2013/02/12 by Tanada

【海津歩】中国の週刊誌『湖湘地理』掲載のLEAD&Beyond訪日研修報告シリーズ(7)

E06 スワンベーカリー

海津歩

1998年創業のヤマトグループ子会社。店名はデンマークの作家アンデルセンの童話「みにくいアヒルの子」に由来する。福祉団体は一般消費者に良く売れる商品を生産するべきであり、マーケットで利益を上げることを通じて、そこで働く障がい者の給料を増やしていくべきだ、というのが創立者である小倉昌男の理念だった。創立当初から経営は難しかったが、2005年、小倉の逝去により、本社でマーケティングを担当していた海津歩が社長に就任した。一年目でベーカリーの経営は黒字に転じ、海津は「社会福祉のプロは、却ってスワンを生み出せていない。全く逆のことをしている」と総括した。

2012年3月16日、黄昏時の東京・銀座。表情豊かに、身振り手振りも交えながら、海津歩は彼の「スワン」たちを面白おかしく語る。「私たちはどんな会社か。一言で言えば、職員と社会の両方を幸せにする会社です」「誰も私を取材しない日が来てほしい。スワンベーカリーのやっていることはごく普通だと皆が思うようになってほしいのです」

「人にことさら注目されることもなく、他の人と同じように私たちの身近な所で暮らす――障がい者の真の生活はそうあるべきです」

講話:海津歩 通訳:李妍焱、朱恵雯 記録:刘海波

私たちの商品開発のモットーは、何かを大量に売るのではなく、ニーズに応えるものを作り出すことです。

多くの人から私たちは「社会的企業」だと言われます。社会的企業として一番重要な事は、その製品が社会にとって有益であることです。 私たちの商品開発のモットーは、何かを大量に売るのではなく、ニーズに応えるものを作り出すことです。たとえば私たちは、卵アレルギーの人に対応したケーキを開発しました。また、パンは通常、まるごと飲み込めばのどにつかえてしまいますが、私たちは脳卒中患者や、身体に障害があって普通に物を噛めない人のために、舌で潰せて口の中で溶けるパンを開発しました。このパンは、もともと脳卒中患者専用に開発したものでしたが、今では高齢者介護にも役だっています。

私たちは他企業とも協力し、障がい者や知的障がいの人のためにより多くの職場を創出しました。たとえば三井住友銀行の社員食堂では障がい者を雇用していますが、彼らはパンを作りたくても技術がありません。そこでスワンベーカリーで焼いたパンを届けることにしました。スワンベーカリーは24時間操業なので、夜でもパンを焼けるのです。三井住友銀行の社員食堂でスタッフ自身が苦労してパンを焼かなくても、食堂でパンを売れるようになりました。

他のことにも注目しています。たとえば2011年3月11日の大地震はみなさんもご存じでしょう。私たちの店では大きな被害を受けた福島の農作物を代理販売しました。原発事故の汚染地域で採れたジャガイモを売っていると風評がたったので、ジャガイモに対する放射線測定結果をすべて貼りだし、これらが検査に合格して安全であることを示しました。ジャガイモは並べた日のうちに完売しました。

人気歌手・倉木麻衣がブログで宣伝したケーキの人気がたちまち沸騰

私たちは、障がい者や知的障がい者を支援する他団体の運営にも協力しています。いくつかの福祉作業所がありますが、そのひとつは箱を専門に製造する工場、またガトーショコラを上手に作る工場もあり、もう1つは素晴らしい絵が描ける作業所です。それぞれ単独で見ると、経営は困難だったので、私たちは彼らを一つに組み合わせ、可愛い絵のついたきれいな箱入りの美味しいガトーショコラを開発しました。三つの作業所が一緒に新商品を開発し、人気歌手の倉木麻衣がブログでPRしてくれたこともあって人気が急上昇し、とてもよく売れました。

私たちには、雑誌や新聞に広告費を払って商品を宣伝することはしないという原則があります。店の中にも障がい者の店であることを宣伝するポスターなどはありません。店に来てくれるお客さんはただ、商品が美味しいから、あるいは店の雰囲気がいいから来てくれるのです。スタッフの何人かが他の人とちょっと違うなと気づく人がいるかもしれませんが、食べ終わって店を出る時、彼らはそれを全く気に留めていません。それがこの店の目標の一つです。人にことさら注目されることもなく、他の人と同じように私たちの身近な所で暮らす――障がい者の真の生活はそうあるべきだと私は思います。

一部の障がい者は寝たきりです。そこで彼らに店からネット販売のデータを送信し、彼らが家で寝ながらできるデータ入力の仕事をお願いしています。

個人として自立していないまま他者と協力するなら、それは協力ではなく、寄生だ。

スワンベーカリーの事業はまだ成功したとは言えません。成功するには前提があります。まず自助、そのあとに共助、そして公助をすべきだということです。

自助とは自らを助けること。共助とは誰かと互いに助け合うこと、公助とは政策的・国家的・制度的支援です。もしあなた自身がとても弱くて能力がなく、個人として独立していないなら、あなたが誰かと協力したとしても、それは協力ではなく寄生です。共助に到達したいと思えば、私たちはまず必死で自立・独立しなければなりません。協力とは何か、何故協力しなければならないのか。私はいつもこの2点を強調します。

一人一人の職員に対してはひとつの信念があるだけです。障がい者職員であれ他の職員であれ、すべての人には長所があります。私たちがある人を雇用したいと思うのは、その人の長所の助けを借りたいと思うのです。その人に能力があるかどうかは問うべきではなく、私たちがその人の長所を発見していないのです。さまざまな人の長所を組み合わせ、生産チェーンを形成し、互いに補い合うというのが私たちのやり方です。

