2012/09/01 by Tanada

夢の「宿場」

杭州の江城路六部橋街の路地に、「大学生携職ゲストハウス」がある。利用者は就職活動中の大卒者に限られており、学生証と身分証明書で登録して利用する。ここに泊まっている大学生にとっては、大学生活をまだ送っているような感じであり、学生寮が校外か、他の都市に移っただけのような感じだ。重要なのは、宿泊料がとても安く、一日目は無料で、そのあとは10元から30元の異なる部屋を選べることだ。一見、元手を割りそうなこの商売だが、ゲストハウスを始めた温少波氏は終始自信たっぷりである。彼の頑張りによって、この独創的な大学生携職ゲストハウスが大卒者の就職活動の「宿場」となり、社会的企業のモデルの一つとして発展していこうとしている。

就職活動に行き詰ったら、とりあえずこちらに無料でお泊りください!

2009年初め、大学を卒業したばかりの王安楽は杭州の新しいホテルに就職した。彼は小さな荷物を持ってこのゲストハウスを訪れ、新しい住人となった。王さんは二段ベッド三つの六人部屋に泊まっているが、奥にはもう一つ六人部屋があり、出入りの時には彼の部屋を通らなければならない。二段ベッドの下には鍵のかかる引き出しがあり、貴重品をしまうこともできる。実際は、携帯電話の他にはそれほど貴重品はないのだが。その他の大学生と同じく、王もスーツケース一つでやってきた。

「皆、中国全土から来ていますが、年齢も同じくらいで、話が合いますよ。」当初はしばらくの滞在のつもりで、ルームメイトを探したらすぐ出ようと思っていたと王さんは語る。しかし、住み始めてからしばらくして、出て行かないことに決めた。社交的な王さんは、携職ゲストハウスでの生活が純粋だった大学時代に戻ったように感じたのだ。毎日仕事から戻り、ルームメイトたちとおしゃべりをしたり、本を読んだりテレビを見たりして、早くに寝てしまう。ここはゲストハウスなので、住人の入れ替わりも激しく、彼のような長期滞在者は決して多くないが、住人はみな大学生なので、違和感もなく、かえって、毎日のように新しい人が来るので新鮮だという。「今朝は、私の上のベッドの人が杭州を出発したんです。皆まだ起きていませんでしたが、一人一人起こして、別れを告げて行きましたよ。そういうのっていいですよね。」

温氏がもくろんだ通り、携職ゲストハウスは、大卒者の住人がともに学び、ともに就職活動のワザや面接の経験を共有し、ともに就職活動に参加していく「宿場」となっている。

携職ゲストハウスのホームページを開くと、レトロ感たっぷりの「革命」ポスターの上に、でかでかと「携職では、あなたは一人じゃない!」という標語が力強く書かれている。掲示欄にはさまざまな、就職活動のコツに関するリンクが貼られ、木製の二段ベッドや本棚など室内の様子を写真で載せている。ここでは、簡単な登録をすれば10元から30元のベッドの予約もサッとできてしまうほか、自分の簡単なプロフィールを入力すれば、関連の求人情報や紹介を受けられ、「人材仲介者」の親切な指導や推薦を受けることもできるのだ。

携職ゲストハウスに入ると、入口の上には「就職活動に行き詰ったら、とりあえずこちらに無料でお泊りください!」という宣伝文句が貼られている。二階建ての建物が4棟あり、簡易だが温かみのある二段ベッドが200床以上、また24時間温水の出る洗面所があり、室内にはテレビやエアコンなどの家電が完備されている。無料インターネット、コイン式洗濯機があり、専属スタッフがいて、管理や掃除もしてくれる。エントランス、廊下、宿舎の入り口にはカメラが設置されており、狭いながらも、必要な機能はすべてそろっている。

中庭には「携職掲示板」があり、学生たちがいろいろと書き込んでいる。「就職活動、チョーへこむし疲れる。オファーを待つのはバカみたいだ。もうお金が無くなる、すごい切り詰めてる・・・」「皆同じ、一人ぼっちの大学生同士のめぐり合い」等々。階段の通路のポスターには、「ポケットには2元しかないけど、心意気は500万元」という書き込みも。その他、直近の天気予報や、寒くなるので温かくするようにとの注意書き、またゲストハウス主催のバスケットボール大会の通知や、学生チームでの参加の募集が貼り出されている。ゲストハウスでは、クリーニングや自転車貸出しサービスも行っている。

ここでは、店長もスタッフも、働く者は皆卒業したばかりの者か、在学中の大学生である。忙しくなると、ゲストハウスは満員になる。湖南省の大学4年生の王雲は、携職ゲストハウスの宿舎の管理スタッフだ。ゲストハウスに来てまもなく、温氏にスカウトされ、宿舎管理の仕事を得た。試用期間の給料は、食事と宿泊込みで1ヶ月600元。王は、この美しい都市で、予定より早く就職できたことにとても満足している。「今は、大学生は就職活動のプレッシャーが大きいです。高望みすれば受からないし、低レベルの仕事には就きたくないしで、多くの人は仕事が見つかりません。」「携職ゲストハウス」では、彼は他の大学生と共に暮らしているので、同年代と一緒の生活で楽しみを分かち合える。温氏は、大学生は、一緒に生活し、交流できるこのような環境を好むという。彼も、大学生たちのためにこのような機会を与え、大学生から社会人となる過渡期に多くのサポートをすることに喜びを感じている。

