2010/03/17 by GLI Japan

マザーハウス  途上国から世界に通用するブランドをつくる

「ジュート」という天然繊維をご存じだろうか。コーヒー豆の袋でおなじみの、ざっくりとした風合いの麻だ。このジュートを素材としたマザーハウスの バッグを手に取った時、とてもしなやかで繊細なことに驚いた。あまりに柔らかいので、破れやすいのではと案じつつ使ってきたが、2年経った今でもそんな気 配はなく、明るく軽快なデザインのバッグは年頃の娘たちにも好評だ。

「途上国から世界に通用するブランドをつくる」これが株式会社マザーハウスの理念だ。「途上国」だからといって「安かろう、悪かろう」ものでは なく、途上国に眠る人や資源の可能性に光をあて、その国ならではの素材や技術を発見し、高品質な製品をつくりることで現地の自立した経済活動を目指す。

「かわいそうだから買ってあげる」のではない。格好いいから、個性があるから、品質に妥協がないから、バッグ一つ一つに物語があるから、買いたくなる───そんなバッグを途上国で作り、発信したい。そんな想いのつまったバッグが店頭に並ぶ。

素材はバングラデシュの特産品である「ジュート」や、同じくバングラデシュ産の牛革、そしてネパールの伝統織物である「ダッカ織り」という生地など。

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マザーハウス入谷本店の店内

本店を東京の下町、入谷に構えたのもマザーハウスのこだわりだ。大通りから少し入った路地、無造作に並んだ植木鉢の先に、入谷本店はある。温かみ のある白木を基調とした店内では、お客様とスタッフが柔らかな笑顔で話し込み、生産地から運ばれた小物や手作りスケッチブックに記された物語は、彼の地の ぬくもりやマザーハウスの歩みを静かに語っている。

自分だけを拠り所に、現場に飛び込む

マザーハウスのはじまりは、代表兼デザイナーである山口絵理子さんが、大学4年生の時、2003年に途上国の現実を知るためバングラデシュを訪れたことから始まった。

空港につくなりひどい悪臭、裸の赤ん坊、物乞いの人々。「こんな世界があるなんて知らなかった」そんな驚きとともに、 自分にできることを探そうと、山口さんはバングラデシュの大学院に進学することを決意。 しかし実際にバングラデシュに住もうとして直面したのは、家を探 すのも一苦労、水や電気を通してもらうのにも賄賂がいる、という現実だった。

そんな中、山口さんは、一つの素材と出会うことになる。その素材が、「ジュート」。ジュートとは、光合成の過程で綿などの5〜6倍の二酸化炭素を吸収し、廃棄されても完全に土に帰るという環境にやさしい素材だという。

山口さんは「これだ!ジュートを素材に、最高のバッグをつくり日本で販売しよう」と決意する。しかしながら、その道の りは、何度も裏切られ、「お前には無理だ」と言われ、困難に満ちたものだった。あるときには信じていたスタッフにパスポートを盗まれたり、あるときには工 場の中身がすっかりなくなったり…。

そんな状況も乗り越え、山口さんはジュートを使ったバッグの製造・販売をする会社として2006年3月にマザーハウスを設立。「マザーハウス」という名前は山口さんが尊敬するマザー・テレサと、路上に眠る子どもたちに安心できる家を与えたいという願いから決めた。

現地で最初に作った160個のバッグを携えて日本に帰ると、ひたすら飛び込み営業で販路を開拓。バッグのプロとして更に知識と技術を得るため、 バッグ職人のもとにも通った。現地と日本を行き来して生産と販売をやりくりする間に、何度も挫折や裏切りを経験したが、徐々に協力してくれる販売スタッフ や社外アドバイザーが増えていった。そして応援してくれるお客様も少しずつ増えていった。

2007年8月には、東京の下町、入谷に直営1号店をオープン。大学の先輩で、最も早い時期から社外アドバイザーとして相談にのっていた外資系投 資銀行エコノミストの山崎大祐さんが、職を辞し、副社長として入社。山口さんが現地の生産に集中できるよう、強力にバックアップした。

2008年に設立した直営工場では、2010年3月現在、25名に増えたスタッフが、マザーハウスの理念に共感し、熱い想いを持ちながら製品づく りに携わっている。日本のスタッフは30名超える。店舗は起業からわずか4年で6店舗を構えるまで成長したが、彼らの目的は、会社を大きくすることではな く、途上国に眠るより多くの可能性を開花させることだ。

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バングラデシュ直営工場にて、左から二人目が山口さん、7人目が山崎さん

2カ国目への挑戦

途上国はもちろんバングラデシュだけではない。世界中にはまだまだたくさんの埋もれた可能性があるはずと、アジア、アフリカを視察する中で、2 カ国目として、アジアで2番目に貧しいとされるネパールへの進出を決意。そこで出会ったのが「ダッカ織り」。ネパールの女性が手織りで織り上げる温かみの ある生地だった。高い技術を持ちながらも、政情不安のために閉鎖寸前の状態にあった生地工場と契約をし、日本の消費者に好まれるような色合い・模様の生地 の生産に挑戦する。そしてバングラデシュのものとは全く違った趣のバッグを扱う新ブランドを打ち出して、新たな顧客層を開拓した。

