2013/02/01 by Tanada

Leave No Trace上級講師台湾研修ツアー報告

Leave No Trace上級講師台湾研修ツアー報告

先日、雲南の白馬雪山を登頂した者がいるという情報が入りました。調べてみると、登頂したのはアウトドア学校のメンバーで、彼らは保護区の自然環境を利用して、登山ガイドの研修基地をつくろうとしているとか。

この提案に対して、許可するかどうかは慎重に検討するというのが保護区の意見だそうです。彼らと緊密な協力関係をもつ団体として、CSネットはその進展を見守りたいと思います。なぜなら、たとえ地元の方々にとって、白馬雪山はカワカブのような、絶対に登ってはいけない「聖なる山」ではないとしても、そのような企画が環境にどんな影響を与えうるか、どんな工夫をすれば自然にかける負担を最小限にできるかについて、自然環境を利用する前に当事者にぜひ考えていただきたいからです。

偶然にも、先日、中国環境NPO「自然之友」が「台湾のアマゾンへ:LNT上級講師研修報告会」を開催したという情報が入りました。LNTというのは、「Leave No Trace」の略語で、何も残さないという意味です。1970年代にアウトドア活動による自然環境破壊などの問題を最小限に食い止めようとアメリカの林業局が作ったルールが始まりですが、1991年に林業局とナショナル・アウトドア・リーダーシップ・スクール(NOLS)が協力して、自然に対する影響を最小限にする技術やその手法を教える活動をしています。1994年に「Leave No Trace, Inc.」というNPOを設立し、教育プログラムを作成しているそうです。

「自然之友」は、中国大陸で最初にLNT研修を実施した環境団体ですが、もっと多くのアウトドア愛好者にLNTの理念と実践を理解してもらい、中国独自のLNT講師陣を作るのが目的です。彼らはまず2011年9月に、北京八達嶺森林公園と協力し、LNT初級講師の研修を行いました。講師資格を獲得した人たちは、将来八達嶺森林体験センターの契約講師として、より多くの人に対してLNT研修や活動を行う予定です。

2012年12月の報告会は、11月に台湾で行われた上級講師の研修ツアーを紹介したものですが、詳しい内容をここでご紹介します。記事を提供してくださった「自然之友」に感謝を申し上げます。

自然の中で謙虚になれ

~台湾哈盆地区LNT上級講師研修記録~

2011年9月、自然之友がLNT講師研修を行い、中国大陸で最初のLNT初級講師が生まれた。LNTの推進は自然之友の重要な環境教育プロジェクトとなっており、それ以来の1年間、自然之友のスタッフやボランティアたちは、時間とエネルギーを惜しまず努力してきた。賞賛も歓迎もあったが、同時にいろんな衝突と反感をも招いた。

経済が急速に発展する中国社会では、「環境保護」はすでに認知度が高い言葉となっていたが、「私あるいは私たちの日常生活」との関連性はまだ薄く、「地球」や「自然」に対する環境保護責任という考え方はまだ普及していない。このような現実のなかで、LNTを推し進めるのは極めて困難なことであり、ましてやこのアメリカから輸入した西洋思想をまず自ら学び、理解し、さらに学んだ方法を活用し、ローカリゼーションしなければならないのである。「自然之友」のメンバーたちは時に大いに悩み、そして疲れを感じたそうだ。

そのとき、環境教育チームリーダーの胡さんが経験豊富なLNT講師鄭さんに相談して台湾で研修する機会をつくった。4泊5日のLNT Master研修を通じて、自分自身の能力を高めると同時に、普段から抱えている悩みを交流によって解決することが目的。20数名の応募者から12名を選出し、チームを組んだ。参加者はほとんどボランティアで、旅費と参加費の大部分は自己負担だった。

前夜

出発まで、装備、コース、日程について台湾側と何度も意見交換した。11月11日午後、参加者は台北で集合したが、12名のなか、北京から10名、上海1名、山東省1名。「自然之友」の習慣で、参加者同志は「自然名」(nature name)で呼び合うことになった。

夜、台湾側の講師陣と対面。4人の講師はLNTの原則(注)に沿って、まず持ち物を厳しくチェックした。リストアップされていないものは一切入れてはいけない。化学合成物が入っている洗面用具もNO。研修用の食材は講師が購入し、食べ物は配分された量のみだった。

