2015/06/03 by Tanada

「年金合併」はいったい何をもたらしたのか?

中国では2種類の年金制度が併存(訳注1)してきたが、改革案の公表に伴い、その状況は正式に終わりを迎えた。これにより、4,000万人近くいる政府機関・政府系事業組織(訳注2。以下、中国語にならい「機関事業単位」)の職員は、「保険料納付免除」の時代に別れを告げ、賃金の8%を基本年金保険料として、4%を職業年金保険料として納めることになった。制度改革後、機関事業単位の職員の年金の待遇は悪化するのか?賃金水準は上がるのか?企業従業員と事業単位職員との間の「待遇の差」は縮小するのか?合併にかかるコストは誰が負担するのか?こうした一連の問題に関心が集まっている。

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年金の待遇は悪化するのか?

2015年1月14日、「機関事業単位職員の年金保険制度の改革に関する国務院の決定」が公表され、機関事業単位の職員は、基本年金保険の保険料を納めることになる。納付する保険料は賃金の28%で、うち20%分を勤務先が負担、8%分を本人が負担する。この納付比率は、企業の従業員向け年金制度と同じだ。「決定」公表前に流れたこのニュースを聞いて、「年金の待遇が悪くなるのか否か」が、機関事業単位の職員があまねく心配する問題となった。

こうした心配を抱く職員に対し、政府は「鎮静剤」を与えた。「決定」によれば、①制度改革以前に退職をした職員については現在の待遇を維持し、今後調整があった場合にはそれに従う、②制度改革後に勤務を始めた職員については新制度を設け、合理的に旧制度の待遇との連続性が保たれるようにする、③制度改革前から勤務しており、制度改革後に退職する職員については過渡的措置をとり、待遇が悪化しないよう水準を維持する。

さらに「決定」では、機関事業単位の基本年金保険への加入に加え、職員向けの職業年金の設立も規定されている。同年金には、勤務先が支払賃金総額の8%を、個人が納付対象給与の4%を納めることになる。

「新規定によれば、『老人』(既に退職した職員)へは、国が規定した従来の待遇基準に基づいて基本年金が支払われるため、退職後の待遇が悪化することはありません。他方、『中人』(現在勤務している職員)と『新人』(今後新たに働き始める職員)については、基本年金の水準は低下するかもしれません。ただ、『中人』には、みなし納付年限に基づき過渡的年金が支払われるし、職業年金(一種の補助的年金)の設立も『新人』の基本年金に関する損失を一程度補てんすることになります。そのため、総じて、機関事業単位の職員の年金待遇の安定は維持され、待遇の大幅な悪化が起こることはありません。」(北京師範大学中国収入分配研究院の李実・執行院長)

賃金水準は上がるのか?

年金の待遇は総じて大きく悪化しないとしても、機関事業単位の職員からすれば、賃金の8%分の基本年金保険料と、4%分の職業年金を個人が負担するため、手取りの賃金収入は必然的に減ることになる。このため、賃金引上げは公務員として働く人々全員の願いとなっている。

「公務員に保険料を納めさせるのは構いません。ただ、私たちの賃金はこんなに低いんですよ。先に賃金を上げてもらえないのでしょうか?」(北京在勤の公務員)

李実氏の見方では、これまで公務員は一切費用を負担することなく、高水準の退職金を受け取ることができたが、今後急に賃金の12%を支払うというのは、賃金が2,000元しかない多くの末端の公務員からすれば、かなりの困難となる。こうした観点から、国が賃金引上げというかたちで、負担増に対する補償をすることも考えられる。

「公務員の賃金は長い間見直されてきませんでしたが、まさにこの年金制度の見直しという機会を利用して、賃金を見直すことができるわけです。したがって、公務員の賃金引上げの可能性は非常に高いといえます」(李実氏)。注目に値するのは、政府見解においても、以前既に「年金保険制度の改革と賃金制度の整備の歩調を合わせる」という考えが明確にされていたということだ。公務員の賃金制度改革も、間もなく打ち出されると外部の人々はみている。

「待遇格差」は縮小するのか?

