2010/10/18 by Matsue

手と手・心理ケアセンター:組織化への変革

この団体は、ある一人のボランティアによって創始された。四川省ウェン川大地震後の心理サポート活動に参加したメンバーの一人が、公益団体を創設するというアイディアを得、自身の心理学の専門知識を利用して、グリーフ・カウンセリング及びホスピス・ケア事業を熱烈に推進している。主要なプロジェクトである「守護天使」は、中国の特色を有するホスピス心理ケアの模式を使って、患者・家族・医師・看護士・心理カウンセリングボランティアの5つの核で構成される「ファミリー・トーク」というグループを形成し、医療スタッフ、家族と患者それぞれに対し心理トレーニングを行うことで、困難な状況に対応する力を強化し、同時に自身の心理的健康を維持するのだ。(訳注:「ウェン」はさんずいに文)
メールアドレス: weiping_huang@hotmail.com

黄衛平は、もとは貿易関連の商売をしており、儲けも少なくはなかったが、生活の中で何かが足りないと感じていた。「私達は常に自己を証明できる生活方式を求めており、そのために休む事無くお金儲けを続けるが、そのうちに最も大切なものを失ってしまうことがよくある。」黄衛平は、 2008年に四川省の震災地域でボランティアをして初めて、自分が失ってしまっていたものを見つけることが出来た。それは、心の底から他人を思いやることだった。彼は、ボランティア経験を経て、公益事業に従事する事を決心した。

一つの物語と二人の旅人

ある同伴の物語と生命の贈り物。2008年メーデー前日の夕方、四川什ファン紅白鎮に住む15歳の美しい少女が、全省の作文コンテストで優秀賞を受賞した。彼女が一番楽しみしていたのは、両親からのプレゼントだった。両親は、南方の都市で出稼ぎ労働をしており、大雪の影響でため旧正月の休みを家族と一緒に過ごすことができなかったため、メーデーの長期休暇に帰郷することにしていた。だが、母親はメーデーの前に娘に次のような手紙を送った。「旅費がかさみ時間も少ないため、次の旧正月に帰ることにする。少しでも多くお金を稼いで、次に帰郷するときにはたくさんのプレゼントと新しい洋服を持ってかえるので、よく勉強して良い子でいるように。」作文賞を受賞した当日、少女は両親に長い手紙を書き、受賞のニュースを写真を添えて伝えた。両親が褒めてくれるよう、少しでも早く帰って来るように、しょっちゅうお母さんの夢を見て、お母さんのことを想って涙が出てしまい、旧正月まで待つ事はできない、と書いた。(訳注:「ファン」は方におおざと)

お父さんお母さんがそんなに一生懸命お金を儲けなくてもいいし、新しい洋服もいらない。成績優秀で素直な性格の彼女は、先生や同級生から尊敬されるようになり、同級生が彼女の古びた洋服を笑うこともなくなったからだ。唯一心待ちにしているプレゼントは、両親が帰って来て、お母さんの手作りの料理を食べることだ。以前のようにお母さんと一緒にいられて、小さい頃のように両親と暮らした村里で、家族みんなで山中の田畑に囲まれて生活したい…

5月12日、大地震の当日、娘の母親に体する想いは、決して触ることのできない涙の中に固められてしまった…両親は戻って来た。山にはいつものように野草が花開き、畑のあぜには瓜が熟れ始めているが、遠くの廃墟の傍らには、一通の手紙と娘の写真を手に、一人の母親が座り込んでいた。長い沈黙と尽きることのない後悔の思いが、呼吸の合間から漏れ出していた。

母親は、毎日のように廃墟の傍らに座り、道路が再建される前に、少しでも多くの時間を娘のそばで過ごし、娘が心待ちにしていた一緒に暮らすというプレゼントを夢の中の娘に持って行こうとした。

これは、黄衛平が、四川で心理サポートのボランティアをしていた時に、廃墟のそばに座っていた母親から聞いた話だ。この命のプレゼントの物語は、彼の心の底の柔らかい部分に届いた。

四川から上海に戻った後、「生命」、「死」、「傷と痛み」、「遺憾」、「後悔」等等のぬぐい去ることのできない人生への思いと意味の探索が、黄衛平にコミュニティー・ボランティアに身を投じさせた。ホスピス・ケアで、医師を手助けし、患者が重体のとき、心理的な圧力を軽減し、心を慰め、旅立った者と遺された人々に悔いが残らないようにするのだ。

2008年の夏は、暑さはさほど厳しくなかったが、心の中はじりじりとしている人々がいた。黄衛平と彼の仲間は、多くの人の無理解に直面していたからだ。

「特に、組織の同僚である王瑩は、高額の月収と前途有望なキャリア、熟知している仕事環境や人、安心感を放棄して加わった。周りの人々の彼女に対する無理解は、私は当然のことだと思う。特に、彼女と最も親しい人々 — 両親、親戚、友人や夫 — であればなおさらだ」

