2014/08/14 by Tanada

真人図書館(human library)~「読”書”」から「読”人”」へ

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                                                                  劇団員と交流している、香港の麦団長

図書館で貸出カードを使って本を1冊借り、期日が来たら返却する。多くの人々が経験してきた事だが、図書館で「借りる」のが昔からある紙でできた書物ではなく、1人の生きた人間である日が来るなどと、想像したこともないだろう。

4月20日、「楽創益」(訳注:『快楽、創意、公益』を是とする、上海に拠点を置くフェアトレードのサイト)コミュニティと、全国にある10余りの「荒島図書館」(訳注:次世代WEBの概念で構築されたコミュニティ公益図書館)が連携して、イベント「真人図書館(human library)2013」を実施した。広州T.I.T創意園内で、50本の「生きた図書」が人に「貸しだされて」いく。実際は、顔を合わせて対話することで、読者は楽器の修理師や大道芸人、野良猫を世話する女性や性転換手術を受けた人、船員などの「生きた図書」が語る真実の物語を「閲読」する。主催者である楽創益コミュニティは、こういった「生きた図書」の物語を記録して出版し、生きた図書を正真正銘の書物にしようと考えている。

1冊の「本」とおしゃべり

世界で一番小さい女の子とされる梁小小ちゃんが語るポジティブな人生観を聴いたり、カンフーの師匠の語りと共に切磋琢磨しながら武道を習得したり、あるいは、登山者が語る雪山登山の楽しさと苦しさや、都市管理という一職業が抱える誰にも知られることのない不都合な真実に耳を傾けたり……世界図書・著作権デーの前日にあたる4月20日の夜、様々な分野から集まった50名の「生きた図書」が広州T.I.T創業園にやって来た。10名以下の小グループによるサロン形式で行われ、「読者」に自分たちの人生を語る。「読者」が「閲読」する際は、いつでも話を中断させて自分なりの「注釈」を発表できる。「生きた図書」と論争を始めても構わない。

大学生の謝昭林は、盲目の社会企業家である庄陳有の話を「閲読」した。6歳で失明した庄陳有は、身体障害を理由に自暴自棄になることはなかった。彼は、自分と健常者の違いは異なる方法で情報を得る点だけだと考えており、他人が自分に対して特別待遇しようとするのをやんわりと断っている。また、社会で必要としている人のために機会均等と平等な権利を追求し続けている。そのために彼は盲人協会に身を投じ、オックスファム香港の総幹事に就任、視覚障害者のための「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を始め、2012年には香港大学アカデミーの名誉会員の称号を獲得した。

謝昭林が庄陳有の話を「閲読」したのは、自身が悩みを抱えていたからだ。大学で親しい友人たちと一緒に聴覚障害者に目を向けるプロジェクトを立ち上げた彼は、聴覚障害者にとって便利な“光る玄関ブザー”を広州の各地で販売しようとした。だが結果は苦戦。「ソーシャルビジネスはどうしてこんなに難しいんでしょうか?」。庄陳有が話し終えると、彼は真っ先に質問した。すると庄氏は、とても役に立つ答えを返した。「すべての社会的問題が、ソーシャルビジネスによる解決方法に当てはまるわけではありません。政府の政策や民間団体が一緒になって力を発揮して初めて、問題が解決するのです」。

この独特な形式を持つ「真人図書館(human library)」(以下、ヒューマン・ライブラリー)は、2001年にデンマークのとある音楽祭で「ストップ!暴力団」を掲げた公益団体が始めた。その趣旨は、異なる文明、異なる国、異なる宗教の人間同士が、腰掛けてしっかりと話をすることで、ひどくなる一方の暴力や偏見を解消しようというものだ。その音楽祭で、75本の「生きた図書」が初めて観衆に向かって、精神的な実験――「読”書”」から「読”人”」へ――の幕を開けたのである。「生きた図書」は有名人とは限らないが、特徴的な経歴の持ち主であることは間違いない。彼ら、もしくは特定の団体の代表は、変わった職業に就いていたり、人と違った趣味趣向の持ち主だったりする。