逆境の中で見つけた新たなビジネスチャンス

これまで、温氏はさまざまな仕事に就いていた。文化普及会社の代表取締役、招商局の主任、テレビ局のプロデューサー、マーケティングプランの責任者など。メディア産業では寵児として、ビジネスマネージメントの世界ではやり手として、どこでも彼は素晴らしい業績を収めてきた。だがある日突然、このような、ビジネス上の付き合いに明け暮れる生活に嫌気がさし、発展性のある新しい分野の仕事を見つけ、それを続けて行きたいと思うようになり、大学生に目を付けた。2006年、温氏は自分で人材募集サイトを立ち上げたが、このサイトは激しい競争の中で失敗に終わってしまった。それまで温州に拠点を置いていた仕事を杭州に移し、新たに歩み始めた温氏にとっては、大きな挫折だった。

思い悩み、失望していた時、「如家(ホームイン)」「漢庭」などのビジネスホテルが国内で人気を増していることに目を向けた。価格が安く、サービスはしっかりしている。コストパフォーマンスの高い現代的なホテルの業態に魅力を感じる利用者はますます増えており、その利用者の多くは一般の旅行者や、中小企業のビジネスマンたちだ。一方で、全国で毎年、600万人以上の大卒者が生まれるが、そのうち50万人は卒業後半年以内に就職できていない。過去の既卒者を加えれば、1000万人以上の卒業者が就職活動を行っている。大学生が就職活動する際にかけている費用は年々上がっており、一人の大学生が大学を出て、別の都市に移り、宿泊費の問題すら解決できず、ましてや正確な求人情報を簡単に入手することなど話にもならないという現状だった。

温氏は考えた。就職活動する大学生向けにサービスを提供する場を作れないものだろうか?知らない土地での生活の心配をなくし、就職活動の負担を減らし、良い仕事を見つけるサポートをし、異郷にいても信頼して相談できるような、就職活動の拠点を作れないものだろうか?人材募集サービスとビジネスホテルの業務を一つにして、その中で自分独自の強みを生かせないだろうか?豊富なマネージメント経験とビジネスマインドを持つ温氏はビジネスチャンスを嗅ぎつけた。新卒者向けのゲストハウスを立ち上げ、学生寮タイプの管理方式で宿泊費を廉価に抑え、同時に大学生のために無料で就職活動や職業訓練の指導を行うことを計画したのである。

温氏がそのアイデアを周囲に語っても、支持は得られなかった。アイデアが斬新すぎて、国内では成功した例がないという人もいたし、大学生をサービスの対象とするならば、もっと低価格にしてビジネスホテルと競争しなければならず、利益が少なくなりすぎるという人もいた。

しかし、温氏の考えは違った。大学生は卒業後、結婚して家を買うまでに少なくとも5,6年の歳月を要するので、この間の住居、就職、起業、職業訓練等には、ビジネスの観点から考えれば莫大なビジネスチャンスがあると考えた。それに、大学生がいい仕事を見つけるのをサポートするということは、自己実現になるほか、社会の安定にもつながっていく。

卒業したばかりの大学生が最も必要としているのは、大学のキャンパスのような人との交流の場であり、宿舎の立地や設備への要求はそれほど高くない。比較的閑静な場所を選び、学生寮のような環境にすれば、彼らの需要を満たすことができ、またコストも大幅に下げることができる。それに、ベッドごとに定額を徴収するため、一部屋に6~8人が住むとなれば、合計のお金は普通のビジネスホテルと比べても大差ない。彼の言葉を借りれば、「大学生は雰囲気の中に住んでいる。」

周囲の支持を得られなかったため、温氏は自分でやることに決め、これまでに稼いだ資金の一部をゲストハウスの人件費、設備、建物などの初期投資に使った。低価格な居住環境を探し出すのには苦心した。当時は杭州に人脈もなかったため、すべて自分で一から始めた。努力は人を裏切らないとはよく言ったもので、新聞でやっと、学校教員用の宿舎を貸し出す広告が見つかった。学校周辺の閑静な環境で、雰囲気もよかったことからいっぺんに気に入り、事業を始めるのに理想的な場所だった。こうして、2008年7月、携職ゲストハウスは正式に営業を開始した。始めたばかりの頃は、知名度はあまり高くなかった。企業の支持と協力を得るため、そして住人である大学生に真に利便性の高い就職機会を提供するため、温氏は積極的に各企業に電話し、人材の推薦や職業訓練の連絡をした。それまで、杭州に事業基盤の無かった彼であるから、何度壁にぶつかったか知れない。