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●一日目:入山(11月12日)

20130129-3車で1時間、台湾宜蘭県のある村に到着した。まず原住民である阿雄さんの家で最初の授業が行われた。一人ずつカードを使って自分の気持ちや研修に対する希望を語った。次は、講師がパワーポイントでLNTを紹介したが、アウトドアが環境にもたらす影響や、管理より教育で問題解決という手法を選んだ経緯など、LNTの背景について全員でもう一度再確認した。

通常のプログラム紹介が終わった後、LNT Master研修の方法を説明された。それは、参加者が一つずつLNT原則をテーマに選び、講師として授業を行い、台湾側の先生たちがそれに対して評価するもの。LNT Masterは「教える方法」を教えるのが目的だそうだ。

座学が終わって、お昼に全員が阿雄さんについて山に入った。山の入り口で阿雄さんに習って、原住民の言葉で山を祭る儀式を行った。研修は、LNTの原則や方法を学ぶだけではなく、西洋文化と地域伝統文化のぶつかり合いを体験し、人と自然、人と人をつなぐ方法を学ぶのも目的だ。山を祭る儀式も、自然の前で謙遜になる気持ちをもたらす方法だ。

三時間ほど山を歩いき、夕方ごろに猟師でもある阿雄さんの宿にたどり着いた。先生たちの指導のもとで、みんなで一緒に伝統料理の竹飯を作り、焚き火を囲んで料理と交流を存分に楽しんだ。

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●二日目 授業開始 11月13日

朝、参加者が講師として務める授業が始まっ20130129-6た。勇気がある一人目は、「自然之友」で長年植物チームのリーダーを担当してきた「鷹」だった。彼はLNT7原則以外の内容「地域生態環境・生態系・樹種」をテーマに選んだ。鷹は「指をつかむ」ゲームでスタートし、山の植物の変化に対していろんな観察や思考を試みた。最後に、講師陣が彼の講義を評価し、適切なアドバイスをした。

次のメンバーは第六原則「野性動物を大切に」を解説した。彼女はみんなに質問を投げて、みんなで野生動物と接触する経験を共有し、「人はずっと人間社会にいると、人間以外の生命体が見えなくなる」、「野外にいる時に、やっと動物と対等となり、野性動物の進化や生命力の偉大さと不思議さに気づく」など、「尊重」についてそれぞれの考えを語ってもらった。

「オレンジ」は自然之友でインタプリター育成の講師を務めている。彼女のテーマは「特殊なアウトドア活動とL20130129-7NT」という彼女自身あまり詳しくないものだった。最初はどう展開すればいいかかなり悩んでいたか、休憩を利用してこのテーマについて他のメンバーと議論したところ、BANFF映画祭で見た映画を思い出した。冒険的なアウトドア活動は一見特殊かもしれないが、LNTの基本、つまり「環境に与える影響を最小限にする」ことを守らなければならないという点に関しては例外がないと気づいた。彼女はワークショップの形式で参加者と一緒に問題と答えを検討してみた。最後に、彼女はあるアウトドア映画の主人のせりふをまとめに使った。「私のかばんのなかにゴミがいっぱい入っている。決して軽くない。もしかすると、それで山が私たちに生き残ることを許してくれたかもしれない」。

一日の授業があっという間に終わった。この日の夜、阿雄さんがメンバーたちに簡単な猟師小屋の作り方を教えた。

●三日目 川辺で重要な授業を 11月14日

授業の二日目。みんな明らかに学習した内容が身に付いてきた。授業のデザインも方法も多様になってきた。先生たちは授業の合間をぬっていろんな役に立つスキルを教えてくれた。「ローカル」という原則として、先生たちはいつも授業の最後に阿雄さんに感想を述べてもらい、原住民の自然環境に関する考え方や方法をみんなと共有してもらった。その多くはLNTの原則と一致している。

第五原則「焚き火の影響は最小限に」の授業で、「LNT原則の中で、火を起こす時、燃料となる木の枝は腕より太いものを使ってはいけない、しかも拾った枝のみ、つまり木を切ってはいけないとあります。しかし、地元の猟師は木を切っているし、しかも薪も太い。皆さんどう思います?」と先生が問いかけた。

