2013/07/04 by jixin

つながる・ひろがる!100年コミュニティ:2013.4月号●特集1:被災地・大船渡で考えたコミュニティの再生

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  87歳「看板娘」

凍結した山道を、車は時速20キロでゆっくり進んでゆく。東北新幹線の北上駅から約3時間、岩手県沿岸部にある大船渡市に着いたときには時計の針は夜8時を回っていた。

市の中心部にある「大船渡屋台村」の前で車を止める。暗い闇のなかに存在感を示すかのような赤い看板がひときわ目をひく。ここは大津波ですべてが流された「浸水地区」。周りは更地がひろがっており、数十メートル先は海だ。津波の直撃を受けながらも倒壊を免れたホテルやスーパーなどが点在しているが、民家は一軒もない。遠くの高台に見える家の灯りを指さしながら「あそこから上は残ったんです」と同行したコミュニティネット代表取締役社長の髙橋英與さん(64)が言う。

髙橋さんの母親こうさん(87)さんと妹の恵美さん(52)が経営する店「おふくろの味 えんがわ」は、20店舗が入る屋台村の一角にある。店の中に入ると、「お待ちしていました」とかすりの上着を羽織ったこうさんが迎えてくれた。

ひっつみ汁、肉じゃが、おでんは薄味で美味、まさにおふくろの味。「おいしいですね」と言うと、「最初はね、(私のつくる)料理でお金もらっていいんだべかと不安だったけれど、いまはそう言ってもらえるのが生きがいでね」とこうさん。

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写真:米寿を迎える髙橋こうさん

こうさんが住む家は津波で流された。震災後、8ケ月ほど髙橋さんが住む東京のマンションで避難生活をしていたが、2011年の秋に大船渡に戻り、仮設住宅に暮らしながら恵美さんと2人で店を始めた。「せっかく生かされたんだから、人のためにできることをしよう」と決め、物資の支援や生活保護を受けて暮らすのではなく、住みなれた町で仕事をしながら自立して生きる道を選んだという。80代後半の高齢者が「看板娘」としてカウンターに立つ姿は「復興のシンボル」として注目を集め、テレビや新聞で何度も取り上げられてきた。

「この年になっても、こんな風に仕事をしているのを見ると『元気づけられる。ここに来ると落ち着く』と言うお客さん、多いんです。ひっつみ汁を食べながら、『これ、おふくろが小さいときに作ってくれた。なつかしい』って。そんな会話をするのが楽しみでね」

 

九死に一生を得て

翌朝、髙橋さんとこうさんに町を案内してもらった。海沿いの道は1メートル近く地盤沈下しており、車は海面すれすれを走る。大船渡魚市場は新たに建設中だったが、水産加工場が集まっていたあたりは更地のまま。

こうさんの家は、大船渡湾をはさみ屋台村の対岸、赤崎町にあった。枯れ草が生い茂る、自宅跡で車を止め、外に出ると強い風が吹いていた。

「ここに家があってね。庭でいろんな野菜を作っていたんです」

こうさんに3月11日のことを聞いた。

「揺れがきて、すぐ外に出て、ここさ、あがろうと思ったの」と裏山を指差す。地上から4、5メートルのあたりに墓が並んでいる。

「(墓までの)なだらかな道があるのだけれど、向こうに津波が見えて、間に合わないと思い、やぶからでね(やぶをかき分けて)。ここさ(上まで)あがって、こっちさ(下を)みたら、(水が)ガアッときたのね。もうダメだと思った。このお墓の20センチ下あたりまで水がきたからね。大きな家さ、流れてくる。頭真っ白になってね。こわかったあ、寒かったあ、ほんとうに悪魔、悪魔の世界だったあ」

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写真:「ここに私の家がありました」(大船渡市赤崎町にて)

赤崎地区は海抜約3メートル。津波の高さは11・8メートルに達し、200軒ほどあった集落はすべて流された。こうさんはまさに九死に一生を得た。

「家も財産も瞬時に失い、先の見えない不安を抱えて生きる……。その喪失感や苦痛は計り知れないものです。人間は、生きていく上で、自分ではどうにもならない事態に直面することがあります。自然の脅威の前で、無力であることを思い知らされます

故郷である大船渡を半年ぶりに訪れた髙橋さんは言う。こうも続ける。

「ただ、そうした経験が人間を変えることもあります。母は仮設の屋台村で、それまでしたことのなかったお客さん商売を80歳半ばで始め、それによって以前より元気になりました。母に限らず、大震災と津波という修羅場を経験した人は、豊かに見えるけれど心の交流が稀薄で、コミュニティが崩壊しかかっている今の社会を再生する手がかりを教えてくれます」

