2008/11/14 by GLI Japan

アモイ五斉人文職業訓練学校 張芳

背景
中国の改革開放以来、都市に入る農民工(農村から来た労働者)の数は著しく増加し、1978年の3000万人から2007年には2億近くに達した。膨大な 流動人口によって一連の社会問題がもたらされた。農民工は都市にいながらも都市住民と同等の公共福祉サービスを受けることはほとんどできない。報酬、社会 保障、公共サービス、権利の擁護、留守児童(親が出稼ぎに行って、家に残された子ども)とその教育など、農民工に密接に関わる問題は政府、NGO、社会全 体の注目の的となっている。政府は農民工及びその子弟の権利に関する一連の法律を打ち出し、農民工が抱える問題に取り組み、彼らの権利を擁護する活動を行 うNGOも数多く存在する。

アモイには現在80万人の農民工が働いている。その他の大都市で働く農民工同様、彼らは都市部で最も底辺とされる仕事をしている。建築現場、生産ラ インの労働者、サービス業の肉体労働。経済的に弱い立場にいることから、多くの問題が引き起こされた。昨年アモイの犯罪の56%は農民工によるものであ り、青少年犯罪も上昇傾向にある。農民工の生存環境を改善することはアモイ市政府にとって最も重要な仕事の一つである。教育教養レベルは低いが、人物が温 厚純朴な農民工に対して、彼らの境遇を改善するのに私たちは何ができるのだろうか?

張芳

張芳

農民工の問題に取り組みNGOの多くは、外部の力で彼らを助けようとする。主に法的な手段を用いて彼らの権利擁護を行ったり、彼らの就業を助けるた めに技能訓練を提供したり、彼らの子弟に教育の機会を与えたり、などである。しかしアモイにはこんな社会的企業がある。根本的に農民工の生活を変えるため に、人材・人格・人文という3つの面から総合的な研修と訓練を行い、更に生活、仕事の理念、基本的な技能訓練も行い、都市で働く農民工が、自分の足で底辺 から抜け出すことができるように、自分の努力を通してあこがれの仕事を手に入れ、自分の運命を自分で把握できるようにする、そんな事業を行う社会的企業で ある。

授業風景授業風景

アモイ五斉人文職業学校の「五斉」は、孔子の『論語・里仁編』にある「賢を見れば斉を考え、不賢を見れば自省する」という言葉に由来する。その意味 は、「他者の長所が見えた場合は、それを妬むことなく見習い、他者の短所が見えた場合は、自分にも同じ短所がないかどうか反省する」、ということである。 このように人格教育を重んじ、晏陽初、廬作孚、陶行知など著名な教育家の理念を継承した学校は、そもそもはEMBAの学生が生産ラインで働く女性労働者に 対して発した冗談から始まったものであった。

EMBAの学生と女性労働者
アモイ五斉人文職業学校の創始者張芳は、1994年大学卒業後、外資企業で8年間働いた後、アモイ大学でEMBAコースを専攻するようになった。8年間の 職業経験は彼女にある問いかけを投げかけた。「人間は何のために生きるのか」。当時彼女は自分なりの回答になかなかたどり着かなかった。しかし、人生を変 える出会いをし、彼女はついに自分のやるべきことに気づくのであった。

それは、EMBA在学中の出来事であった。友人が主催するコンピューター技能トレーニングセンターを任せられた際、ある日彼女はトレーニングを受け ている女の子に文章の入力を頼んだ。しかし、原稿の字が汚いという理由で女の子に断られてしまった。張芳は納得いかず、女の子と話をした。その女の子は、 普段は生産ラインで働く労働者だった。張芳は子どもの頃から生活も勉学も順調だったため、当時の彼女からすれば、他の人も当然子どもの頃から勉強の機会が あったはずであり、大人になってからトレーニングセンターで勉強し、独学で大学の入試に臨む人は、子どもの頃まじめに勉強しなかったからに違いないと考え ていた。それで彼女はその女の子に冗談のつもりで、「あなたは子どもの頃まじめに勉強しなかったから、今もう一度ちゃんと勉強しなきゃね」と言った。

しかし、この「冗談」で女の子は悲しそうに泣き出してしまった。彼女は、まじめに勉強しなかったのではなく、勉強が大好きだったという。しかし、家 が貧しかったため、中学卒業までしか学校に行かせてもらえなかった。その中学校も、2時間の山道を通ってやっとたどり着く遠いところだった。たとえ家がも うちょっと裕福だったとしても、高校に行く機会は弟に譲らなければならず、農村では女の子が勉強する機会はあまりないと、彼女は泣きながら語った。張芳は それまでそのような話を聞いたことがなく、「希望プロジェクト」ですべての農村の子どもたちの就学問題が解決され、都市の子どもと同じように教育を受けら れるはずだと信じていた。しかし、現実は彼女が考えていたほど単純ではなく、彼女はショックを受けた。

女の子は張芳に、コンピュータースキルのトレーニングを受けているのは、自分の運命を変えたいからだと話した。彼女の夢は、事務職の公務員になるこ とだった。このことも張芳にとっては意外なことだった。張は卒業後最初に公務員として働いていたが、事務職の公務員は特別な技術を習得しなくてもできる職 業で、単純且つ乾燥無味だと彼女が考えていたからである。しかし、そのような職業が、この女の子にとっては夢であったとは!張芳は、事務職クラスを開設 し、女の子の夢を実現させる手助けをすることを決意した。この女の子は、アモイ五斉人文職業学校の最初の生徒となった。

