2015/07/23 by Tanada

コミュニティの資源を動員する拠点として:地域に根ざしたカフェの誕生

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都市生活のペースが加速するに伴い、手早く気軽に楽しめて持ち帰りも可能なコーヒーは、人々の心の交流を促す手段として普及してきている。カフェは、開放的で居心地のよい場所を提供し、小さいながらも共通点を持つ人々が会することのできる空間だ。最近では、起業カフェや、金融カフェ、同窓会カフェなど、特定の目的で開かれるカフェも少なくない。今回紹介するのは、あるコミュニティにひっそりとたたずみ、地域住民が集う公共スペースを提供しているコミュニティカフェだ。

地域住民の輪

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「静覓時光」は、都会の喧騒から離れたある団地の中にある。そこは、福建省福州市の閩江(訳注:福建省最大の河川)の北岸で最も初期の2002年に建てられた大型団地で、数万人の住民が暮らしている。「静覓時光」は、その団地の一角にある小さなカフェだ。外には数組のテーブルと椅子があり、入口の脇には店主が自ら描いた油絵が掛かっている。その筆使いは未熟ながらも誠実だ。カフェの中にはラベンダーの香りが立ちこめ、ラベンダー畑を散歩しているようなリラックスした気分にしてくれる。頭上には、天井から吊り下げられたベージュやピンク色の綿でできた雲が浮かび、ぬくもりあるインテリアになっている。

一番目を引くのは店の入口に置かれた看板で、次のように書かれている。「地域住民交流の新しい空間へようこそ。今週のイベント:火曜夜、映画『TIME/タイム』鑑賞会。水曜夜、写真愛好家による作品交流会。金曜夜、カラオケのど自慢大会。日曜夜、『今週の人物』。」この店は、午後は気楽にゆったり自分の時間が過ごせる空間を提供し、夜は地域住民の交流の場となっている。映画鑑賞、写真交流会、カラオケのどれにも興味が無くても支障はない。週末には、様々な分野の「達人」が自分の人生経験について語るイベントがあり、誰でも楽しめるようになっているからだ。

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「時間が通貨となった世界では、全ての取引が人生の残り時間を使って行われる。残り時間が18分になったその時、あなたはどうしますか?カウントダウンが今始まった」。5月5日の夜に「静覓時光」で行われた映画『TIME/タイム』の鑑賞会には、多くの住民が参加し、見終わった後には皆が感想を語り合った。団地に住む林さんは、「ここで映画を見るのはこれで3回目です。このカフェでは毎週名作を見せてくれ、見終わった後の皆との交流からも大いに得るところがあります」と語る。

自称映画オタクの林さんは、通常の映画館では最新の映画しか見ることができず、一人で見るのも寂しいと思っていたが、「静覓時光」で何度か映画鑑賞をするうちに、自分の居場所が見つかったと感じた。「皆で映画を見ている時の雰囲気や、お店の中に漂うコーヒの香り、見終わった後の交流、いずれもアットホームな気分にさせてくれます」と林さんは言う。今では、お店の前を通るたびに立ち寄り、見たい映画がないかチェックしている。

「80年代生まれ」のホワイトカラーが公益の世界に初挑戦

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このカフェの経営者は、福州市出身で80年代生まれの何靖さんという若い女性だ。地域住民からは「ぐーたらちゃん」と呼ばれている。彼女は、「静覓時光」を地域に根ざした新しい形の交流スペースを提供する公益カフェと位置づけていると言う。「都会で暮らす今どきのホワイトカラー達は、毎日の単調なサラリーマン生活の中で、無味乾燥な仕事に拘束され、日常の暮らしがつまらないと感じている人が多く、ストレス発散が苦手な人は、自分は既に人生から見放されたとさえ感じています。私はこのような人々に、仕事中の8時間以外の過ごし方を提案したいのです。一杯のコーヒーを楽しむこと、映画を見ること、他人の人生に対する考え方を知ること。これらは全て、自分の生活を豊かにしてくれることだと思います」。

「ぐーたらちゃん」は、「80年代生まれ」(訳注:中国の「一人っ子政策」施行後に生まれ、一般には利己的で責任感が薄い等というイメージを持たれている)という烙印を押されがちだ。母親からは、現状に満足できない質で、しなくていい苦労をする子と思われている。友人からは、生活を心から楽しんでいて、体を動かすことが好きで、自由を重んじる女性だと評されている。彼女自身は、自分の望むことができるようになりたいと願っている。上海で2年間働いた「ぐーたらちゃん」は、2009年に福州市に戻り、その後インターネット関連企業と不動産会社に勤めた。「以前の私は、多くのホワイトカラーと同じように毎日の仕事に追われ、ストレスも溜まりがちで、無味乾燥な暮らしを送っていました。休暇や旅行は、叶わない望みと化していました」。そして次第に、仕事からは充実感や満足感を得られないという思いが強くなっていった。その結果彼女は、傍から見れば高給の仕事を辞め、読書や料理、旅行に明け暮れる生活を送りはじめた。

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「ある友人が私を変えてくれたのです」と彼女は言う。「無職」の状態が続くと、彼女の「現状に満足できない」性質が再び頭をもたげ始めた。「ちょうどその時、親友が公益カフェをオープンするというアイデアを出してくれました。自身の生活も充実するし、より多くの人と出会う機会になるから、と」。