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写真:「おふくろの味 えんがわ」にて。

髙橋英與さん(2013年2月)

髙橋さんは長年にわたり、高齢者向け住宅の開発と入居相談・運営などを手がけてきた。しかし、高齢者向けに事業を展開しているのではなく、高齢者向け住宅をひとつの「入り口」としながら、医療や介護のセーフティネットのある暮らしや、多世代が交流するコミュニティづくりを通し、社会が直面する問題の解決を目指してきたという。

大震災が教えてくれたことは「今の生活のあり方を変えないと、日本は立ちいかなくなる」ということ。

「私たちのなかにある高度経済成長時代のイメージを捨て、自給自足的な生活にシフトする、環境を大切にする、年を重ねても社会参加ができるようにする、そして何よりもお互いに支えあうことが求められています」

被災した岩手、宮城、福島の沿岸部は高齢化、過疎化、若者の流出など様々な課題を抱えているが、髙橋さんの眼にはそれは近い将来の日本の姿に重なるという。ゆえに、母が「看板娘」となり、被災した人たちが集う「居場所」を創り出していることを一過性の出来事にせず、普遍化することでコミュニティ再生につなげたいと考えている。

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写真:2011年3月11日午後2時46分。三陸沖を震源とするマグニチュード9・0の巨大地震は、想像を超える大津波となって岩手、宮城、福島はじめ東日本沿岸に大きな爪痕を残した。ここ大船渡市には地震発生からわずか30分で津波が到達。死亡者340人、いまだ80人の行方がわからない。写真は、市の中心部にあるホテル3階からみた大船渡湾。

 

多世帯交流の場「居場所ハウス」

2月末、大船渡市末崎町の住民有志らでつくる「居場所」創造プロジェクトがNPO法人の認証を受けた。アメリカの大手企業の支援で町内に建設している拠点に、高齢者を主体に多世代が交流できる「居場所ハウス」作る予定という。

この活動にかかわってきた地元の社会福祉法人「典人会」法人事務局の所長を務める熊谷君子さんは、主任介護支援専門員や認知症ケア上級専門士の資格を持ち、デイサービスはじめ地域における老人福祉事業を担ってきた。自身の家も津波で流され、仮設住宅で暮らしている熊谷さん。「居場所ハウス」は「おふくろの味 えんがわ」のこうさんがモデルになっていると話す。

「高齢者がひっつみ汁を作ってみんなに出したり、お茶や珈琲を飲みながらおしゃべりを楽しんだり、そこに子どもたちも来て、高齢者から伝統料理の作り方や昔の遊びを教えてもらったり……。そういうことを地域の人が軸となってやりながら、ばらばらになったみんなが集う場所にしたいんです」

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写真:熊谷君子さん

仮設住宅での暮らしや生活環境の変化により、認知症、うつ、アルコール依存症や身体が衰える生活不活発病になる人が増えているといわれる。

「仮設での暮らしは運動不足になりがちで、話し相手のいない人も多い。このままではうつや認知症などが増える一方です。ところが、今は集える場所がないため、ケアマネジャーに頼み、介護保険を使ってデイサービスを利用してもらうしかないのが現状です。介護保険に頼らず多世代が共に集える居場所を作りたい。その第一歩が居場所ハウスなんです」

こうさんをモデルにした居場所ハウスは6月にオープンする。

被災地も、日本全体も今後、さらに高齢化が進む。年金制度も介護保険制度もいずれ支えにならない日がくるだろう。ならば、何をなすべきか。すべてのモノを奪われ、残ったものが少なくとも生きていけるということ、ほんとうに大切なものはモノではなく心の豊かさにあることを被災地の人びとは教えてくれる。髙橋さんは言う。

「ひとりでぽつんといるのではなく、生きがいを持って人とかかわりながら暮らし、病気や介護が必要になったときには支えあう。問題が起きたときは一緒に考える。そんなゆるやかなコミュニティが必要です。ぼくはそのための拠点づくりをしたい。どんなコミュニティにするかは、その地域の人たちが中心となって生み出す。そんな風に考えています」

誰かのせいにすればたやすいことを、自分の問題として考え続ける。未来はその延長線上に拓かれる。

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写真:長女の恵美さんと共に店のカウンターに立つ

(取材・文・写真 Kyoko.A)

 

執筆者 Kyoko.A
執筆者所属
翻訳と校正
メディア 社団法人 コミュニティネットワーク協会ホームページにより転載:http://www.conet.or.jp/number/2013_04/feature1/

 

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