すると、阿雄さんがみんなに猟師のやり方を説明した。木を切っても、この地域の木の特徴に応じて、胸より下の部分を残す。それで木が生きられる。それに、6本切ったら20本植える。使う分以上に切らない。それが守られてきたから、環境は破壊されることがなかった。「原則は活用できるものにしなければなりません。考えもせずに、地域の状況に合わない理念や原則を一生懸命に教えても保護にはなりません」と、先生が強調した。

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この日の夜は、多くの参加者にとって一生忘れないひと時になったと思う。みんな焚き火を囲んでいろんな話をした。LNTは一種のライフスタイル。原則を語るより、自分自身の行動で教えるほうが有効である、などなど。

●四日目 授業終了 11月15日

20130129-11授業の最終日。参加者は経験を重ねながら、だんだん他人に対する評価が厳しくなってきた。それと比べて、先生たちは遥かに優しい。励ましの言葉も多かった。参加者はおそらく厳しい指摘は相手のためと考えていただろうが、先生たちの影響で、彼らのコメントも少しずつポジティブになり、賞賛や励ましの言葉が増えてきた。

最後のテーマは「影響を受けた環境を復元すること」。講師の「冬小麦」は、人に学ぶ時間はまだまだ足りないと感じ、三つの課題を出して、5つのチームに分けた参加者に5人の先生を取材してもらうことを授業の内容として考えた。短い15分間で、参加者たちは一生懸命に先生と交流し、いっぱい吸収しようとしていた。最後に、取材の成果である、5つの異なる視点をみんなで共有した。

この日の夜、みんなは雨の音を聞きながら、ぐっすりと眠りについた。

●5日目 楽しいお散歩 11月16日

20130129-12参加者が講師を務める講義が全部終わった。山の入り口に近づくにつれて、ゴミも増えてきた。先生の1人はずっとゴミを拾っていた。阿雄さんは、住民としてこれからもっと頑張りたいと言った。最後に、山を出る儀式を真剣に行って、阿雄さんと分かれた。

最後の渓流を渡ってから、道はだんだん歩きやすくなってきた。休憩の時、みんなで振り返りをし、お互いの感想を共有した。「ここは終わりではなく、新しい始まりです。夢を実現するために、まず自分のライフスタイルを考え直さなければならない、新しいスタートです」と発言する参加者もいた。

 

研修を終えて

20130129-144泊5日の研修はあっという間に終わった。いろんな感情や成長があった。「参加者にこんなにも才能があったとは!これから中国大陸でLNTを広めていく活動はますます期待できます」、「熱帯雨林のなかで心が揺り動かされました。伝統を守る原住民の猟師との交流を通じて、彼らの土地と共存する哲学に触れ、大変考えさせられました。東洋文化と西洋文化、さらに原住民の知恵がここで融合しているのを見て、『理解、尊重、包容』に対して考えを深めました」と参加者が熱く語った。

12名の参加者は全員卒業証書を手にしたと同時に、中国でLNT初級講師を教える資格を獲得した。しかし、すべてはこれからだ。先生たちの言葉を借りると、「まず自らしっかり行動すること。それから自信を持ってやり遂げる。仲間と支えあいながら、LNTのようなライススタイルや理念を広めていく。未来はきっと明るい」。

「もし人がもっと謙虚な心を持って自然に入ったら、もっと大きな知恵がきっと生まれる」と台湾交流会で周女史が言った。

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注:Leave No Trace(LNT)の7原則

1.十分な計画と準備(Plan Ahead and Prepare)

2.旅行やキャンプは元の環境を維持して(Travel and Camp on Durable Surfaces)

3.適切なゴミ処理(Dispose of Waste Properly)

4.見たものはそのままで(Leave What You Find)

5.焚き火の影響は最小限に(Minimize Campfire Impacts)

6.野生動物を大切に(Respect Wildlife)

7.他人に配慮を(Be Considerate of Other Visitors)

執筆者  冬小麦
執筆者所属
翻訳と校正 屋久子
メディア 自然之友
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