2009/05/21 by GLI Japan

愛と正義と勇気の経営 スワンベーカリー

「障害のある人もない人も、共に働き、共に生きていく社会の実現」このノーマライゼーションの理念を実現させるため、“宅急便”で有名なヤマト運輸の創業者である故・小倉昌男氏が、会長を退いた後に私財を投じて設立したのが株式会社スワンだ。社名は、みにくいアヒルの子と思っていたら実は「白鳥=スワン」だったというデンマークの童話作家アンデルセンの作品がヒントになっている。

スワンベーカリー誕生の背景

きっかけは1995年の阪神大震災だった。余震の続く中、ヤマト運輸はいち早く救援物資の輸送を始め、陣中見舞いに赴いた小倉氏は、障がいを持つ被 災者が一般の被災者より更に苦しい情況におかれているのを見た。そして、人口の約5%、約600万人といわれている日本の障がい者の大半が、全国に 6,000箇所以上ある共同作業所や小規模授産施設で働いているものの、1カ月の給料は1万円以下という低さであることを知って心を痛める。

福祉施設の幹部職員に経営のノウハウを伝授しなければ低賃金からの脱却は望めないことを痛感した小倉氏は、あってもなくてもいい「製品」や「作品」 作りではなく、一般の消費者を対象としたマーケットで「売れる商品」創りをめざしたセミナーを1996年から全国各地で開催し、意識改革に取り組んでき た。

この過程で偶然出合ったのが「アンデルセン」「リトルマーメイド」を全国展開しているタカキベーカリーの高木誠一社長だ。高木氏は、戦後の食糧難の 時、自社で開発した冷凍パン生地の特許を他社にも開放した戦後復興の功労者で、小倉氏から障がい者の苦境を聞いた高木氏は、その場で自社のパン生地の提供 を申し出た。実践の結果、障がい者もおいしいパンを焼けることがわかり、また作っている様子は、客から見えるきれいな仕事で、パンは毎日需要があることか ら、小倉氏はノーマリゼーションを進めるのに適した仕事だと判断した。そして国の障害年金と合わせて障がい者が自立できる金額として、月給10万円以上支 払えることを実証し、全国の福祉施設にお手本を示すことができた。

1998年6月スワンベーカリー銀座店が第1号店としてオープンし現在直営店は3店。無償でパン製造技術研修などのサポートを行うチェーン店は26 店舗が各地に展開している。障がい者の職員数は、全店で約280名、知的、精神、身体に障がいのある方を雇用しているが、その7割以上が、知的障がい者 だ。

経営ポリシー

障がい者雇用と経営を両立するべく、愛と正義と勇気の経営を実践する。は障がい者と共生する愛、正義は損得よりも善悪の理念、勇気は諦めず実践して行く勇気だ。事業とは、それが世の中に役に立つことであれば必然的に市場に受け入れられ、持続的経営が可能であり、経営できないとすれば、それは経営者に問題があるというのが彼らのポリシーだ。

人材開発

「障がい者の新入社員が来たら、初日から褒めます」現社長の海津歩氏は語る。「彼らは生まれてからずっと、自分に自信を持てないで来た人が多いか ら、今の君でいい、と自信を持たせる意味で褒めるのです。彼らは最初疑い深い目で僕を見ますが、僕は嘘は言っていない。実際、パン作りの初心者が初日に作 るパンは、健常者も障がい者も同じようなものですから」

彼らは作業工程を細分化・単純化・パターン化し、一つの工程をやりきる小さな成功体験を早く多く蓄積させる。やがて一人の人が、次第に多くの工程を 担当できるようになる。たとえばパンをこねることから始まり、カフェで接客したりバリスタとして活躍するなど、職域が広がる。長所を生かし、短所は仲間が 助ける全員経営を推進する。そしてできるだけ指示をしないで、自発的な意思決定力を引き出すようにする。健常者が障がい者を監督するような状態では、障が い者は被害者意識や義務感にとらわれるが、権限委譲をして、自分で自分を監督するようになると、当事者意識と使命感が生まれるという。そして忙しい時間を 乗り切ったあとや、一仕事終えた後の達成感が、彼らのモチベーションを高め、そのことが最高の経営資源となっているという。

