2013/10/09 by jixin

【pal*system】除染だけじゃない 「ひまわり油」で見直す食ごくらい

 

ポスト3.11パルシステム生産現場での挑戦

NPO法人 民間稲作研究所理事長 稲葉 光國さん

栃木県で有機農業の研究を続けてきた稲葉さん。原発事故で農地が汚染されたことに心を痛めていましたが、ひまわりや菜種を植えてセシウムを回収し、食用油を搾油して商品化する試みを始めました。活動できれいな農地とともに、人と人、人と自然のつながりを取り戻したいと考えています。

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写真:いなば・みつくに。1944年生まれ。「日本の稲作を守る会」(栃木県)生産者。NPO法人民間稲作研究所理事長。農業高校教員を53歳で退職。1997年、民間稲作研究所設立。「温湯消毒機」を開発。水田の水深を深くする方法で、雑草を防ぐなど、無農薬・有機稲作を研究中。

 

 

安全神話から目が覚めて

東日本大震災が起こった2011年3月11日は、栃木県では大きな被害もなく翌日には研修会開催のため徳島県へでかけました。ところが、原発関連の仕事をしていた知人から電話があり「関東には帰ってこないほうが良い」という。これは、たいへんなことになっているな、と思いました。その後、原発が爆発を起こしたという報道がありました。

私たちはいつのまにか「原発は安全」という神話に埋没して日常生活を送っていたわけです。そのほうが楽だから、危険があることに考えを及ぼさなかったのかもしれませんね。爆発で一気に目を覚まさせられたことになります。

農家は土地から離れてくらせない

誰かが除染をしなくては

地元の栃木県でも、民間稲作研究所の会員が多く住む福島県でも、放射能を避けるために避難した人は大勢います。しかし、農家は土地に根付いて生きていますから、政府が強制でもしない限り、自分からは動こうとしないことが多いのです。一時的に土地から逃げたとしても、その後、誰かが除染をしなくては、という気持ちでした。

土木工事で表土を片っぱしからはがしていく、ということも行われていますが、それでは農家の宝物である土が失われてしまいます。なんとか農家が自分の手でできる除染はないものかと、思いあぐねていました。

放射能を吸収しやすい作物

発想を変えれば宝

私はもともと、へそ曲がりで、あまのじゃくなところがあって(笑)――政府は『高濃度に汚染された地域では、放射能が作物に吸収されるので、栽培しないでください』というけれど、逆に言えば、『作物は放射能を吸収してくれて、土地をきれいにしてくれます』ということでしょう。

むしろ高汚染地帯の農家は積極的に作物を作ったほうが土地がきれいになるじゃないか、そういう考えに至ってはじめて、展望が見えてきたんです。

 

『無駄なこと』と、

散々非難されながら

『植物での除染は効果が無いと学者が言っている』とか、散々非難されながらでしたが、すぐに仲間とともに栽培実験を始めました。すると、ひまわりを植えた畑の土の直下は汚染が半減したんです。畑全体で半減するわけではありませんが……。

同時に、放射能を吸収した作物をどう処理する? という問題が出てきましたが、自治体によって普及に差がありますが「バグフィルター」付きの焼却炉であれば、燃やしても環境中に放射性物質を出さないということも確認しました。

さらに、このひまわりから油をしぼったところ、放射性セシウムが検出されない油が得られました。

セシウムは油に溶けないので、搾りカスのなかに留まる性質があるんです。作物の力で除染しながら、植物油を販売できる希望の光が見えてきました。試験的に販売を始めたところ、香りが良い、油のコシが強い、と好評をいただきました。

放射能汚染の困難を逆手にとればチャンスになる。人間にとって本来の食を考えなおして、食料自給率を高めてやる、そう思うようになったのです。

本物の食、本物の油を

取り戻せ

市販されている多くの食用油は、輸入の遺伝子組換えの菜種を、化学薬品を使って搾ったものがほとんど。スーパーに行けばいつでも安く便利に買うことができて、油にも旬の季節があることすらわからなくなっています。植物油は自給率がほとんどゼロという、海外に頼りきりの食品なのです。

