しかし、本当のホスピス・ケアをしっかり行うためには、末期ガン患者の最後の数ヶ月において専門的な看護を提供し、患者と家族の心理的なケアを行い、関連する専門的なサービスを発展させなければなりません」

このため同病院では、ボランティア団体によるサービスの導入を試みることにした。当初は、ボランティアの管理やボランティアへの心理的な支援等が追いつかず、ボランティアの流失率が非常に高く、サービスも専門性に欠ける部分があった。第1回目には30名だったボランティアも、第2回は16名、第3回目には8名になり、一年後には2名しか残っていなかった。ボランティアによるサービスは、保障や質の確保が難しく、成主任も、一度は導入についてあきらめかけた。しかしその後、「心理ケアの専門団体による協力が得られれば、病院の人手不足を補うばかりか、更に専門的なサービスを展開することができる」と考えた。「手と手」は、このような中で始まった。

「手と手」は、「全人的なケアを、全過程に亘って、全チーム一丸となり、全家族に提供する」総合的な看護様式を3年以内に構築することを目指し、2008年9月より、腫瘍病院と共同で1年余に及ぶ調査研究を行った。「手と手」の患者中心のサービスは、厳格かつ秩序だって設計されており、実践の中で模索されてきた経験に基づいている。「手と手」の王瑩副主任は、「2008年から調査研究、討論と試験的な実践を重ねてきた結果、現在の情況は、事業の開始当初とは大きく異なっています。つくっては壊すというプロセスを3〜4回繰り返しました」と言う。

「手と手」の事業は、末期ガン患者の生活という特殊な情況と向き合うものだ。ホスピス・ケアの様々な段階において、各患者や家族の個別の情況を十分に考慮したサービスを提供しなければならない。「手と手」では、最も初期の段階において、入院患者の基本情報を病院から入手している。そして更に家族とコミュニケーションをとり、患者自身や家族の特徴等、全体的な情況について理解を深めた後に事前評価を行い、サービス・プランを起草する。その後、再度患者と話しあって全体的なサービス・プランを確定している。

ホスピス・ケアや命の究極的意義を議論するとき、信仰という問題を避けて通ることは難しい。患者の信仰を尊重することは、「手と手」が堅持してきた理念だ。患者の信仰が何であれ、「手と手」はそれを尊重し、同じ信仰を持つボランティアが担当者となるようにしている。また、世界に古くからある宗教の流派からもホスピス・ケアに関する経験を取り入れることにより、人生の価値の模索をより豊かなものにし、患者を尊重しながら、その精神世界の探求にも寄り添えるようになった。

「手と手」では、「全人、全過程、全チーム、全家族」の「四全」看護モデルの実践において、患者を中心とし、多方面からの力を合わせ、サービス・チームの一人一人が互いに助け合う家族として、患者の生命の最終段階に共に寄り添う。また、患者との別れにともなう各チーム・メンバーの悲しみも互いにいたわる。サービス・チームは、患者の家族、医師、看護師、「手と手」のスタッフとボランティアで構成されている。ボランティアは、「四全」の中の不可欠な部分であり、彼らの専門性と自己調整能力は、サービス過程で大きな役割を果たす。このため、「手と手」は、ボランティアの育成に非常に力をいれている。

「手と手」の発展過程で、ボランティアの系統だった育成と管理は、常に事業の核心の一つであった。患者へのサービスについて模索したのと同様、ボランティアの育成と管理についても、実践を重ねることにより模索してきた。今では、新規のボランティアが正式なメンバーとなるためには、2ヶ月におよぶ総合的な訓練と実習を受けなければならない。担当する患者が決まり、サービスを開始してから患者が亡くなるまでの間、ボランティアが患者と接する期間は通常1ヶ月以上におよぶ。この間、「手と手」は、患者の状態とフィードバックをもとに、ボランティアと一緒にサービス・プランを調整し、様々な方法で監督・指導を行うことにより、ボランティアがサービスを提供する過程で発生する様々な心理的な反応も調整する。担当していた患者が亡くなった後、ボランティアには1〜2ヶ月の休みをとるように推奨している。患者との友情が生まれるため、亡くなった後には心が痛み、患者がもっと長く生きられなかったのは自分のせいではないかという自責の念を感じることさえもある。ボランティア自身も心理的なケアと調整が必要になるのだ。