年金制度が合併される前、機関事業単位の職員は年金保険料を収めなくて良かったにも拘らず、退職後の年金水準は企業従業員向け年金よりも遥かに高かった。このため、「待遇格差」の問題が、しばしば非難の的となってきた。

統計によれば、中国の機関事業単位職員向け年金の所得代替率(退職前の賃金収入に対する年金額の比率)は80%を超えており、100%を超えるケースもある。これに対し、現在の企業職員向け年金の所得代替率は50%以下だ。では、年金制度が合併された後、事業単位の職員と企業の従業員の間で、年金待遇の格差は縮まるのだろうか。

「改革の実施によって、機関事業単位と企業の年金の所得代替率の差は、間違いなく徐々に縮まるでしょう。ただ、両者の差はとても大きいため、すぐに同水準にするのは絶対に不可能です。また、両者の年金待遇の格差縮小は、公務員向け年金水準の引き下げではなく、企業向け年金水準の引き上げ、つまり『低い方を引き上げる』ことで格差を縮める必要があるのです。」(李実氏)

李実氏の考えによれば、「決定」では「職員の賃金伸び率と物価変動等の状況に基づき、機関事業単位向け基本年金の見直し案と企業向け基本年金の見直し案をセットで検討する」と謳っている。現在、企業の退職者の基本年金の毎年の伸び率は、約10%だ。これに対して、公務員の賃金伸び率を適切に抑制できれば、伸び率は片や増大、片や縮小することになり、数年後には両者の差は縮小するだろう。

合併のコストは誰が負担するのか?

年金制度の合併後の最大の難題は、どこから「お金を探してくるのか」という問題だ。統計によれば、中国で働く公務員は約700万人超、また、126万に及ぶ各種事業単位で働く職員は3,000万人超だ。新制度によれば、勤務先が賃金の20%の基本養老保険料と8%の職業年金を納付する。この膨大な支出に対し、目下各地の財政収入の伸び率が鈍化しているなか、どこからお金を調達してくるのか。

李実氏の考えによれば、年金制度の合併が財政支出圧力を増大させるか否かは、年金の個人口座について積立方式を採用するか、賦課方式を採用するかによる。もし積立方式を採用する場合、政府は2種類のお金を支出することになる。ひとつは、現役職員向けの年金保険料で、もうひとつは、退職者向けの年金支給だ。財政支出圧力は、当然非常に大きくなる。

「他国の経験に基づけば、個人口座について積立方式を採用するのは良い方法ではありません。現在、多くの国では賦課方式で運営しています。つまり、各人は口座を持ってはいますが、現役世代の払った保険料によって退職者への給付を行っているのです。こうすれば、過度な財政負担が追加で発生することはありません。」と李実氏は指摘する。

「もちろん、政府は財政支出の構造を積極的に見直し、最適化をすることで、社会保障制度への資金投入を拡大させなければなりません。また、公務員や事業単位職員の数は膨大なため、組織の統廃合や職員数の削減によって財政支出を減らし、財政支出圧力を和らげる必要があります。」(李実氏)

 

(訳注1)中国の勤労者向けの年金は、公務員向け年金(日本の共済年金に相当)と企業従業員向け年金(日本の厚生年金に相当)の2種類が存在しており、これまでは、前者では被保険者が保険料を支払わなくても良い等、両者の間で制度設計に大きな違いが存在していた。

(訳注2)政府系事業組織は、学校や病院など公共サービスの提供を行う組織。

執筆者 中国新闻网
執筆者所属 中国新闻网
翻訳と校正 翻訳:三浦祐介 校正:棚田由紀子
メディア

http://www.chinadevelopmentbrief.org.cn/news-17093.html

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