2009/12/16 by GLI Japan

花旦ワークショップ―羅琳(Caroline Watson)

訳注:花旦とは、京劇の女性役である青衣・花旦・老旦のうち、青衣‐ヒロインの成人女性とは対照的な召使いの娘などの活発な若い女性役のこと。

“参加型演劇”は多くの人に、あまり知られていない名称であるかもしれない。演劇はこれまでずっと舞台で演じる世界であり、舞台の上は役者、下が観客だった。

前世紀の60年代、ブラジルの演出家、アウグスト・ボアールが先駆的な一つの新しい演劇の方式を創った。観客は観劇中に出演者の演技を打ち切り、違った表 現の仕方を提案することができ、更には、直接舞台に上がって、出演者に自分の考えた演じ方をやってみせることさえできる。舞台と観客席、出演者と観客が一 つになる。観客は“特別出演者”となり、演劇を見ることを通じて、現実と違う世界を空想できるばかりでなく、自分の演出を通じてこの虚構の世界を変え、こ の過程の中で新たに自分を認識し、ついには現実生活でこの変化を実践することができる。

参加型演劇という手法は、ますます多くのコミュニティの発展、特に社会的弱者のキャパシティ・ビルディングの過程に応用されつつある。中国の農村 から都市に出稼ぎに来た若い女性たちは、このようなグループの一員である。彼女たちは現実の生活の中で、いろいろな問題と不公平に直面し、往々にして沈黙 あるいは忍耐しなければならない。参加型演劇を通して、彼女たちは虚構の世界で自由に自分の考えや叫びを表現し、新たに自分の隠れた才能を見つけ、演劇の 中で現実の世界にどう向き合うかを学ぶ機会を得る。そして、これによって自分の生活を変えていく。

花旦が描く“魔法の世界”

2004年、一人の若いイギリスの女性が、参加型演劇を初めて北京に持ち込み、出稼ぎ女性のグループの前に、その斬新な世界を示した。Caroline Watsonは心地よい響きの中国語名、“羅琳” を持っている。羅琳は香港に生まれ、イギリスのランカスター大学の演劇科を卒業した。旅行が好きな彼女 は、大学卒業後、アジア各国を回り、モンゴルへの途中で、北京に寄り、この都市に魅了された。

羅琳は北京で出稼ぎ女性のために創設された非営利団体、“出稼ぎ女性の家”のことを知った。羅琳は出稼ぎ女性たちと接触しているうちに、自分が大 学で学んだ参加型演劇の方法で、彼女たちの力になりたいと考えるようになり、出稼ぎ女性の家を利用して、数回のワークショップを行った。そこでは演劇を通 じて彼女たちが、日常的にぶつかっているいろいろな問題、例えば労資のもめごと、性的嫌がらせ、家庭内暴力等々を再現した。“地方から来た労働者、特に女 性は中国社会発展の最大の功労者だ。しかし社会の彼女たちに対する関心と支持は少なすぎる。私は参加型演劇の方式を通じ、更に多くの人に彼女たちの声を届 けたい。彼女たちは演劇を通じて、本当の自分を発見し、いかに現実の世界に対応するかを学ぶ”

羅琳は自力で北京に“花旦ワークショップ”という非営利団体を立ち上げた。彼女は、花旦という中国の伝統演劇の中の役柄が、知恵を持ち、能力を持ち、挑戦する勇気を持つ中国女性を代表していると考えている。

花旦のワークショップに参加したことがある人はみな「魔力」「楽しさ」「感動」などの言葉を用い、自分の体験を形容している。そこでは、役柄を演 じること、即興創作、ゲーム、物語などの形式を創造的に融合させている。参加者たちはその場を利用して、交流、討論し、役柄と本当の生活を緊密につなげ て、役柄を通じて生活を再現し、その内心にある最も真実の部分を認識する。