「手と手」は、継続的な育成と適時の専門的なサポートにより、安定して専門性の高いボランティア・チームを育てている。2009年3月の正式な事業開始以来、200余名のボランティアを養成しており、核心となるサービス・チームは40〜50名で安定している。今までに、200名近い患者と家族にホスピス・ケアを提供してきた。多様かつ総合的なサービスにより、患者の痛みや有害な感情を軽減し、身心への圧力と死に対する恐怖を緩和し、生命の質と尊厳を高める。家族が一息つけるように支援を行い、グリーフ・カウンセリング、介護指導、心理的な緩和等、必要とされる専門的支援を提供し、患者をサポートし、家族による患者への看護能力と自己管理能力を高める。また、ボランティア・チームを育成し、生死に関する教育の普及、市民社会における死と喪失の悲しみへの認識の促進などを行っている。

「手と手」による実践は、NGOが、様々な社会的資源を結合し、限りある医療資源では提供が難しい生命へのケア・サービスを補えることを示している。現在、上海では毎年約35,000人がガンで亡くなっているが、医療機関が設置している病床数は、200に満たず、多くの患者は家で生命の終わりを迎えざるを得ない。また、社会のホスピス・ケアに対する不理解や、伝統的な考え方の影響により、ガンや死について多くの誤解やタブーが存在する。このため患者や家族にとっては、家庭が大きな危機にあるにもかかわらず、社会からのサポートが不十分となる傾向がある。統計によれば、一人の人間の死は、少なくとも5人の家族と7人の親戚や親しい友人に影響を与えるとのことだ。上海では、毎年数十万もの人々が、直接的または間接的に臨終や死、喪失の悲しみといった影響を受けており、生活や家庭において多大な困惑や不安が生じている。ガンの発生率が上昇し、高齢化が加速する中、もっと多くの社会的な力によるホスピス・ケアを推進する必要がある。

組織の運営とサービスの展開において、資金は必要不可欠なものだ。幸いにも「手と手」は、発展初期に政府から重要視され、政府からの直接的な資金投入と、一部のサービス購入による資金援助を通じ、初期の実践・模索とサービス展開が可能になり、団体として地に根を下ろすことができた。

「手と手」の生命ケア・サービスは、継続的な実践により、社会の多方面からの賛同を得てきた。財団や企業等団体からのサポートの他にも、多くの患者や家族、ボランティアや社会福祉活動に熱心な人々が「手と手」に寄付を行うようになってきている。これにより「手と手」は、上海公益事業発展基金会内に開設した「生命ケア基金」を推し進め、より多くの危機に直面している家庭、特に貧しい家庭を援助できるようになった。王副主任は、「今年、手と手では、患者の看護に忙しく余裕のない家族のために、生命ケア相談ホットラインを開設しました。命が始まるときには、喜びを以て迎えられるます。それと同じように、終わるときも安らかであるべきだと思います」と語る。

王氏は、「手と手」の創始者の一人だ。2008年に四川省で心理的支援のボランティアを経験した後、人生の方向が定まったと言う。1970年代の終わりに生まれた王氏が近距離で死と向かい合うとき、どんな影響を受けているのだろうか。

王氏は、「死を全く恐れていない、と言ったら嘘になります。自分の中に死への恐怖があることは認めているし、そのために生命が自分にとって何を意味しているかを理解したい、という気持ちがあります。ここでの仕事は、成長の道です。あるボランティアの方の言葉をいつも心に留めています。『患者の一人一人が、絶版になった書籍だ。』という言葉です。出会った患者の方々は、皆私の人生の先生です。死は如何なる人も避けて通れないこと。命の終点から振り返るそのとき、私は自分が生きる時間を決めることはできませんが、その時にどのような生活態度と方式をとるかは選ぶことができます。死への恐怖が内在的な力となって私を落ち着かせ、決然と自分がやりたいことに向かわせます。これは私が“手と手”から得たことです」

*黄衛平氏らによる事業創設の経緯については、「手と手・心理ケアセンター: 組織化への変革」をご参照下さい。

筆者:劉海英
出典:中国発展簡報、2011年春季刊
原文:
http://www.chinadevelopmentbrief.org.cn/qikanarticleview.php?id=1158

要約:李君暉
翻訳:A.K
校正:松江直子

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