それに対してこの「グリーンオイルプロジェクト」の油は、国内の非遺伝子組換えの原料を使い、コールド製法という熱を加えない方法で、薬品を使わずに圧力だけで搾っています。

菜種油は市販のものは黄色いですが、私たちのものはフレッシュなので鮮やかな緑色をしています。

また、大豆油はアンチエイジング成分といわれるビタミンEが豊富で、知る人ぞ知る希少な油。毎回大豆油だけを買ってくれるという人もでてきました。

改良を重ねて、自信をもっておすすめできる油に仕上がるようになりました。買い支えてくれる人の人数で、除染できる土地の面積が決まるので、よりたくさんの人においしく食べて健康になってもらえれば、と思っています。

「グリーンオイルプロジェクト」のなたね油は、1本270グラムで千円。これを高いとみるかどうか。農薬を使わずに栽培するためコストがかかり、コールド製法のため搾油できる量も少なくなりますが、見学してもらえれば納得の価格であることがわかると思うんです。農家は環境を良くしていく、消費者は健康を支える、そういう関係ができていかないと、もう日本の農業は終わってしまう。

このプロジェクトが成功させられなければ、日本の食の未来はない、という意気込みで取り組んでいます。

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写真:大豆畑にて。「グリーンオイルプロジェクト」が始まって、希望の光が見えてきた

 

 

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写真:除染と搾油のために植えられたひまわり

 

 

次に安全神話が

崩れるものは?

安全神話のぬるま湯は、原発だけではありません。次に安全神話が崩れるのは農薬かもしれませんよ。農薬の影響でミツバチが減っていますし子どもに増え続けているアトピーや精神疾患は、食事に含まれる化学物質が影響しているとも言われています。

放射能の危険性は一般の消費者の間で関心が高まりましたが、これを機に農薬の危険性についても関心が高まるとよいと考えています。放射能のリスクが低い地域の農産物でも、農薬をたくさん使っているかもしれませんから。

原発も農薬も、ここまでリスクがせまってくると、一時の大人の利害関係だけで、危険から目をそむけることはできなくなってきています。

食の問題、くらしかたを考える

最後のチャンス

食の問題とともに解決しなくてはならないのがエネルギーの問題です。原発に頼りきったくらしから脱却しなくてはなりませんから。

私たちは「グリーンオイルプロジェクト」と並行して、天ぷら油を地域から集める活動もしています。ろ過したのち、トラクターなどの燃料にしています。天ぷら油をろ過しただけで、ディーゼルエンジンがしっかり動くんですよ。

このプロジェクトは、地元農家や福島県の農家、植物油の技術者や、地域の人、都会の消費者、それぞれの技術や思いが、みごとにつながって動き始めました。

「グリーンオイルプロジェクト」は、人と人のつながり、人と自然のつながりを取り戻してくれます。自分たちでは何もできっこない、などと思わずに地域の小さな輪から広げていくのが未来です。

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写真:大豆やなたねの茎や葉は「燻炭製造機」で暖房用のお湯をわかしながら灰にします

「グリーンオイルプロジェクト」の植物油を販売しています。

なたね油            1,000円
ひまわり油          1,000円
大豆油               1,700円
(すべて270g・税込・送料別)

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写真:酸化を防ぐため、焙煎をしないコールド製法で搾油。室温17℃で保存しています

【お問い合わせ】

一般社団法人
グリーンオイルプロジェクト
〒329-0529 栃木県河内郡上三川町下神主233-1
TEL/FAX 0285-37-7366

パルシステムのカタログ『きなり』(2月4回)でも、
稲葉さんが植物の力で取り戻す未来について語っています

執筆者

執筆者所属

翻訳と校正

メディア

パルシステム・セカンドリーグ月刊「のんびる」No.78(2013年4月号)より転載(pp.39-41)

 

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