花旦ワークショップの中で非常によく知られた役柄のひとつに“蘭蘭”がある。蘭蘭は北京で働くレストランの店員で甘粛の出身。彼女はしょっちゅう レストランの経営者に性的嫌がらせをされるが、争う勇気がない。現実の生活の中の“蘭蘭”が蘭蘭に扮する時、そのほかの参加者は彼女と一緒に問題解決の方 法を考え出す。多くのワークショップの参加者にとって、これは、自由に自分を表現する初めての機会となる。彼女たちの中には、これらの問題がもともと解決 できると考えたことがない人さえいる。“役を演じる過程で、出演者たちが全く違うやり方で問題を解決してみる機会を持つことで、自分が思うよりも力を持っ ていることを発見するはずだ”

このような演劇活動が出稼ぎ女性の自分に対する理解を深め、自信を強め、更には彼女たちの自分に対する見方を変える。

ワークショップの参加者には出稼ぎ女性ばかりでなく、さまざまな背景の人がいる。羅琳は曾て投資銀行に勤めている人たちに蘭蘭の役柄をやらせた。貴方はこ の試みが彼女たちにどんな衝撃を与えたか想像できるはずだ。“私たちは出稼ぎ女性と社会の間で橋渡し役を演じることができる。更に多くの人に彼女たちの世 界を理解してほしい”

花旦のミッション

花旦のウェブサイトでは活動の目標をこのように紹介している:

・出稼ぎ労働者をアーティストやプロジェクトリーダーとして育成し、彼女らが貧困から抜け出し、主流社会に参加する機会を与える。

・コミュニティ、各種の団体及び企業と協力し、創意やインスピレーションを持つワークショップを通じて、社会各階層の人々を更に多く奮い立たせ励まし、人々の精神生活の質を高め、調和ある社会を共に建設していく。

花旦は現在14人の団体で、10人のフルタイム職員と4人のパート職員がいる。すべての職員はみな出稼ぎ労働の経歴を持っている。“私たちは家族同様で、彼女たちはみな現在単独で仕事を担当することができる”

資金不足のうえ、経験のない見知らぬ国で創業をする、その困難さは想像に難くない。“始めたばかりのころ、私はどのようにこの団体の長期発展計画 を立てたらよいのか全く分からず、自分の懐を痛めて花旦の支払いをしながら兼職で英語を教えることで生計を保っていた。言葉の障害以外に、周囲の中国人も 私が結局何をしようとしているのか理解できなかった。大抵は金持ちの外国人(の気まぐれ)とみなされたり、目的に対して疑いを持たれたりした”   花旦 の1番目の参加者は董芬といい、彼女は農家女職業訓練学校を卒業後、ウェートレスの仕事を見つけた。董芬は現在、すでに花旦のプロジェクト責任者の一人に なっている。

不断の努力を続けた時期を経て、ますます多くの人が花旦を理解し彼女たちの活動に加わるようになった。羅琳は現在、違った角度から見れば、外国人 だと区別され対応されたこともよい一面があったと回顧する。花旦はローカルの団体と違ったネットワークを持っており、花旦に加入した出稼ぎ女性たちも花旦 の国際的色彩に引きつけられたはずで、その上同時に英語を学ぶことができる。“私はこのような文化の融合が現在の中国の潮流を代表していると思う”

出稼ぎ労働者を対象とするワークショップ以外に、花旦は企業やNGOにも団体養成訓練を設計・提供している。その中で企業を対象とする組み合わせ型養成訓練ワークショップが獲得した収入は、しだいに花旦の重要な財源となりつつある。

花旦が企業のために設計するワークショップのテーマは、チームワーク、創造力、意志の疎通、衝突の解消、異文化交流などの各領域を包括している。 同時にワークショップを通じ、会社管理層は出稼ぎ労働者という社会的グループをさらに深く理解し、両者の討論交流を進めることで、すべての参加者の共鳴を 引き起こす。

