2015/05/19 by Tanada

美しい島と新農業人の出逢い

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劉海涛さんの考えでは、社会的企業は、資金調達や収益を配分するか否かについて苦悶するべきではなく、社会の問題を解決することができたかどうか、そして出資者や寄付者から見て理にかなった運営かどうかが肝心だ。

実りの秋は、ちょうどカニが美味しい季節でもある。「上海で一番美しい島」と呼ばれる横沙島(訳注: 上海市崇明県の管轄内、揚子江の河口に位置する島)はカニの産地として有名だが、このところ、島の何十ヘクタールにも及ぶカニ養殖池が、地元自治体と住民らの苦悩の種と化している。養殖池で使われる薬品によって、周辺の河川に生息する魚やエビ等の生物が全滅に追いやられ、自然豊かなはずの島が「毒に冒された地」寸前まで来てしまったのだ。環境保全と利益を得ることは両立不可能なのだろうか。こんな折、村の公務員で1980年代生まれの沈建栄さんと、NGO創始者で1970年代生まれの劉海涛さんが出会った。二人は、若者同士で智恵を出し合い、問題解決への新しい道を探り始めた。

美しい里村で起きた汚染という難局

劉海涛さんは、以前はあるメディア企業で人事部長を務めていた。「四十にして惑わず」の年齢を迎えた劉さんは、急に「大海原を見た後にどんな湖を見ても感動しなくなった」気がして困惑していた。それがきっかけで、2年前から植樹に身を投じるようになり、「大樹公益」というNGOを登録し、全国各地で植樹活動を行っていた。

劉さんは昨年夏、横沙郷民永村の村長である沈建荣さんから、憂いに満ちた“ぼやき”や恨み節をひとしきり聞かされ、心を動かされた。

横沙郷は、カニの養殖で名が知られており、その養殖池の7割は島外の請負業者によって経営されている。民永村の住民は、1ムー(訳注:面積の単位。1ヘクタールの15分の1、約667平方メートルに相当。)当り800元で島外の養殖業者に土地を貸し出し、業者の利益は1ムー当り約3,000元だ。1ムーの養殖池で数千匹のカニを育てることができ、その餌と排泄物は定期的に池の傍の用水路に排出される。毎年2月には、カニの幼生を投入する前に殺虫剤で池を消毒し、全ての汚水を排出するため、特に汚染が深刻だ。沈建荣さんが幼い頃よく見かけたトンボやホタル、ミミズ等は次第に姿を消し、昔泳いでいた小川は、水をすくってそのまま飲める水質だったが、今では足を入れるぐらいしかできない。

実は、カニ養殖池を果樹園等の目的に転用できないわけではない。11年前、中国の東北地方から来たある夫婦が横沙郷で20ムーの土地にイチジクの木を植え、今では1ムー当り1万元もの純益を生んでおり、もうけはカニ養殖池の3倍にもなる。イチジクの木は枝が太く葉が大きいため、光合成量が多く、空気をきれいにする作用があり、果実には抗がん作用があると言われている。

カニ養殖池をイチジク園に転換?

この考えは、沈村長の心に浮かんでは消えることを繰り返していた。「やっぱり無理だ。村民からの集団投資に頼れば、旧式の「悪しき平等主義」に逆戻りしかねない。外部資金を導入すれば、利益の追求だけに走ってしまう可能性がある」。

この時、公務員の実地研修の一環として民永村に来ていた元横沙郷共産主義青年団委員会書記の曹明さんが、母校である上海交通大学の徐家良教授を通じ、劉海涛さんを紹介してくれたのだ。

劉さんは、島に到着するとすぐさま精力的に活動を始めた。彼はこう考えた。この事業は、地元政府は引け受けることができないし、純粋なビジネスとしては誰も見向きもしないだろう。しかし、それでも誰かが解決しなければならない問題で、これはまさに自分の力を発揮できる場面だ。民永村のカニ養殖池105ムーを受託し、深く耕して土を肥やし、1.5万本のイチジクの木を植えれば、カニの養殖による弊害を削減しイチジクの果実による収入で村を助けると同時に、都会の人々が安心して食べられる商品を提供できないだろうか。

農民が皆都会に行きたがっているときに、都会のエリートが田舎に戻って来るとは!沈村長は手放しで喜んだ。

「詐欺師」だと誤解されても突き進む

劉さんは当初、資金集めの方法として、環境保全の理念に賛同してくれる都会の人々に1本100元でイチジクの木の里親になってもらおうと考えたが、うまく行かなかった。その後、劉さんが社会的企業について学ぶためイギリスに行った際、はっと目覚めた。ビジネスの手法を使って公益の目的を達成するという方法もあるのではないか。

