2010/01/25 by GLI Japan

長者安居服務協会(香港) 馬錦華

2010年1月16日、第十回ISL社会イノベーターフォーラムでは、香港の著名な社会起業家である長者安居服務協会事 務局長の馬錦華(ティモシー・マー)氏が登壇し、ITを使った革新的な高齢者サービス事業を始めるに至ったいきさつや社会起業家としての心得を語った。人 懐こい笑顔と気配り溢れるユーモアで聴衆を引きつける馬さんだが、起業のきっかけは、1996年、香港を襲った大寒波で150人もの独居高齢者が亡くなっ たことだった。愛すべき高齢者を社会のお荷物ととらえる当時の風潮に疑問を感じていた馬さんは、会長から給料も知らされないまま国際NGOの職を捨て、 40才で新しい事業を始めた。

長者安居服務協会のサービス

香港の高齢化率は現在13%だが、20年後には24.3%になると言われている。一人暮らしの高齢者が24時間安心して暮らすために必要なサービ ス、既存のサービスの複製ではない、ニッチでユニークなサービスを作り出すために、馬さんはまず緊急連絡システムに使えそうな機器を市場で調べた。一足先 に高齢化が進んだヨーロッパで多くのユーザーを獲得しているスウェーデンのメーカーと契約し、以下のサービスを開発した。

1. PE緊急時リンク(Personal Emergency Link

月に100HK$(約1200円)の会費で、利用者宅にハンズフリーのスピーカーフォンを設置し緊急時に連絡を受けたスタッフが必要に応じて救急・ 警察への通報を行う。利用者の既往症などの登録情報を搬送先病院へファックスすると同時に、親族等に連絡する。既存のホットラインサービスは録音対応が主 流だが、協会では2カ所のコールセンターと50のサービスステーションに70人のスタッフが交代勤務し、24時間対応で高齢者の安心を直接支えている。 1996年の開設以来、のべ400万回以上利用され、19万5千人以上の命を救ってきた。

コールセンタースタッフ

2. 高齢者リング・ホットライン(Elder Ring Hotline)

ソーシャル・ワーカーや訓練を受けた1000人のボランティアが、香港の高齢者の生活上のあらゆる質問に電話で答える無料サービスのほか、著名人が 録音した生活情報案内や必要に応じた訪問を行っている。ボランティアは在宅勤務も可能で、サービスの合計時間によるアワードを与えて激励している。

3. その他、医院管理局や地域の病院の協力により、カルテの転送や退院後の健康サポート電話相談サービスを提供するテレヘルスサービス(一部地域)、外出先での緊急事態に対応するモバイルリンクサービス、家事・介護・子守・修繕など家政サービスを提供するイージーホームサービス、高齢者と介護者のためのフリーペーパー「ゴールデン・エイジ」の発行などを行っている。

8割の事業収入と2割の寄付金という独自資金のみで運営されている香港屈指の社会的企業として、香港政府やシュワブ財団をはじめ数多くの団体から賞 を受け、様々な委員会や財団で役職につくなど大活躍の馬さんだが、起業当初は顧客数が伸びず、やればやるほど赤字になるというジレンマに陥った。なぜ乗り 越えられたのかという質問にたいし、馬さんは社会起業家としての資質・自信・事業への情熱があったことのほかにクリスチャンとしての信念にも助けられたと 答えた。自らも投資し友達からも出資を募って凌いだが、赤字から黒字への転換点になったのは、顧客数が2万5千を超えた時。現在では6万を超える高齢者に 利用されている。使い道に制約の多い公的資金には一切頼らないが、一定の条件を満たす高齢者が緊急時リンクサービスを購入する場合、行政は100HK$の 補助金を毎月利用者に出す。目下4つの競合NGO・業者があるが、協会はもっとも大きなシェアを誇っている。

香港でなぜ孤独死が起こり、このサービスが有効なのかと問われ、馬さんは各団体が高齢者ではなく自分達の利益を優先すること、伝統的チャリティは保 守的・閉鎖的で協働に非積極的であること、個人情報保護政策などを原因としてあげ、アドボカシーに注力するべきだと強調した。たとえば、香港で救急車を呼 ぶ場合、派遣が適切かどうかを判断するために「本当に具合が悪いのか?」といった4つの質問をすることになっているが、質問に答えているうちに高齢者は我 慢することを選ぶ傾向があるため、高齢者にはこの質問をやめるよう政府に提言をした。現在では協会に登録している人からの呼び出しでは、質問が免除されて いるが、このような事が社会起業家に期待されるアドボカシーであり、私たちは単なるライフラインではなく、高齢者を異なるサービスにつなぐ情報プラット フォームなのだ、と語った。

香港の社会的企業

社会的企業について、2000年ころまで明確な定義はなかったが、主要テーマは恵まれない人に対する雇用創出。1990年代半ばから自立的な財政基 盤をもつことが目指されるようになった。2009年秋時点で330以上の社会的企業と言われるプロジェクトが登録されており、その財政基盤は公的資金・自 己資金・寄付金と様々である。政府はESR(Enhansing Self Reliance)ファンドや諮問委員会設置などの支援方針を打ち出し、大学でも促進策がとられているが、実際の行動はあまりない。社会的企業の経営者は ソーシャル・ワーカー出身者が多く、ビジネスの訓練を受けていないため起業家的でない人が多いのが課題。市場のない所に供給しても持続できない。

NPOのイノベーションの秘訣

馬さんは毎年自分に次の三つの質問を問うという。

・受益者の何を変えたいのか

・事業に失敗したら、一番困るのは誰か

・サービスを利用した人からどんなコメントをもらいたいのか

これらの質問に答えることで、自分のミッションや価値観、サービスの質について再検討できる。「なぜいつも笑っていられるかと聞かれるが、それは私 がその日に何をするべきか知っているからだ」カリスマと情熱でスタッフに影響を与えることができる。高齢者に愛情を持って接することのできるスタッフを集 め、研修やチームビルディングで彼らに対する動機付けを行うことも重要。自分が参加するマラソンに社員を誘い、応援団を作って盛り上げたりしている。4ヶ 月に一度、全スタッフによるミーティングをして運営の透明性を確保。たとえば1000万ドルの負債があったり、300万ドルの寄付があったりしても、ス タッフはすぐ知ることができる。みなが同じ船に乗っている感覚を作り出すことが重要。また、サービスのプロモーションも大切。20分のPRビデオを毎年テ レビで放映するが、およそ200万HK$の寄付と1000人の新規ユーザーを獲得することができる。サービスのインフラとして、また危機への対応時にも鍵 となるのはパートナーシップとネットワーク、そして高い品質だ。ステークホルダー・スタッフ・地域とよい関係を維持し、民間企業とも協力関係を構築してそ の専門性を導入したりCSR活動と協働したりする。

「I shall pray for the change that you can make to the world

ビジネスセクターの人は専門性とネットワークを持っているとして、馬さんは参加者に熱く語りかけた。「ここにいる皆さんに社会起業家として第二の人 生を生きることを勧めたい。社会の中であなたが果たすべき役割がきっとある。起業する皆さんのために祈ります」そして茶目っ気たっぷりに付け加えた。「退 職する前に、十分な貯金をしてね!」

長者安居服務協会(香港)

http://www.schsa.org.hk:8080/gb/www.schsa.org.hk/b5g/news/news_phone06.html

文責:松江直子

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