花旦の現在の企業の得意先は、主に多国籍企業である。2008年2月、花旦は北京郊外のリゾートホテル「長城の麓の公社」で欧華法律事務所 (DLA Piper)北京代表所の70人の職員のために一つのワークショップを企画した。欧華は、楽しく革新的で心を励ますようなワークショップを通じて団体精神 を打ち立てると同時に、数人の新入社員がすんなりとチームに溶け込めるようにしたいと考えていた。花旦は、「宇宙人が長城に侵入した」というテーマで革新 的な団体建設ワークショップを設計し、参加者たちは、彼らが仕事の中で直面した課題、例えば異なる部門間の意志の疎通、新職員の融合、異文化交流の難しさ などを、上演内容と関連付ける。“私は花旦の「モデル」はすべての人の役に立つと信じている。一人ひとりの毎日は、仕事、生活、恋愛など非常に多くの選択 に直面しなければならない。花旦のワークショップを通じ、自分の扮した役柄を通して新たに自分を探し、認識する。私は花旦が届ける「プロダクト」にとても 自信がある”

花旦が現在展開しているプロジェクトには、出稼ぎ労働者の子供たちを対象とする「モヤシ」プロジェクトと四川の震災地域の学校の心理ケアプロジェクトも含まれている。

花旦のブランドを作る

2007年、羅琳はWaldzell会議の「未来設計士」に選ばれINSEADの社会起業家訓練プロジェクトに参加した。“社会的企業、この概念 は、私にとってとても重要だ。花旦はすでに発展の第2段階に入っている。私たちの現在のサービス対象は、もう出稼ぎ女性だけではなく、企業やコミュニティ 団体の能力を向上させる有効な手段としても演劇ワークショップを設計している。将来、私たちは更に多くの出稼ぎ労働者を雇って、花旦のモデルを全国に広め たい。この団体を維持するのに私たちは安定した収入を必要としている。伝統的な慈善団体のやり方と資金構造では、根本的に良いモデルを続けさせていけない と感じている。すべての人がボランティア精神を発揮することを望むだけで、いかにこの領域で働いている人に妥当な収入を与えるかという問題を考えないなん て、私からみてまったく理不尽だ”

花旦は現在、香港で非営利団体として登録しており、年間予算は80万人民元、そのうちの1割から2割が商業収入で、企業のためにワークショップを 設計する収入が主体となっている。大部分の収入源は寄付と基金会の資金援助。羅琳は近い将来、この構造を変えることを望んでいる。“基金会は私たちのプロ ジェクトを評価するが、彼らからの資金は往々にして基金会自体のプロジェクト設計の制限を受ける。今後の予算設計の中には、職員の妥当な給料、トレーニン グ、又新事業の開拓の為のスペースを作りたい。イノベーションには投資が必要だ!”花旦の短期の目標は、300万元規模の団体に発展することである。“私 たちの目前の状況と比べて非常に高いようだが、目標は、そもそも高く設定するものだ”

いかにこの目標を実現するか?鍵は花旦のブランドづくりにあると羅琳は考えている。“現在の私たちのワークショップはほとんどの場合得意先の要求 に合わせてオーダーメードで設計している。このように多年にわたって積み重ねてきた経験で私たちは自分のブランドを打ち立て、みんなを花旦の独特の世界に 連れて行き、ワークショップへの参加を通じて新たに自分を認識し、自分の潜在能力を発見してほしいと望んでいる。私は花旦の魅力が背景に関係なく、国境の ないことを信じている。花旦のやり方を全国に広め、そして国際的ブランドにしていく自信がある”

社会起業家に対する見方に話が及ぶと、羅琳は、成功する社会起業家に必要な技能として、マネジメント、ネットワーキング、そしてよき聞き手、学習 者になることを挙げた。“私は花旦に全部の情熱と精力を傾注した。人生は短すぎ、くだらないことのために無駄にする時間はない”

文責:李凡

翻訳:岡田由一

Facebook Twitter 微博

CATEGOLY