実際の所、障がい者が社会の中で差別を受けているかどうかは、私たちのベーカリーには関係ありません。私が気にするのは、私たちの店の運営がうまくいっているかどうか、赤字をだしていないかどうかです。店の職員が一緒に努力し、ベーカリーが発展するようにしてきたいのです。当然、何故このように多くの人が障がい者支援の話を聞きに来るかということも意識しています。一昨年は3600人あまり、昨年も3000人あまりの訪問を受け入れました。障がい者を正職員として店に雇用することは、私たちにとっては当たり前のことですが、社会からみると特別な事なので、こんなに多くの人が私を訪ねてきます。これは大変におかしなことですが、障がい者に対するノーマリゼーションが、私たちの社会ではまだ進んでいないという証です。誰も私を取材しない日が来てほしいですね。スワンベーカリーのやっていることはごく当たり前だと皆が思うようになってほしいのです。

 消しゴムで、障がい者という言葉を頭の中から消してください。

多くの人が私を訪ねてきて、障がい者の会社を経営したいと言います。私は彼らに、まずあなたの頭の中の障がい者という言葉を、消しゴムで消してくださいと言います。そしてもう一度、どのような会社を作りたいのかを考えるべきだと。

社会的企業という言い方に対しても、いいとは思いません。現行の資本主義システムにあっては、すべての企業は同じように資本を投入しており、区別する必要はありません。今、日本は真っ先に高齢化社会に突入し、「四重苦」――第一に医療や養老など社会保障制度の危機、第二に少子化、第三に高齢化、第四に原発事故――に直面しています。

日本だけがこのような課題に直面しているのでしょうか。いえ、世界も早晩同じ運命です。そんな状況の中で、私たちの公共の幸福に関わる問題は、誰が引き受けてくれるのでしょうか。社会をどう運営していけばいいのでしょうか。これからは、NGO、私企業、団体、家庭を単位とした集団に関わらず、思いついた人がやらなくてはなりません。こうした社会において、誰が社会起業家か、などと区別することはできないのです。

スターバックスは確かに多くの公益活動をおこなっていますが、彼らのやり方は欧米的です。目立つやり方で、上手に宣伝しますが、ある種ショー的な感じがします。たとえば、「一杯のコーヒーを飲むだけで、あなたはどこそこの樹木を1本救うことができます」というように。スワンベーカリーも営利を追求していますが、スターバックスとの最大の違いは、稼いだお金で新しい社会課題解決の実験を行うことです。スワンベーカリーでは赤字は許されません。多くの責任を背負っているからです。資本主義市場経済の中できちんと経営を持続していくには、経営の効果を検証し、顧客を重視しなくてはなりません。そうやって私たちがうまくやれた時、それは結果としてより多くの障がい者雇用につながるのです。

【スワンベーカリーに関する考察】

20130212-2李妍焱(日中市民社会ネットワーク代表、駒澤大学文学部社会学科准教授)

「みにくいアヒルの子」の話は皆さんご存じでしょう。みにくいアヒルの子だと思っていたのが、成長して初めて実は美しい白鳥だったと分かる話です。この話と「スワンベーカリー」で働く障がい者や知的障がい者には共通する点がたくさんあります。みにくいアヒルの子だと思われていた障がい者がスワンベーカリーで水を得た魚のように作業する光景を見ると、彼らがとても美しいことが分かります。

スワンベーカリーは、日本を代表する宅配便業者「クロネコヤマト」の初代社長が、障がい者にとっての「尊厳を持って働ける場所」を実現するため、肝いりで創設した事業です。1998年に設立し、現在は東京の銀座や赤坂といった中心的地域で直営店を3店舗展開、売上高は6億円を超えます。また、スワンベーカリーは日本各地で同じ志を持つ人に対して、無償で技術的な支援を行い、障がい者を雇用する店の創業やそのような店への転業をサポートした。現在の加盟店は25店舗に達しています。主な事業はパンの製造・販売・配送の他、コーヒーなどの飲料も扱っていますが、一部の店舗では手軽でおしゃれなイタリアンやフレンチのディナーも提供しています。現在では、約1300人の障がい者(うち6割以上が知的障がい者)と数百名の健常者が一緒にこれらの店舗で働いています。障がい者の給与額は一般的な授産施設の10倍近くで、もし両親と同居していれば、基本的には自分で生活していける収入レベルを実現しています。これは、日本初です。

2012年3月16日、スワンベーカリー東京銀座店の様子(朱惠文撮影)

スワンベーカリーが中国の同業者に与えた教えの中で最も重要なことは、「辛抱強さ」と「広めていく姿勢」です。新しく雇った知的障がい者に対して、スワンベーカリーでは何ヶ月もの時間をかけて、辛抱強く待ち、その人の「得意分野」を探しています。彼らの経験とモデルを学びたい同業者に対しては、様々な技術研修を無償で提供し、事業展開の方法や彼らの組織文化を伝授しています。海津氏はこう言っています。「私たちは普通の民間企業ですが、唯一他社と異なるのは障がいを持つ従業員の数が多いということです。私たちのこういった状況は特別でも何でもなくなり、誰も見に来なくなるのが当たり前なのです。今の状況が、明らかに不自然なのです」。この「当たり前の社会」が早く訪れるために、スワンベーカリーは惜しげもなく自分たちの智恵を分かち合っています。

執筆者
執筆者所属
翻訳と校正 翻訳:松江直子、校正:棚田由紀子
メディア http://csnet.asia/archives/9323?lang=zh-hans

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