2008/05/07 by GLI Japan

都会の畑つきエコアパート 豊かさの温故知新

下町の三代目大家さんの挑戦
かつては三世代同居が当たり前だった日本。戦後は世代ごとに家を建てる風潮になっており、東京下町にある築37年の花園荘も限界を迎えつつあった。大家で ある父から建て替えの相談を持ちかけられた平田裕之さんは、どうせやるなら単なる収益事業の場としてのアパートではなく、都会におけるエコロジカルな環境 とコミュニティ再生の核となるような場を目指したエコアパートを建設しようと思い立った。

まず、環境設計のプロである建築家、地元の頼れる工務店、施主であるお父さんとコーディネーターの自分、現場記録の妻という5人でプロジェクトチームを発足させ、半年の時間をかけて、このプロジェクトで実現したいことを明確にしていった。

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・環境に配慮した賃貸物件を建設し社会の良質なストックにする
・顔の見える安心な地域コミュニティの形成を行う
・アパート経営としての新しいビジネスモデルになる

平田さんは沢山の本を読み、先駆的な事例を見学し、山に出かけて柱材を選び、多くの人の知恵や技術、経験を求めた。その有力なツールとなったのが、プロジェクト開始と同時にはじめたブログで ある。土地の条件や採算性の制約がある中で本当に実現できるのかという不安を時折のぞかせつつも、常に明るく前向きなブログは、多くの人の共感を呼び、 CANPANの個人ブログ大賞を受賞した。また、足立区環境基金の助成対象事業になるなど、事業自体も社会的に期待されている。ブログでは、建築家と施工 者、そしてコーディネーターがそれぞれの立場から、「やりたいこと」と「できること」のバランスを見極め、書き込みをして地道な調整を進め、以下の主要エ コアイテムの導入が決まった。また、建設開始後は、ひとつひとつの工程や完成後は見えなくなる部分も細かく公開した。

主要エコアイテム
●奥多摩産無垢材・天然水硬性石灰・土間のレンガなど、こだわりの建材
●自然の力を最大限利用する太陽熱集熱システム新「そよ風」
●建物の南北両側にグリーンカーテン
●各戸に省エネサポートシステムのモニター画面を設置し、エコライフをサポート

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つながるエコ―近隣との良質な関係を生み出す仕組み

日本の都市部のアパートでは、庭付き物件はとても少ない。しかし、居住空間を犠牲にしても、平田さんは小さな畑(庭)のある暮らしにこだわった。そ れは、地元のコミュニティガーデン(注1)をNPOとして運営し、土と触れあう生活が、地域交流の活性化や食育、環境、やすらぎなど多面的価値を生み出す ことを見て来た平田さんの実感があったからだ。
それはまた、パーマカルチャー(注2)を設計理念とする建築家の山田貴宏さんの考えでもあった。

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花園荘は元々10世帯のアパートだったが、それを4世帯にし、1世帯ずつをメゾネット方式にして床面積を確保した上で、各戸に小さな畑(4x4m) を付けた。台所や玄関を近くに配置し、畑が生活の一部となるよう工夫。収穫を楽しむと同時に、野菜くずなどを上手に土に戻す。散水や掃除に使う各戸の雨水 タンクは、古いワイン樽を地域の水道屋さんが加工し、中で対流が起こって水が腐りにくいしくみになっている。隣との間に柵はなく、庭に出ている人同士が声 を掛け合いやすい。建物横の共有スペースには、職人さんが端材を利用して作ったベンチとテーブル、掲示板、ぶどう棚、ハーブガーデンがあり、皆で集まった り、手入れをしたりする。

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地域全体とのつながり

この点で大事なのが、施工者である地元の工務店の役割。平田さんはあえて建築家の親しい工務店ではなく、地元の腕利きである大森工務店に依頼した。地域に仕事が回れば地域経済が活性化し、施主や入居者としても住まいに関して気軽に相談できる相手が地域に居れば安心だ。

工務店や関連業者は、このエコアパートプロジェクトの経験を、職人さんの腕に蓄積し、地域に広げることができる。担当の菊池さんは、プロジェクト チームによって練りこまれたコンセプトを、職人さんたちに伝え形にするという難しい役割を見事にこなした。また、平田さんが職人さんたちの技をブログで紹 介することは、職人さんたちの大きな励みになった。このほかにも、プロジェクトTシャツで一体感を盛り上げたり、ブログの書籍化のために編集者やカメラマ ンが現場に足しげく通うなど、エコアパートプロジェクトは入居者が決まる前から、多様なつながりを生み出していった。

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エコアパートに対する高いニーズ

新花園荘には、「つながるエコ」であるからこその、通常のアパートにはない「手間がかかる」という特徴がある。共有スペースの果樹の剪定・害虫駆 除・落ち葉掃きといった作業であるとか、外壁に使う自然系塗料は数年に1回は塗り直すといった「手間」である。それを「面倒」ではなく「楽しみ」と捉える ことにより、住まい手のライフスタイルの変革が可能になる。

「そんな物好きな入居者はいるのか?」少し弱気になりながら、入居者の募集をブログ等で開始したところ、平田さんも驚く程多くの申込み者が現れた。現地見学をしてもらい、住まいに対する考え方を確認した上で入居者を決定した。

建築家や工務店にはその後も「エコアパートに住みたい」という問い合わせが多いそうで、今後建て替えを予定している大家さんはこの市場に注目すべき ではないだろうか。平田さんはアパート経営者としてこの経験を振り返り、建設コストが少しかかりすぎた(4400万円)点とメインテナンス費用をどうやっ てまかなうかが課題だと述べている。また56平米と畑17平米で、12万3000円という家賃だが、見学会で平田さんが問いかけた所、23区内で駅近、公 共料金も抑えられるので高くないという人が大半だった。

「豊かさの指標が、モノからゆとりややすらぎに移っていくこの国で、自然と調和する家造りはもう一度見直される時代が来るような気が、私はなんとなくします。温故知新ですね」と いう平田さん。建物自体をエコにするだけでなく、お金には換算できない価値のある「良質のコミュニティ」を形成し維持することは、エコアパートビジネスモ デルのポイントと言えるかも知れない。平田さんのように、その手間を「楽しむ」気持ちがなければ、エコアパートの大家は務まらないだろう。

これからはじめての夏を迎えることになる花園荘が、どのように暑さを乗り切り、コミュニティの核となって行くのだろう。今後も注目していきたい。

*注1 コミュニティガーデンとは、1980年代よりアメリカで盛んになった地域運動。地域住人が楽しむため に、使われていない土地に花や緑を植えて憩いの場とする。平田さんの地元の足立区でも、住みよいまちづくりの一環として「プチテラス事業」を実施してお り、これに環境問題という要素を加えた「六町エコ(環境)プチテラス」というテスト事業を、足立区役所、(財)まちづくり公社、平田さんが代表をつとめるNPO足立グリーンプロジェクトの三者が協働で運営している。

*注2 パーマカルチャーとは、PermanentとAglicultureもしくはcultureを足した造 語で、持続可能で永続的な我々人間の生活を実現するための考え方。Aglicultureという言葉からもわかるように、我々の生命が依存している農と食 を基本として、住まう器である家、建築、あるいは着るものまで含めて、生活全般を生態系的にも健全で健康なシステムにしていこう、というもの。(エコアパ ブログより)
パーマカルチャーセンタージャパン
日本の風土に根ざしたパーマカルチャーの研究・実践・普及を行う団体。

写真:エコアパブログより

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