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ダッカ織りを織るネパールの女性。1メートル織るのに1週間かかる生地も

支持されるマザーハウストレードの精神とモノ作り

マザーハウスには以下の取引・販売方針がある。

1.生産地の個性を生かすモノ作り
2.労働環境の整備
3.地球環境への配慮
4.妥協しない品質・商品基準
5.生産パートナーとの販売・生産情報等の共有
6.いいモノ作りへ最適な契約

百貨店の中に構えた店舗では、通りすがりのお客様が半数近くを占める。バーゲンセールを一切行わないにも関わらず、他社と同程度の売上げを実現しているという。これらの店舗の成功は、マザーハウスの商品が一般の消費者に受け入れられていることの証である。

直営店は1号店の時から、スタッフが木材を切り、ペンキを塗って、自分たちで作り上げている。コストが通常の五分の一程度に抑えられる以外に も、スタッフの達成感が高まり経営理念の共有がなされること、開店までの過程をブログで公開することで、お客様にも作り上げるプロセスを共有してもらえる メリットがある。

チームマザーハウス、そして他者とのつながり

ホームページには、「チームマザーハウス」として16名の日本人社員と16名の外国人社員の顔写真が載っている。山口さんは現地で学んだベンガ ル語・ネパール語・ヒンドゥー語を駆使してスタッフと話し合い、共に働く一人一人の向上心を引き出し、その頑張りは逆に彼女を励ましてきた。

日本でも生産地でも、仲間とはとことん話し合う。通勤時間が長く育児との両立に悩んで辞める決断をしたスタッフのために、より通いやすい場所に お店を作ってしまったりもした。また生産地とも週に一度はビデオチャットを使って意見交換を行い、店舗での反応を直接伝えている。自社工場では国で一番環 境の良い製造業工場を目指し、清掃の徹底・照明の倍増、工員たちへの健康診断・医療保険・年金・ローンの導入、給食・作業服の提供など、福利厚生を充実さ せている。「マザーハウスのみんなは家族みたい」という現地スタッフ。

社長、副社長、現地ディレクター、店舗ごとのブログは大人気だ。出張や買い出しで出かけた先の光景、「小説より奇なり」の人間ドラマ、思わず吹 き出すズッコケぶり。「成長も失敗も公表してブランドの成長を可視化してきた」ことがファンを定着させた。その応援の声は全スタッフを支えるとともに、商 品の評価やもの作りのヒントが得られる。

また、企業やアーティストとのコラボレーションにも積極的に取り組んでいる。H.I.S.と継続的に取り組んでいる「バングラデシュへのスタ ディツアー」では、ツアー参加者がエコバッグ作りに挑戦する。工員が目を輝かせて指導し、お客様に会うことで責任感が高まると同時に、お客様も商品の背景 を深く理解する。

マザーハウス式社会貢献

山口さんは「社会起業家」と呼ばれることについて「なぜ『社会』とつけなければならいのかが分からない」と言う。「企業は税金を払っている時点 で、社会に貢献しているし、途上国では雇用自体が社会のためになっている」と。生産国を隠そうとする有名ブランドもある中で、マザーハウスは「途上国発」 のブランドを世界に発信したいと願う。1途上国1商材を開発し続け、それらを集めたデパートをつくるのが当面の目標だ。

また、すべてのお客様が参加できる「ソーシャルポイントカード」は、購入ポイントが一定額に達した時、1500円のキャッシュバックとともに 1000円が生産地での社会貢献活動に使われる仕組みだ。これまでに2度のサイクロン被災地支援とストリートチルドレン自立支援NGO「エクマットラ」へ の通学バッグの提供などを行ってきた。最近行われた「わらしべプロジェクト」は、藁に見立てた「1本のジュート」を物々交換し、エクマットラの子どもたち が職業訓練に使う「ミシン」に辿り着こうという試みだ。ブログやツイッターで出没場所と日時を知らせてひたすら待つ。誰が何を持ってくるかは、来てのお楽 しみだ。子どもたちも、このミシンが自分たちに届くまでの物語をきいたら、きっと大喜びするだろう。

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「あ、マザーハウスだね!」初めて会う人が私のバッグを見て微笑んだ。このブランドを通じて途上国の作り手さん、日本の売り子さん、そしてその夢 を応援する人ともつながれる。山口さんたちの頑張りを思い出して自分も頑張ろうと思える。マザーハウスは作ること、売ること、持つことのすべての過程で、 その主体に希望の光を与えるブランドだ。

株式会社マザーハウス
http://www.mother-house.jp/

写真・資料提供:株式会社マザーハウス

編集: 松江直子

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