技能訓練と人格教育の両方を重視する
企業での職業経験を持つ張芳は人材に対する企業のニーズ、特に民営企業ならではのニーズ、事務職に対する要求について熟知している。事務職は確かに中卒で も応募は可能だが、実際に企業が選考する場合は、往々にして学歴で応募者の能力を判断しがちであり、女性労働者たちは当然学歴の面では見劣りする。それな ら、姿勢や態度の面で挽回を図るしかない。大卒は事務職のような単調な仕事に対しては軽視する傾向にあり、このような大卒たちの態度は、女性労働者たちに とってはチャンスとなる。スキルだけではなく、その職業に求められた態度を身につけられれば、勝ち取る可能性が大きい。アモイ五斉人文職業学校が人格教育 を重視するのはこのためである。技能訓練と人格教育の両輪で競争の中で差別化を図る、という戦略である。

教師教師

アモイ五斉人文職業学校が提供する研修は二種類ある。コンピュータースキルのトレーニングと、事務職専門のトレーニングである。前者はコンピューターを使 う基礎的なスキル、例えば文字入力、ソフトの使用などの訓練を実施し、費用はずっと50元(約720円)前後であり、農民工でも負担できる料金設定となっ ている。事務職専門のクラスは「五斉クラス」とも呼ばれ、コンピュータースキルの他に、事務職として働く上で必要とされるさまざまなスキルも学ぶ。例えば OA用品の購入術と活用スキルなどである。更に専門家を招き、基本的な事務的管理理論やケーススタディを講義してもらうこともある。事務職のトレーニング に含まれる「人格教育」は、服装、ファッション、言葉遣いや仕草、人と接する際の礼儀作法、上品な振る舞い方などの細かい点から、生涯の職業計画の立て 方、就職対策、思考力と想像力の向上、コミュニケーション能力の向上、積極性と向上心を養い、自信を強め、潜在能力を発掘し、できるだけ早く都市生活に適 応できるようにするなど、さまざまな面に至る。他にも、張芳は新しいプログラムを次々に開発している。例えば健康管理のクラスでは、場所を必要としない方 法で運動をさせ、定期的に受講生の健康診断を行い、健康管理の成果を評価するようにしている。

事務職専門クラスの費用は、収入のある受講生に対して合計2000元(約29,000円)程度となるが、「労働して稼いだお金を自分への投資に用い る意識」を育てるというねらいがある。16才以上で収入の少ない受講生に対しては、分割払いを認め、更に16才以下の貧しい家庭出身の受講者に対しては、 学費を減免するだけではなく、食事や宿泊のための費用まで五斉が負担している。

受講生の自治的管理モデル
五斉学校がその他のトレーニング学校と最も異なるのは、その受講者が農民工だということである。農民工は、昼間は働いているため、勉強は夜にしかできな い。更に彼らの生活拠点は複数の工業区域に分散しているため、張芳は学校の拠点をそれぞれの工業区内に設置し、通学のための時間短縮を図った。現在拠点は 31カ所に達し、2万名の受講者が学んでいる。もう一つの問題は、一つの拠点には20-30台のコンピューターが用意されているが、受講者が集中すると、 100人を超える場合もあり、コンピューターが足りなくなることである。コンピューター技術は、練習しないと忘れてしまうことが多い。従って、いかに最も 低いコストで、最も効率的に各地に分散している受講生のニーズに対応し、かつ受講者数とコンピューターの台数とのずれの問題を解決するのかが、一番の難題 であった。そこで張芳が思いついたのは、受講生たちに自己管理の力を発揮してもらい、受講生自治的管理のモデルをつくることであった。

学生学生

現在五斉には120名の専従のスタッフがいる。一つの拠点に平均3名のスタッフが常駐している他に、チーフと講師、そしてボランティア一名も配置されてい る。コンピュータースキルの授業では講師が指導するだけではなく、先に習得した受講生が初心者に教えることも奨励している。それによって初心者の成長が早 くなるだけではなく、先に習得した受講生も、人に教えることによって自分の知識とスキルの復習ができ、クラス全体の管理のコストを低く抑えることもでき る。さらに、学ぶ人、教える人に分けることによって、コンピューターの数が足りないという問題もある程度解決された。更に、自治的な管理を実施するプロセ スそのものが、管理の手法を学ぶ一環となっている。五斉のスタッフの多くも、元受講生である。

展望
学校創始当初、張芳は熱意だけで突っ走っていた。失敗すればやめればいいと安易に考えていた。しかし今日まで学校が発展してきて、五斉はすでに8万人の生 徒を育てた。この数字は張芳に社会的責任感を意識させ、この責任感から、彼女はどんな困難に直面してでも、必ず学校を継続させていかなければならないと思 うようになった。

現在、張芳は教育研究センターを発足させようと考えている。卒業後の受講生に対して追跡調査を行い、掲示板やQQなどのネット技術を活用し、卒業生 同士が交流できる場を構築したいと考えている。そうすれば、卒業後でも職場で遭った問題について、ネット経由で助けを求め、解決の道を探っていくことがで きるようになる。五斉のモデルが成功すれば、張芳は今後このモデルを他の都市にも普及させたいと考えている。「一人一人が園芸家となり、社会を美しい花園 に」というのが、張芳が心の中で思い描いている夢である。

アモイ五斉人文職業訓練学校 :www.wuqi.org

翻訳:李妍焱

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