しかし、彼らの心の奥には、自分が進むべきはもう一つの道であるという思いがあった。こうして、この紆余曲折に満ちた旅は始まった。

暖かい手を差し伸べるだけでもいいのかも知れない

「多くの人は、心に傷や怨恨を持ったままこの世を去って行く。また、一部の家族は、患者にとって一番大切なことは、最良の病院と医師を探し出すことだと考えているが、患者が最も必要としているのは、暖かい手を差し伸べてもらうことだけかも知れない。それを理解していない家族もいる」

黄衛平と彼の仲間は、2008年11月に非営利組織インキュベーター(NPI)に入る前までは、ボランティアによる「手と手心理ケア発展センター」を設立し、患者の家族に対し、死に直面する事からくるストレスと脅威に立ち向かう手助けをしたいという思いがあるだけだった。

「インキュベーターに入った1月から3月の間、私達はボランティアへのトレーニングについて研究し、心理ケアの理論と技能について多くの研究、討論とトレーニングを重ね、ほぼ毎週1度の会議と、毎日の小ミーティングを行った。しかし、3ヶ月後に病院で実践訓練を行ったときには、想定していた状況と実際の状況が全く違っていることを発見した」

「NPIのインキュベーション・サービスによる何回ものコンサルティングに助けられて、ボランティアと公益人の位置づけが明確になった。ボランティアによるサービスを組織化運営へと転換し、公益理念を更新し、「手と手」は非営利組織としての発展の道を歩み始めた。黄衛平によれば、「NPIの同伴のもと、一つのシンプルな願いから、サービス対象に心からのサービスを届ける公益機構へと変化したのだ。」

最初には無かった問題が出現

「外からの援助を頼って発展するのは、NGOの活動精神ではない。援助を求める際の弱者としての姿勢は、団体のイメージと求めるものに対してダメージとなる」

黄衛平は、身を以て組織化の力を体験し始めた。「組織は、まず価値を形成しなければならず、その後にその価値にお金を出す人が来る。出資者は、受益者のニーズにもとづいて出資しなければならず、組織は一定のルールに従ってサービスを受益者に提供しなければならない。この洗練化の過程では、財務スタッフや管理職等の発生が伴うことは避けられない」
このため、黄衛平と彼の仲間は、ボランティア団体から非営利組織として登録されている団体へと変身する努力を本格的にはじめた。組織化の目標を確立した途端に、ボランティア・チームの流失が始まった。ボランティアの低効率とスタッフの流失、後進的な医療倫理、患者の無理解、一般社会による死のタブー視という文化的障害は、彼らを動揺させ、継続すべきかどうかについて意見が分かれた。「一部のボランティアは、直接現地に行って作業をするほかに、組織自体のために色々と仕事をすることは、ボランティアの初志に背くものだと考えている」と黄衛平は言う。

「手と手」は、最終的には、30名の比較的定着していたボランティアの中から6名をフルタイムの職員に選び、「ボランティアと団体の役割分担と、その他のメンバーのサポート」役を担うことになった。

民間非営利団体として登録された組織は、「会社を設立するのと似通っているところがあり、公益機構だからといって免税となるわけではなく、従業員を養わなければならず、日常の支出もあり、収支を均衡させることは困難なのだ」

プロジェクト管理費の申請は助成金全体の20%を超過してはならず、管理費がつかない場合もある。

「各団体は、多くのプロジェクトを申請することで均衡を保たなければならない状況にある。プロジェクトの申請と着手にも人手が必要であり、もとからのボランティアのキャパシティーでは担うことができず、適切な人材を雇う必要があるが、資金も不足している」

2009年5月、NPIは、上海市民政局の出資する「上海コミュニティー公益ベンチャーキャピタル・コンテスト」を実施した。NPIの援助のもと、「手と手」は、コミュニティー心理ケア・プロジェクトを入札することに成功し、インキュベーターからふ化して初めて20万元の資金を得た。しかし、この資金の管理費は、従業員半人分の年俸しかまかなうことができない」

「サービス系の公益組織を運営するためには、何もかも自分でやらなければいけないのだろうか」黄衛平は、目下この悩みを解くことができない。「資金調達と有効なサービスを提供するという両者を比べた場合、後者に重点を置くべきで、より柔軟でシンプルに組織を運営できるようにするべきではないだろうか」いずれにしても、やはり積極的に「手と手」をサポートしてくれる企業を探すべきだろう。

今「手と手」は、ふ化から3年経ち、安定期に入っている。黄衛平は、同時期にインキュベーションした5つのNGOの創始者らと毎月1回会合を行い、情報交換をすることにしている。NPIは、ふ化中の組織およびふ化後の組織とその支部団体を一つの連合艦隊と見なしており、人材や資金調達等の面で長期的な資源の共有を想定している。

(楊ウェン氏、楊欣薇氏、「南方都市報」の呉珊氏等に本文へ貢献いただいたことを感謝します。)

原文:《社会企業家雑誌》2010年3月号36-37ページを翻訳・転載
http://www.npi.org.cn/uploads/magazines/npo/2_1474_165059.pdf

翻訳:A.K

GLIサイトより転載:http://www.glijapan.eu/inspire/?p=481

This post is also available in: 簡体中国語

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