「大樹公益」の構想は、次第に明確になっていった。協同組合を作り、環境に優しい手法による栽培や収穫等の果樹園経営を行う。「果美エコ農園」を設立し、社会的企業としてエコ農産品の販売等を担う。大樹公益はNGOとして、エコ農園で耕作などの作業をしてくれるボランティアを都市部で募集し、都会の消費者のエコ農業に対する認識と信頼を深める。

イチジク園の予算150万元は15株に分けられ、劉さんは友人から資金を募り始めた。エコ農園が利益の虜にならないよう、株主は投資金額の多少に関わらず49%の投票権しか持たず、同時に大樹公益が1票の否決権を持つことを劉さんは提案した。

利益の配当にも工夫を施した。15%は村民とイチジク農家の中心メンバー、25%は現地の環境浄化に、16%は大樹公益による横沙島以外での環境保全事業に、残り49%は投資者へ配分される。しかしこのビジネスは、4年目に初めて約28%の利益が得られる見込みで、元が取れるまでには7年かかるという。村民委員会は、「エコ環境基金」を設立してイチジクを栽培する村民を奨励している。

「騙されないように気をつけて」。村民委員会の人は、村長の沈さんに常にこのような忠告をしていた。この疑惑は、劉さんが150万元を村に確かに届け終えたその日まで続いたのだった。その後、2014年2月には2万本余りのイチジクの苗木が育てられ、11月には土に植えられる予定だ。

販売という大きな壁

イチジクの長所は、比較的短期間で利益が得られることだ。春に植えれば年内に着果できる。しかし、最初の年は収穫量が少ない。村の人によれば、作柄の良い時のイチジクの卸値は500グラム当たり10数元にもなる。

張淑梅さんと張さんの夫は、横沙島で2005年から既にイチジクの栽培を始めていた農家だ。収益はなかなかのもので、1ムー当たり数万元の利益を上げている。

張さんによれば、未熟なイチジクの乳液には、ソラレン類のベルガプテン等の活性成分が含まれており、熟れた果実の果汁からは芳香族化合物のベンズアルデヒドが含まれており、いずれも癌予防、抗癌作用や免疫力を高める作用がある物質だ。

張さんの果樹園からあぜ道を隔てた向こう側が、協同組合のイチジクの苗田だ。9月末には、半年ほど前に植えた苗木からすでに何度かイチジクが収穫できた。張さんの20ムーの果樹園からは、毎日500キロ以上の果実が収穫され、上海市街に向けて出荷される。「このイチジクは明日収穫しないと熟れすぎてしまう」。張さんは、表面が紫色になった果実を指差して言う。イチジクの果皮はとても薄いため、わずかな衝撃でも見た目に影響してしまう。張さんの経験では、イチジクは150キロメートルの範囲内でしか販売することができない。それ以上遠くなると、果実の損失が大きくなってしまうからだ。これまでに異なる2種類の包装を試してみたが、両方ともあまり理想的ではなかった。

今、大樹公益が全体として早急に取り組まなければならない事は、エコ農産物の販路開拓だ。果美エコ農園はすでに淘宝網(訳注:中国最大のオンライン・ショッピング・モール)に出店している。沈さんによれば、村委員会もすでに販売会社を設立している。「最終的にはこの会社は協同組合の一部となる予定です」。沈さんは、劉さんとの意見のくい違いについてオープンに語る。「劉さんは、事業をどんどん大きくして世界中に広げたいと思っていますが、私は規模は小さいほうが良いと思っています。まずはイチジクの栽培を確実にやりたい」。

「日本の『大地を守る会』は、ダイコンのエコ栽培から始め、数十年かけて日本の農業に変化をもたらしました」。劉さんの言う「大地を守る会」は、1975年に設立され、今では生産者会員約2,500人と消費者会員約9.1万を有し、年間の売上が10億元を超える大きな組織に発展している。「大地を守る会」の創始者は、農薬を使わない野菜を生産・販売する日本の農家をサポートし、環境保全と持続可能な農業を推進し続けている。

執筆者 高文興
執筆者所属 公益時報
翻訳と校正 翻訳:川口晶子 校正:棚田由紀子
メディア

http://www.chinadevelopmentbrief.org.cn/news-16968.html

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