「一言で言えば、管理者にとっては障がい者も健常者も同じ。適材適所が大事です」と海津社長は言う。「実は健常者とは出来ないことを隠すのがうまい 人で、障がい者は出来ないことが顕在化しているだけ。障がい者の潜在能力は無限で、できるだけ引き出しますが、出来ないことは人を使ってやってもらう“た くましさ”、そして人の気持ちがわかる“やさしさ”も仕事以外に必要なこととして教育します」
スワンで働くすべての人に、社長は3つのことを要求している。遅刻しない、笑顔で挨拶、悪口は言わない。仕事上の問題は互いに思い切り言いあって解決し、 笑顔で帰ること。「社長も店長も障がい者も健常者も、権利と義務は同じだということを徹底しています。日本の福祉的就労との最大の違いがそこで、スワンに は障がい者だからしょうがないと考える障がい者はいないし、やる気のない健常者もいない。厳しい仕事を全員にきっちりやってもらっている。だからこそ、ス ワンの障がい者は達成感を味わい、充実しているのです」
スワンは単に経済的自立だけでなく、ひとりで生きていける、障がい者の真の自立を支援している。

商品開発

・市場経済で勝ち残れる商品の開発
障がい者ではなく、あくまでも商品力を追及。グルメ・流行雑誌などでもたびたび取り上げられている。アレルギー対応ケーキや過疎地へのパンの宅配など、ヤマト運輸関連企業ならではの事業も展開。
・障がい者の仕事となる商品の開発
製造箱詰め、ネット通販のデータ入力作業、ポスティングなど、障がい者の新たな職域の開発にも挑戦している。

販路開発

企業のCSRに直結したイベントや記念品として、企業のロゴマークを入れたオリジナル商品を提案。また大学の購買部や直営店で社会学部の学生をインターンとして受け入れ、授業の一環として共にパン販売を行っている。

その他の社会貢献
・スワンロハス

「健康にいい・環境にいい・障がい者にいい」をコンセプトにスワンロハス(Lifestyles Of Health and Sustainability)を提唱、「ゆっくりとやさしく」推進し、店ではオーガニック食材やエコバックを提供している。
・障がい者教育支援
養護学校の教師の長期研修を受け入れ、企業が欲しいスキルを理解してもらっている
・アーティスト支援
画廊の街にある銀座店の壁を無料開放し、アート展やフェアトレード支援、映像・ミニライブを開催してアーティスト支援をしている。
・地域貢献
週の初めに銀座・赤坂店で行う周囲の清掃活動は、地域の人も巻き込んでいる。
・ノーマライゼーション支援
行政・芸術大学と協力した、障がい者支援活動
隔離教育の弊害を脱し、障がい者をもっと社会に出そうとしている。また、アビリンピックでベーカリーが正式種目になるように、今大会でデモンストレーションを行った。

これからのこと

この10年で給料の点では目的を達成したので、今は仕事をデリバリーする事に尽力している。たとえば、在宅障がい者によるパソコン入力作業、それに よるピッキング・パッキング作業。また、全国の福祉作業所に最低金額でパンを卸し、彼らの自立を助けている。「私は障がい者をどんどん外に出しています。 宅急便は30年経って今、当たり前になりました。そして彼が作った障がい者の会社であるスワンは10年を超え、これから少しずつ相乗効果をもってくること を期待しています」海津氏は語る。たとえば今、日本には300万人の精神障がい者がいるが、1%も就労していない。それは、1日のうち、状態のいい時間帯 がいつくるかわからないからで、多くは家に引きこもっている。一方、日本には一日に19億通のメール便のポスティング需要があるが、ヤマト運輸では 1000人以上の精神障がい者に自分のペースでできるポスティングの仕事をお願いしている。さらに、定年退職したヤマト運輸の優秀なドライバーと地域の精 神障がい者が一緒にポスティングの仕事をしたら、全国規模で高齢者雇用と障がい者雇用をやることができる。そういう可能性も広がっています。社会起業家で ある小倉昌男が創った二つの仕事がこうやって重なる、世のため人のためにやった仕事は、こうやって必ず繋がっていくことを感じています」

文責:松江直子

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