人々の読書観を覆す

ヒューマン・ライブラリーの“蔵書”のひとり、「コアラ」氏は華南師範大学の史学部で教鞭を執っているが、彼が披露したのは自身が編纂したハンセン病村の口述史の話だ。2011年、ハンセン病のリハビリ患者を専門に関心を寄せるNGO「家工作営」に、「コアラ」氏は自身の学生たちに放り込まれ、ハンセン病リハビリ患者を訪問させられた。初めて生の患者を目にして、長い間書斎の中で生きてきた彼は気持ちがしばらく静まらなかった。「あぁ、なんということだ。このような人々がまだ社会に存在しているとは!」

それ以来、「コアラ」氏は学生たちと一緒にハンセン病リハビリ患者の元へ足繁く通い始めた。足を運んだ先は、広東周辺や大理、麗江等の9つのハンセン病リハビリ村に及び、リハビリ患者の老人のために絵画展を企画し、画集や書籍の出版に向けて惜しみなく力を注いだ。現在、彼は学生を連れて東莞泗安にあるリハビリ村で老人のために口述史を作成しており、次世代に残るハンセン病史を記録している。

なぜ一介の大学の教師が、これほどの時間と労力を費やして、底辺にいるハンセン病リハビリ患者に関心を寄せているのか?「コアラ」氏は自問自答するように語った。「昔、私は読書に相当な時間を割いていました。けれど、読書すればするほど、自分が現実からますます遠ざかっていくような感覚を覚えました。ハンセン病リハビリ村を訪れて初めて、現実の世界に驚かされました。特に、ハンセン病患者に対する社会政策やハンセン病リハビリ患者が嘆く男女愛について言えば、実際に目にしたことはすべて書物からは得られないものでした。彼らの命の歴史が、私の心の窓を開かせたのです」。それ以来、大学の教師として、彼は学生に向けて自身の閲読理念を広く宣伝し始めた。授業で、彼は学生にこう話しているだろう。「本を読むこと、人を読むこと、事実を読むこと、どれも皆、閲読である。学生諸君は、死んだ本だけ読んでおしまい、ではいけない。社会そのものを読み込まなければならない」。

その日、彼の「読者」の中には、家庭口述史を編纂している学生や、佛山口述史グループメンバーがいたのだが、いずれも「コアラ」氏という“本”を目当てに来ていた。「コアラ」氏が話し終えると、彼らは倫理的な問題について取材するために、論争をふっかけてきたのである。

活動の責任者である梁嘉歆が、その場をあちこち回って聞いたところ、「生きた図書」と「その読者」のほとんどが熱心に言葉を交わし、本当に満足していたことが分かった。閲読について、彼女は自身の観点を持っている。「多元的な発言を通じて、この社会に存在する異なる声をひとつの場に集め、皆と顔を合わせながら平等な交流と分かち合いを進めていきたいのです。この活動と一般的な意見交換会は違います。その魅力は、単に物語を聞くだけではなく、交流の過程で読者も自身の物語を披露することで、2冊あるいはそれ以上の“本”を互いに共有したような感覚を得られることです。『偏見をなくす』といった、聞くだけで消極的になり、大きな苦しみと深い恨みを連想するような事柄でも、ソーシャルイノベーションの形式なら楽しみながら取り組め、受け入れやすくなると思います。他にも、自慰といった普段なら口に出すのが恥ずかしいような話題でも、私たちが用意しているプラットフォームを使えば、皆オープンになり、自分の感じたことを話せるようになるのです」。

将来は社会的企業に

「ヒューマン・ライブラリー」のスタイルが中国国内に導入されたのは、ここ3~4年のことだ。中国式の「ヒューマン・ライブラリー」共通の基礎理論は二人の学者、北京大学情報管理部の王子舟教授と彼の学生である呉漢華が編み出した。彼らはかつて関連する学術研究をしていた上、活動を展開しようとしていることがすぐにメディアの目に留まったのである。

メディアでヒューマン・ライブラリーに関する報道がなされた後、梁嘉歆はそのスタイルは自身が勤める「楽創益コミュニティ」にぴったりだと思った。「楽創益コミュニティ」はコミュニティの公益と公共スペースを構築することを専門とする社会的企業で、コミュニティの住民やボランティア、公益団体の協力のもと、住民を満足させる公益サービスを生み出している。