2008年末、全世界が不景気であったころ、大学生の就職活動も特に厳しいものとなり、携職ゲストハウスの若い住人達も、毎日落胆して帰ってくるようになり、温氏は焦った。2008年12月、携職は無料で一万床のベッドを就職活動中の大学生に提供するという一大キャンペーンを始め、毎日27床のベッドを無料で提供した。杭州の多くの人がネット上で宣伝してくれるのに時間はかからず、携職は外壁に巨大な宣伝の横断幕も掲げた。一時、杭州の就職BBS(電子掲示板)ではこの取り組みについて多くの書き込みがあった。

ほどなくして、携職のスタイルはメディアに取り上げられ、知名度が大幅に上がり、多くの人の支持を得ることになった。ゆっくりと、無料ベッドサービスは長期の公益サービスになりつつある。「初めて来る学生だったら、だれでも無料で一泊できますよ。」と温氏は語る。「一泊だけでもかまいません。」

学生にとって、落ち着ける場所を提供するだけでは現状改善にならず、就職することがもっとも重要なのだということを、温氏は非常にはっきりと理解している。携職ゲストハウスには、「人材仲介者」という特殊なスタッフが数名配置されている。毎日、温氏と勤勉な仲介者たちは、各方面の企業から最新の求人情報を取ってきて、企業のニーズに合致するよう、大学生らに応募の指導を行っていく。仲介者たちの目には、指導が必要なのは求職者だけではないと映っている。「企業の求人情報をサンプリングしてみれば、多くの情報が規範に則していないことがすぐにわかりますよ。」と温氏は語る。「彼らは、社会保険や住居の公共積立金の納入方法について明確にしていないのです。職位についても不明瞭で、待遇は平均レベルよりも低かったりする。これらの問題があるので、彼らの求人はなかなか容易なことにはなりません 」

このほか、温氏は新しいアイデアを大胆に進めている。例えば大学生らに替わって身上調書を管理し、無料で就職活動講座や職業訓練を行うなど。より多くの人が携職ゲストハウスを知ることになり、より多くの企業が携職ゲストハウスとの協力を始めている。

ビジネスと公益のWin-Winの関係

数年間の間に、携職ゲストハウスのスタイルは杭州市政府、浙江省商務庁、中国共産主義青年団中央委員会などの認可と支持を得るようになった。ビジネスの観点から見て、温氏は独自の利益獲得のスタイルを編み出したのだ。

「携職」のコンセプトは、大学生と手を携えて、ともに就職の活路を見いだすということだ。この会社は、「就職活動のための宿舎+就職活動のための職業訓練+就職活動のためのサービス」という新しいスタイルをつくり出した。このうち、住居の部分の収入は利用する大卒者から、そして人材サービスと職業訓練の部分は主に企業と政府の補助から得ている。その後、温氏は身上調書と戸籍の管理をサービスの中に含め、就職活動する大学生に対し、総合的なサービスを提供している。

実際、「携職」の社会的価値は、そのビジネス価値を大幅に上回っている。創業から数年の間に、携職の宿舎サービスの利用者はのべ16,000名を超え、入居率は83%、平均の滞在期間は8日から10日となっている。これまで、6,000名以上の大学生に仕事を紹介し、3,100名の大学生が就職したので、成功率は52%だ。大学生の就職活動の負担を減らすことを共同の目的とし、「大学生のために良い仕事を見つけること」を使命とし、「人材事業は国や国民のためになり、その功績は無限」を企業の価値理念としている。「住居+サービス」という携職スタイルは、大学生の抱える就職問題に対する、良い解決方法となっている。

次に、温氏は「携職」のスタイルを拡大しようと計画中だ。杭州地区では、「宿舎―職業訓練―推薦―身上調書管理」の一連のサービスをさらに深めようとしている。全国のその他の省、市では、「就職活動のための宿舎+人材仲介」を社会的企業の基本スタイルとしてコピーし、それぞれの都市の状況に応じて、その後のサービスの展開計画を策定していく。目標は、「携職スタイル」を各省都(南京、重慶など)や北京、上海などの都市に広げ、各都市に2~3軒のゲストハウスを建てることだ。目下、毎年3~5軒のゲストハウスを開くようにコントロールしている。

「今、中国工商銀行との協力を取り付けています。新卒者がローンで職業訓練を受けるためです。彼らは、就職してから給料で返済できます。そうやって職業訓練を受けて就職した人が、将来的には後に続く人たちにより多くの職場を提供することを願っています。」温氏は胸いっぱいの思いでゲストハウスの未来を語った。この未来は、夢を持つ若いゲストハウスの住人たちの未来が積み重なったものでもある。「携職」という小さな拠点で、温氏と大学生たちは、手を携えながらそれを織りなしていくことだろう。

文:沈君菡、王発財、欧陽洁

出典元:社会創業家 2012年3月号より編集・転載

http://www.npi.org.cn/uploads/magazines/npo/2_1331_124624.pdf

 

翻訳:三津間由佳

校正:棚田由紀子

翻訳者および校正者の所属:日中市民社会ネットワーク

 

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