「ぐーたらちゃん」の言う親友とは、正栄公益基金会の事務総長である徐婧さんだ。二人は、以前同じインターネット企業に勤めており、歳が近く、性格がおおざっぱなところが似ていることから親しくなった。「徐さんも以前は私と同じように会社勤めでしたから、私達はよくお互い、仕事が辛いとか面白くない等と愚痴を言い合っていました。その後徐さんは公益法人に転職し、彼女から公益事業について聞くうちに、彼女が前よりも楽しそうで、前向きなエネルギーに満ちあふれていると感じるようになりました」。「ぐーたらちゃん」は、徐さんの話を見聞きしているうち、知らず知らずにその影響を受け、自分も公益の世界に少しずつ入り込んでいったのかもしれないと推測している。

公益資源を動員する拠点を作りたい!

今年1月に、ぐーたらちゃんは長く準備してきた「静覓時光 カフェ&花アート」をオープンさせた。同時に彼女のカフェは正栄公益基金会の「こんにちは、社区」プロジェクトにも加入した。このカフェは「こんにちは、社区」プロジェクトの主旨である社区建設を立脚点とし、社区住民の多様なニーズを集合し、様々な活動とイベントの企画を通じ、住民の交流プラットホームとなることを目指す。

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「都市が大きければ大きいほど、友達は少なくなります。私たちは素朴で飾り気のない近隣関係を提唱しています。人付き合いの少ない都市の中で、純朴な隣人関係を探し、互いに相手のことを知り、助け合い、友愛と調和のある社区での近隣関係を築けたらと思っています」。

筆者は「静覓時光」が最近行った活動記録をひもといてみた。中には写真交流会・カラオケのど自慢大会などの文芸活動もあれば、人間関係・職場関係・恋愛関係を学ぶ心理学教室、生花・書道・コーヒーなどのDIY教室、ファッションコーディネート・美容ケアなどの暮らしの知恵を共有し合う教室もある。更に株式投資や創業経験などを共有する会も…。

「これらの活動項目はすべて社区の住民にアンケート調査して決めたものです。活動内容は住民のニーズに応えなければならないと思います。だからニーズのある活動を企画しているんです」。

「ぐーたらちゃん」は、こうした活動を準備する中で、自分もとても勉強になっている、特に他者とのコミュニケーションは本当に勉強になっていると言う。「たくさんの友人が、その方面の達人を紹介してくれます。私はそうした達人と打ち合わせをして、活動内容や詳細を決めていきます。活動の中には最初あまり人が集まらなかったものもありますが、今ではどの活動にも新しい住民が次々とやってきて、本当に達成感があります」。

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ぐーたらちゃんは、公益グループの中で自分はまだ新人で、社区の公益活動についてまだ色々と模索しているという。

「社区の住民は豊富な公共文化生活(訳注:公的な組織・団体が文化的知識の普及、先進的な文化のPRなどの活動を展開し、人々が文化的欲求を充足できるようになること)を通じて幸福感を高めたいと思っています。社区の中には大きな公益精神と公益の力が潜んでいます。ここがその拠点となってこれらの公益資源を動かし、すべての住民に公益活動に参加してもらいたいです」。

公益とビジネスは促進しあえる

「社区カフェは我々の「こんにちは、社区」プロジェクトのテスト項目の一つです。社区にこのような空間が必要かどうか、社区の住民を集めることができるかどうか、住民に何か変化を起こさせることができるかどうかを観察したい」と、正栄公益基金会のプロジェクトリーダーの李盼さんは言う。社区にこのような空間があると、同じニーズを持つ住民が集まることができ、それによって色々なプラスエネルギーが生まれる可能性がある。基金会は、どうすれば共通ニーズを持っている住民たちを集められるかといった一種のソルーションを提供しているだけかもしれない。

「静覓時光は、社区における公共空間の建設プロジェクトの一つの良い例である。この例から、社区での公益活動とビジネスモデルを融合させることが可能なことが分かっただけでなく、更に一歩進んで、促進し合い、持続可能だということもわかってきた。様々な公益活動を通じて「社区の輪」を作り、社区における公益の雰囲気を作り出し、同時に、集まった社区の住民はカフェに利益をもたらす」と李盼さんは言う。

「我々のプロジェクトが社区の空間構築においてハード面のサポートだけに終わってしまいたくない。基金会が撤収した後も、社区の公共空間は持続的に発展してほしい、「社区の輪」の中心となってほしい。ここでいう社区の輪と、よく言われる「熟人社会(気心の知れた仲間だけの社会)」とは少し違う。社区の輪の中では、人々は共通のニーズで集まり、互いに尊重しつつ、それぞれ個人空間の独立性を保っている。」と李盼さんは言う。また社区カフェ以外にも、基金会は今後「社区母子店」などの様々なスタイルを試行し、社区により多くの公共空間を持たせる計画だそうだ。

執筆者 任思言 (gaofujun@ngocn.net)
執筆者所属

NGO発展交流網(NGOCN)、微信(WeChat)オフィシャルアカウント:NGOCN02

翻訳と校正 翻訳:川口晶子、王麗 校正:棚田由紀子
メディア

http://www.ngocn.net/home/news/article/id/363659

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