楽創益コミュニティ傘下の公益ブランドである荒島図書館は、2010年に広州で初めての「ヒューマン・ライブラリー」イベントを開いたが、会場は大入り満員だった。その後、「ヒューマン・ライブラリー」スタイルは荒島図書館の名で次々と広まり、各地で展開を繰り広げ、現在までに十数回開催されている。他の団体が開催のヒントを得てからは、高校やコミュニティでも似たようなイベントが開催され始め、雨後の竹の子のように各都市であまねく開かれるようになった。今年の活動は、楽創益コミュニティが主催した中で一番規模が大きく、中国全土の21都市で二十数回の荒島図書館が開かれた。どの都市でも「蔵書」はそれぞれの特徴を発揮し、広州でのイベントは国内最大規模となった。

ただ、目下の所、彼らの基本はやはり純粋な公益活動であり、持続的な賛助を得られていない。しかし、梁嘉歆は楽創益コミュニティは社会的企業を想定しているという。

「楽創益コミュニティ」は、商業エリア住宅のコミュニティ内で、コミュニティ用公益図書館を開いた。コミュニティは設備が整っていたが、文化的で交流できるような公共スペースが無かったので、人間関係が希薄だった。「私たちは、ヒューマン・ライブラリー活動を通じて公共スペースを作り、コミュニティ内あるいはコミュニティ間で活動を展開しようと思いました。外部から人を呼んで図書館を開くようになったら、ゆっくりでしたがコミュニティの資源を掘り起こすことになりました。隣近所の人達が自らやってきて話をできるようにしたり、交流する機会を設けたりしました」。

現在、「楽創益コミュニティ」は広州、北京、武漢で、合わせて4つのリアルな図書館を運営している。図書館のスペースは住民に開放されており、図書館で催されるイベントを通じて、部分的にコミュニティの共同建築や住民自治を支援している。コミュニティの公益図書館は不動産会社と提携しており、不動産会社から運営資金を提供してもらい、用地を無償で使用している。蔵書は寄贈で賄い、日常の管理業務はボランティア団体が担当している。楽創益コミュニティのスタッフ陣は、監督・指導や活動の開拓といった作業を担当している。

「もう一つの経営スタイルは、ビジネス団体や基金会、そして政府との提携です。ねらいは、異なるソーシャル・イノベーション活動の開拓です。企業が私たちのブランドにお金を払ってくれるので、経常コストを補填できます。でも、公益性は失いませんし、サービスを受ける人からお金を受け取ることもしません。ヒューマン・ライブラリーも、西部陽光基金会といった他の基金会と協働で実施します」。これが、梁嘉歆が描く社会的企業の構想だ。

ヒューマン・ライブラリーを始めて3年、「楽創益コミュニティ」は中国全土に渡る「生ける蔵書」の人脈を獲得し、ヒューマン・ライブラリーをリアルな図書館にしようとしている。「貸出カードがあれば、『本』を借りて『閲読』できます」。

現在、彼らは生ける蔵書の口述記録を十数冊作成しており、将来は「ヒューマン・ライブラリー出版計画」を展開する予定だ。「生ける図書」を従来の紙の図書に仕立て直し、保存するのである。(写真は楽創益コミュニティより提供)

この活動と一般的な意見交換会は違います。その魅力は、単に物語を聞くだけではなく、交流の過程で読者も自身の物語を披露することで、2冊あるいはそれ以上の“本”を互いに共有したような感覚を得られることです。『偏見をなくす』といった、聞くだけで消極的になり、大きな苦しみと深い恨みを連想するような事柄でも、ソーシャルイノベーションの形式なら楽しみながら取り組め、受け入れやすくなるのです。

——— 活動の責任者、梁嘉歆 談

執筆者 発表者: 邢曉雯 陳樹佳
執筆者所属 南方都市報
翻訳と校正 翻訳:棚田由紀子
メディア http://www.ngocn.net/?action-viewnews-itemid-87030

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